お金は大事だよ?

 そうして名前もよく覚えていないパーティメンバーと別れた後で俺は山に向かった。

 別に修行を仕様なんて柄じゃない、魔石の鉱脈を探してのことだった。


「あれ? あれって……」


 洞窟があった、人の足跡がないのでおそらく未踏の地だろう、かすかな期待を持って洞窟へたいまつを持って入った。


「はぁ……『ライト』使えるのになあ……」


 一人で愚痴っていた、そう魔力さえあれば『ライト』の魔法で辺りを照らし出すことができるのだ。

 まーそんな無駄遣いする魔力がないんだけどねえ……


「なっ!?」


 俺は突然強い魔力の波にさらされた、なんだこれ?

 奥の方から漂ってくる魔力に誘われ俺は奥へ奥へと歩を進めた。


「これは……?」


 奥には魔方陣が描かれていた、そこからは無尽蔵に魔力が流れ出していた。


「一体誰がこんなものを……?」


 ひゅんと音がして俺の顔の横をとがった石が突っ切った。

 明らかに意図的なものだろう、モンスターがこの辺にいないのは確認済みだ、となると人間か?

 

 意図しない方向からとがった刃物が飛んできた、投げナイフか!?

 くそっ、さっきのは囮か!?

 なぜ俺は襲われているのか? そんなことはどうでもよく、ただ今は突然与えられた力による喜びに震えていた。


「ええと……あの……今の効きませんでしたか?」


 声のする方に『ファイアーボール』を打ち込む、とっておきのクズ魔石の一つを使う。


「ひえっ……あの……ごめんなさい! 許してください! 殺そうなんて思ってなかったんです! ただちょっとここを見なかったことにしていただきたいと」


 声のする方を見ると少女がぺたんと座り込んでいた、全力で打ち込んだわけではないので耐えられたのだろう。

 俺が少女をにらむとひぃぃ…と涙目になっているごく普通の少女がいた。

 そうして俺と少女の話し合いが始まった。


「まず君は誰? 俺はマティウス、姓は無い」


 姓が無い、要するに平民ということだ。


「私はフィール・スタインという者です、巻き込んでしまって本当にごめんなさい。少し事情があるんです……」


 なるほど、貴族っぽい雰囲気が漂っている、明らかに面倒事を抱えていそうな空気があるのでここは逃げの一手だ。


「そうか、気にしなくていい、幸いお互い怪我は無いしな、じゃあさようなら!」


 俺はそう言うと洞窟の入り口へ足を向ける。さっさと次のパーティ探さないとなぁ……

 がしっ

 俺のローブの裾ががっしり捕まれた、だめだこいつ、ぜってー面倒なやつだ!


「じゃあさようなら……」


 ぎゅー

 一行に離す気は無いらしい。


「あの、離して欲しいんですけど?」

「怪我……」

「え?」

「あなたの魔法で怪我をしました! だからあなたには私を助ける義務があります!」


 フィールが自分の太ももを指さして怪我を見せる、この際それ以外も見えてしまっていることは置いておいて……


「なんで「ファイアーボール」で切り傷がつくんだよ!?」


 どこからどう見ても火傷ではなかった、よく見ると近くに果物をむくのに使うようなナイフが置いてあった。


「あなたのせいで怪我をしました、私がそう喧伝すればあなたの社会的地位など紙のようなものですよ?」


 はぁ……どうも厄介事に巻き込まれたらしい。


「わかったよ、話は聞く、その前に……」


 俺はローブの懐から小さな小さな魔石を取り出す、いつだったかの仲間が退職金代わりにくれたものだ。このサイズでは良い値はつかないし、かといって取り出せる魔力は普通の魔法使いと同じくらい、要するに使い道がないのだ。


「プチヒール」


 小さな光が傷へとしみこんでいき、以前と変わらないであろう真っ白な太ももに戻った。


「できればこれでチャラって事には……」


 俺のローブを握る手の力は全く緩められなかった。


「私! 魔法が使いたいんです!」

「はぁ……?」


 気の抜けた返事しかできなかった、目の前の少女(フィール)は良いとこの出だろうし魔法が必要とされる場面がそれほどあるとも思えないんだけど……


「あなた、魔法が使えるんですか?」

「お金があれば」


 さらりと答えたが事実である、魔石という札束がなければ初級魔法すらまともに撃てないのが俺という人間だ。


「お金と魔法がどう関係あるんですか?」


 俺の評判はギルドに知れ渡っているので、フィールはおそらく俺の二つ名「札束魔道士」を知らないようだ。大変な悪名でもあるが時々物好きな金持ちが使用者の少ない魔法を使ってくれと頼み込んでくる、おかげでなんとか生活できていた。


「俺は魔石がないと何の魔法も撃てないの、だから今の回復魔法で今日は打ち止めだよ」


 それから俺の境遇についてさらりと語ったところ、彼女は目に涙を浮かべて同情してくれた。別に同情されるような境遇でもないと思うが好意にはとりあえず甘える主義なので口を挟むのはやめた。

「では、あなたは魔石を用意できれば自由に魔法が撃てるんですか?」

「ああ、つってもでかい魔法撃つにはかなり魔石を消費するからめったな事じゃ撃てないがな」

 最近大型魔法を撃ったのはいつになるだろう? そういえばこの辺の貴族が山の開発のために辺り一面を焼き払ってくれと頼んできたな、別に動物愛護主義者でもないので人の避難が住んだら「ファイアーウォール」で辺り一面を焼き尽くしたっけ。


「では私が報酬を出すので私専属の魔道士になっていただけませんか?」

「いや、だから俺が魔法を使うにはたくさんのお金が……」


ドスン


 鈍い音を立てて布袋が置かれた、フィールは早く中を見ろという顔をしていた。

 やれやれ、子供の小遣いで専属になんてなれるわけが……

 中にはキラキラ光る金貨や、金額部分が見たこともない桁になっている紙幣がぎっしりと詰まっていた。


「なります!」

 俺は欲望には忠実なのだった。

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