超高燃費魔道士、富豪と出会って成り上がる。「追放? 日常ですよ」

スカイレイク

コスパ最悪の魔道士

 タッタッタ

 俺は必死に魔物から逃げている、なんでこんな羽目になったかと言えば、あのクソパーティのせいだ。


「ほれ、魔石はやるからいつも通り固定砲台な。そのくらいしか役にたたねーんだからそれくらいはこなせよ」


 この世界は魔力があることが前提で成り立っている。つまり各の持っている魔力によって序列は決まる。

 そんな世界で俺の魔力はといえば……


「おい! 回復足りてないぞ! 真面目にやれマティウス!」

 適性があれば万法は使える、ただし適性があっても生まれながらの魔力の限界までしか魔法を使えない。


「ヒーリング!」


 俺はいつも通り治癒魔法を使って仲間の一人を治癒する。俺はすべての魔法の才能があったんだ。

 生まれたときは『神の子』だの『初めて見る天才』だのと言われおだてられて育ってきたわけだが、五歳を超えた当たりからぼろが出始めた。


 かしゃん


 台所でお皿が一枚割れた時のことだ。

「マティウス、ちょっとお皿を直してくれないかしら?」


 母さんは俺にそう頼んできた、思い返せばそれが原因だったのだろう。


「フィックス!」


 俺は初級修復術の魔法を唱えた、適性があれば誰でも使える程度の簡単な魔法だ。しかし……

 割れた皿の破片はピクリともしなかった、まちがいさがしのプロであってもなにも起きていないと判断するくらいになにも起きなかった。


「あれ? フィックス! フィックス!」


 何度唱えても破片は全く動かず、気まずい空気がキッチンを包んだ。

 数日後、俺は母さんに連れられ教会にやってきた、はじめは俺に適性を見いだした司祭様が間違えたのではないかと思われていた。

 司祭様はけだるそうに奥から出てきて「やあマティウスくん、元気かい?」などとなにも問題はなさそうに言った。


 母さんが『この子は本当に魔法が使えるんですか?』と司祭様にくってかかった、魔法が使えるかどうかで生活レベルに圧倒的な差が出るのだから当然だろう。

 司祭様は俺を、ふむ……、と好奇の目で見た後言った。


「なるほど、では精密検査をしてみましょうか」


 と相も変わらずやる気のなさそうな声で言った。

 俺は別室に連れて行かれ、なんだかよくわからない水晶や、液体、石のようなもの、その他諸々に触らせられた、しかしそのどれもで何かが起こることは決してなかった。


「もしや……」


 司祭様が気まずそうに俺を見ながら言った。


「最後の検査じゃ、魔力量を量ってみよう」


 俺はさらに別室に連れて行かれなんだかよくわからない棒状のものにキラキラした金属のようなものがたまっている装置の元に連れてこられた。


「このしたの丸くなっている部分に魔力を流すとじゃな……」


 そう言って司祭様はその計測であろうものの棒の根元の丸くなっている部分に触れた。

 とたんに金属のようなものが棒の先の方まで伸びていった。


「とまあ、こんな風に魔力に応じて伸びるのじゃよ」


 そう言って俺の手を取り、計測部に押し当てた。


「「……」」


 気まずい沈黙が流れた、金属はピクリとも動かず、棒の下部に溜まったままだった。

 そうしてしばらく考えたのだろう、間が開いてから、「お母さんを呼んできてくれるかの?」と司祭様は渋い顔をして言った。

 母親が不安げに部屋に入ってくると司祭様は簡単に事実を告げた。


「まーその、なんですな……この子に適性はあるんですよ……『適正だけ』は……」


「でもこの子ったら初級魔法すらも未だに使えないんですよ? できる子は三歳から使えるような初歩的な魔法をですよ?」


 司祭様はもごもごと言いよどんでから問題点を告げた。


「この子には適性はあっても、魔力が空なんじゃよ、どんなすごい魔法でも魔力があれば使える器なんじゃが。……もともとの魔力がわずかばかりもないようでの……普通五歳にもなれば多少の魔力は持つものなんじゃが……」


 とまあこんな風にして俺の人生はバラ色からドブの色に変わっていった。


「マティウス! グズグズせずにさっさと歩け! 転移魔法も使えないんだから荷物ぐらいは運んでもらうぞ!」


 そういうわけで肉体労働に精を出していった、魔力の方は相変わらず皆無のまま育っていった。

 そして十五歳の春……


「ようやくあんたも一人前ね、全く手がかかるんだから」


 なにを言っているのかよく分からなかった。


「え? なんのこと?」


「この国では十五で成人でしょう? もうあんたみたいな穀潰しを養う義理もないのよ? 分かったらさっさと荷物をまとめて出て行きなさい」


 冷酷な宣言だった、一応うちは魔道士の家系であり、代々魔法が使えるのが当たり前だった。詰まるところは落ちこぼれはいらないということだ。


「マティウス! さっさとあの忌々しいイカにライトニングを打ち込め!」

「はいはいっと……『ライトニングボルト!』」


 俺の一撃で巨大なイカのクラーケンは息絶えた。

 なぜ魔力がない俺が魔法を使えるかといえば最近発見された魔石と呼ばれる鉱物のおかげだ。

 この魔石には魔力がこもっておりこれを利用して魔力がなくても魔法を放つことができる、俺みたいな人間にとってはありがたい話だ。

 しかしそれにも問題があり……


「すまないマティウス、パーティから抜けてくれないか……君は非常に心強い味方ではあるのだが……その……僕らにも財政状態というものがあってね……」


「分かってるよ、気にすんな」


 名前も覚えていないパーティメンバーから追い出されるのも数え切れないほど経験した。

 理由は一つ、魔石は馬鹿みたいに高いのだ。

 それ故、俺が全魔法を使えると分かっていても、現実的には予算の許す範囲でしか魔法を使えない。


 そして今回は明らかに使用した魔石の値段の方が漁協から出る報酬よりも高かった。

 俺は何度目か忘れた追い出しを受けながら考えた。

「魔石……安くなんないかなあ……」

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