始まりー3
結構長い名前だな。そう一瞬思った連十だったが、すぐに話をつづけた。
「へぇ。じゃあ、ミオさんでいいですか?」
少女―――ミオは小さくうなずいた。すると会話が続かず、あたりが静まってしまう。
(きっ、気まずい。な、なんか話題は!?)
しかし何も浮かばない。
(本当になんかないか!?)
しかし何も浮かばない。
(くそっ!!)
女性と接することが、この17年間なかった少年は戸惑いを隠せないでオロオロとしてしまう。
母もおらず父もいない自分を育ててくれた師匠は確かに女だったが、余りにも品性のかけらもない人だったため、女性に対する免疫が全くなかった。
頭の中に、3つ選択を出す。
→1、逃げる。
2,無理やりにでも話を続ける。
3,寝る。
(3を選ぼう。この人にも事情があるだろうし、それに、こんな知らない男とは話したくないだろうし。)
そう思い、連十は、口を開く。
「じゃ、じゃあ明日の朝までいるといいよ。俺は寝るね」
「えっ」
するとミオは、驚いたように目を見開いた。
「き、聞かないんですか?私が何者か」
「……なんで?」
連十は、思わずそう返してしまった。確かに、空から降ってきたりと、おかしな少女ではあったが、そんなものはこの世界では日常と化しているのだから。
「君だっていろいろ事情あるんでしょう?だったら無理に聞いても……」
連十は、苦笑いをしながらミオを見た。そのミオは、
「―――ブッ!!!」
吹き出してしまっていた。目に涙を浮かべ、プルプルと震えている。
「えっ?」
頭の中に?・?・?と浮かんでしまった。このくらいの少女にウけるようなとこがあったんだろうか?
「ど、どうして笑ってるの??」
少し、いや、だいぶ恥ずかしくなって、顔を真っ赤にした連十は、ミオに問いかけた。
すると、ミオは、笑いをこらえながら、口を開く。
「すいません。少し安心しちゃって」
そう言って、安堵の息を吐いた。目元をぬぐい、言葉を紡ぎだす。
「……私、これまでほとんど人と話したことがなくてです……ね。私みたいな、こんな変な奴だと、物凄く自分のことを問われちゃうんじゃないかと」
そう言って、深く、深く安心した笑顔。
「でも、こんな不気味な私のことを重んじてくださって、―――」
「ありがとうございます!」
満面の笑みを向けられた連十はかたまってしまった。
(まっ、眩しいよ!!眩しすぎる!!この子聖女かなんかか!?)
圧倒的な純粋さに心が悶えた連十だが、悟られないように笑顔を作った。
「ど、どういたしまして……。そ、それじゃぁ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい。」
そんあ照れくさい感じで、連十は、自分の寝床に向かうのだった。
**************
時刻は午後11時。早く寝すぎたせいか連十は目を覚ましてしまった。いつもは朝までぐっすりだが、
「……」
真横には絶世の美少女の寝顔があるのだ。こんなもの、一般的な男子には、天国でしかないだろう。
しかし、この連十という男、女性に対する経験がない。
しかも母親もいないのだから、女性がどういう存在なのかも、知識が赤子に近かった。そんな奴が、落ち着いて寝られるわけもない。そして、
(何でこんな近くで寝るの!?)
そんな感じで動揺を隠しきれていなかった。まじかで初めて見る女性の顔に、顔を真っ赤にしながら、心の中で考えていた。
(じょ、女性というのは、本来こんなにもいい香りがするものなのか?髪もこんなに長いし、どうやって手入れしてるんだ。しかも、サラサラだし。これが本物!?うちの師匠は、一体……)
そんなことで、頭をフル活用してしまっていた。
「んっ……」
ふとそんなかわいらしい声が聞こえた。連十は一体何事だと振り返ると、目の前に豊かな花園が……。
「だらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!??????」
そう言って、寝床から飛び出した。流石に連十も女性の胸のことぐらいは知っているのである。
今離れている、師匠の顔が頭に浮かぶ。
『いいか連、決して女性の胸を許可なく触るなよ。死ぬぞ』
初めて師匠の教訓が役に立った瞬間だった。
「眠るのどうしよう」
取り敢えず、寝床を考えよう。連十は、考えを切り替えた。
**************
結論を言おう。全く眠れなかった。
あの後、俺は、寝床の確保をしようといろいろと考えていたが、いい案が見つからず……築いたら朝になっていた。
鳥が鳴き、朝日が木の葉の間から降り注ぐ幻想的な森の景色に、一色の黒色が混ざっている。
それは、勿論―――隈だらけの俺である。
「はぁぁぁぁぁ~~」
一睡もできていないので、それに応じた溜息を吐く。眼には、光が消えかかっているだろう。もう人を殺せそうな顔であろうと自覚している。
そして、その元凶の少女は、まだ寝ている。今は、午前七時頃。そろそろ起きるころだろう。
…………。
…………。
…………。
―――5時間後。
「……いや、遅すぎだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
時刻は、もう昼過ぎ。一向に起きる気配がない。
1時間ぐらいの時は、
(まぁ、疲れてるだろうし)
と思い、起こさなかった。
2時間ぐらいでは、
(空から落ちてくるぐらいだから、何かとんでもないことに巻き込まれたんだろう)
というように、時間は過ぎ去っていき、現在に至るのである。
「俺が甘かったな……」
そんな小さな後悔を覚えていると、自分のおなかが鳴る。そういえば、そろそろ昼飯の時間だ。
「じゃあ、狩りにでも行くか。……この時期だったら、あいつが―――」
すると突然真横で足音、とても大きな音。足音。
「あぁ、ちょうどよかった。今お前の事言ってたんだよ。カルキノス。」
カルキノス。それは、カニの姿をした異形の怪物。ギリシア神話に登場する生物の名を関している。
え?なぜそんな怪物がいるのかだって?説明するには、200年前にさかのぼることになる。
その日、ある一つの世界と現実世界が合わさり一つになった。その世界の名は、【天界】という、隔絶された異次元に存在していた、異形が住み着いた世界である。この事件の事を、【天との楔の日】という。この世界には、未知がいくつもあったが、特に現実世界に影響を及ぼした未知は2つある。
一つは、『イフ』と呼ばれる怪物である。こちらの世界で、神話の中の幻獣・怪物などを模した姿をした生物。それが『イフ』である。ちなみに、今、連十が相対しているカルキノスも『イフ』だ。
そしてもう一つが、人類よりもはるかに優れた力を持つ異界の者、その名を―――
『ギシャアァァァァァァァァァァァァ』
カルキノスが突然、巨大な自分のはさみを投擲してきた。こいつの習性は、自分よりも強い者に対してこのようにはさみ投げて隙を作り、逃げようとすることだ。
「考え事してる最中は、攻撃してほしくない―――なっ!!」
俺は、近くにあった木の上へ飛びよける。そして、ポケットから携帯端末である《ゼロ》を取り出す。これは、現代の最先端の携帯だ。それを見る。画面には赤い点が一つ。
「よかった。まだ起きてないんだな」
それは、昨日ミオさんにつけた発信機の信号だ。幸いにも起きてこちらには来ていないようだ。
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