第127話 野獣の森横の惨劇その2


「みみっくちゃん、ちょっと訊いていいっ」

「何です、お姉さま。お姉さまにならみみっくちゃん何でもお教えしますですよ。

 好きな食べ物でも、お気に入りのスイーツでも」


「木魔法を使うのって…」


ならタマモちゃん、お願いっ。


巨人が石斧を振る。

ケガをしている。

背中の鱗からは血を流してる。

足もボロボロ、傷だらけだがちゃんと立っている。

腕にも血が出てる箇所が有るモノの。

巨人はまだ弱った風情では無い。


WWOOOOO!!

吠え声を上げ、タマモを狙う。

素早く逃げるタマモ。

横へとドンドン逃げる。

巨人は追いかける。

足で踏みつぶそうとする。


木で出来た舞台。

舞台のハジの方まで移動した巨人。

今だっ。

ケロ子は跳ぶ。

目標は巨人の右肩。

5M以上ある巨人。

自分の身長以上有るその高さを一気に跳びあがる。


WOOO!

ナンダキサマ。

そんな風に巨人が右手で払う。

その巨大な手を避けて左肩へ。

左肩に手を突いて、全身のバネを込める。

蹴り。

全身での回し蹴りを叩きこむ。

巨人の後頭部へ。


巨人は崩れ落ちた。

ブラックアウト。

意識を失い倒れる。

舞台の外、土の地面へと。


この間にタコ殴り。

ケロ子は空中からの踏みつけ蹴り。

タマモは斧刃でザクザク。

ハチ子は槍を連続で突き刺す。

みみっくちゃんは黒い笑顔。

えいっ。

巨人の顔をハチ美が狙いやすい向きに。

右の瞼を両手で無理やり開ける。

ハチ美ちゃんも黒い笑顔。

ヒュッ、ヒュッ。

矢が飛んでいく。

巨人の右目に矢が突き刺さる。


意識を失ってる巨人。

意識を失っていてもさすがに反応した。

ジタバタッ。

左目に続き、右目も失ったのだ。


少し可哀そうっ。

ちょっと同情してしまうケロ子だ。


巨人が暴れる。

意識は回復した様子だが、視力を失った。

見えないまま、辺りを斧で薙ぎ払う。

デタラメに振り回してるだけだが、巨大な斧。

簡単には近づけない。


今だ、ここが使う時。

タマモが“妖狐”少女が天を仰ぐ。

白い髪の間から金色の瞳が煌めく。

その咽喉から響き渡る。


「クォーーン、クゥゥウオォォーーーーン!」


少女の体から出るとは思えないような音量。

『マヒの遠吠え』

巨人の叫び声を切り裂く。

遠吠えが周りの空間を支配する。


WOO!WOO!WWOOOOOO!

テメェ、コラ、チカヅクンジャネエ。

そんなカンジで暴れていた巨人。

巨人が動きを止める。

斧を持ったまま時が止まったよう。

ピクリとも動かない。


「ナイスだよっ、タマモちゃんっ」


「よくやった、タマモ」

「よくやったのです、タマモ」


この間にみんなしてまたタコ殴り。


「タマモ、疲れた気がする。

 これ以上スキルが使えない。

 そんなカンジがする」


タマモちゃんは少し疲れた雰囲気。

でも斧を振るう手は休めない。

よし、ケロ子もっ。

跳んでは巨人を蹴りつけるのを繰り返す。

体重が乗った踏みつけ。

見た目以上にダメージを与えるハズっ。


「また巨人が動き出したら、みみっくちゃん『眠りの胞子』使います。

 多分これで打ち止め。みみっくちゃん、魔力切れですよ。それ以上魔法は使えないです」


「『眠りの胞子』が切れたら、私が『気絶の矢』だな。

 私も同じだ。それで魔力は終わり。それ以上は使えないと思う」


みみっくちゃん、ハチ美ちゃんが言う。

ならそこまでに一気に攻撃。

巨人を完全に倒すっ。

そうしないと又回復してしまうっ。


「分かった、それまでに倒すんだな。

 しかし、このデカブツ一体どれだけタフなんだ。

 全員でこれだけ攻撃していると言うのに」


ハチ子ちゃんが巨人を見ながら言う。

確かに。

巨人はいろんなところケガしてる。

胸や腹からは血が出てる。

両目は矢が刺さってる。

足も何度も切り付けられている。

なのにっ。

息も絶え絶え、あと少しで死ぬ。

そんな気があまりしない。


くっ。

とにかく討つっ。

ケガをしてるのは確か。

ダメージを受けてるのは間違いないっ。

今は連続で攻撃するっ。

ケロ子はそれだけを考える。


「うりゃうりゃうりゃうりゃっりゃりゃりゃりゃりゃーっ」

連続で掌底を叩きこむ。

巨人の顎を打つ。

アゴの骨は固い。

拳で打っていたら、こちらの拳も参ってしまう。

掌の付け根で打つ。

この方が手を痛めない。

ケロ子は巨人の胸に馬乗り。

顎をを連続で打つ。


「さすがです、ケロ子お姉さま。掌底で打つと、拳で打つより相手の内部に響くダメージを与えると言います。

 アゴを打てば当然顔の内部、脳へと衝撃は響きます。脳を狙うとはさすがみみっくちゃんのお姉さま、黒いです。ダークですよ。真っ黒な攻撃です」


ええっ。

そんなつもりないよっ。

と思いつつ、喋ってる暇はない。

これが効くならっ。

「ハッハッハッハッハァーッハッハッハッハッ」

「セイッセイッセイッセイッセイッセイッセイッセイッ」

打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。

連続で顎を掌底で打ち続けるっ。




帝国兵士は混乱している。

進軍してる横から魔獣が溢れ出してきたのだ。


「グワアアアアッ!!」

恐ろしいバケモノが吠え声を上げる。


「ウワァァァァ」

「逃げる、俺は逃げるぞ。


「どけ、どけよ」

「バケモノが来るじゃねーか」


帝国兵士は我先にと逃げ出す。

彼等を笑う事は出来ないだろう。

何故なら相手は、人間を越えるサイズ。

二つの首を持ち、四つの腕で襲い掛かる。

『野獣の森』最強クラス。

悪夢の中から這い出たような外見。

“双頭熊”であった。


「弓だ、弓」

「弓兵ども、後ろから全員で打ってなんとかしろ」


相手は3メートルは有る巨大魔獣。

近付きたくはない。

だが弓ならば。


矢が放たれる。

一斉に魔獣に突き刺さる矢。

魔獣は右手で払いのけるが。

胴体にも突き刺さる。


よし、この調子だ。

ドンドン撃て。

なんとか混乱から立ち直る兵士達。

しかし。


「グワアアアアッ!!ウグゥワアアアアァッ!!!ガァアアアアアアアア!!!!」


魔獣が『咆哮』を上げる。

兵士達が総崩れになる。

全員がパニックになっていた。


「助けてくれ!」

「死ぬ、殺される、バケモノが来る」


「いやだいやだ、いやだーっ」

「コワイコワイ、コワイーッ」


全員が逃げ出す。

蹲って動けない者もいる。

パニックに陥った者は蹲る兵士を踏みつけて逃げていく。


抵抗の無くなった兵士達。

“双頭熊”は悠々と動き出す。

殺戮が始まろうとしていた。



下士官は逃げている。

四人の下士官の一人。

ムゲンを嘲笑い、倒れて行ったウチの一人。

運よく逃げ出した下士官。


彼は首尾よく逃げおおせた。

“双頭熊”を見た途端逃げたのだ。

何故俺があんな恐ろしいバケモノと戦わなきゃいけない。

戦うのは兵士どもの役目。

兵士達が逃げないよう、戦場へ蹴り出すのが自分の役目だ。


父は良く言っていた。

彼は代々続く貴族の家系、軍人になる者が多い。

いいか。

一般兵どもは貴族じゃない。

帝国の為に戦う。

そんな意味を理解しないアホウどもばかりだ。

奴らは金のために兵士になった卑しい連中だ。

すぐに楽をして逃げ出す事ばかり考える。

そいつらを一人前の戦力にする事がお前の仕事だ。

遠慮する事は無い。

逃げ出すヤツは蹴り上げろ。

2,3人殺してもかまわん。

見せしめの為だからな。

お前はまだ若い。

血が滾って前線で戦いたくなる事も有るだろう。

だが、我慢しろ。

それは一般兵の役目だ。

後ろから奴らを監視する。

それが我らの為すべきことだ。


父の言う通り。

前線に立とうとした連中はやられてしまった。

死んでるかどうかは分からなかったが。

身動き取れなくなっていた。

今頃は生きていないだろう。

父の言葉が有ったから、自分はすぐ後方へ下がった。

兵士達を差し向けた。

だから生きているのだ。


見れば今も兵士達は逃げようとしている。


「コラ!貴様ら戦わんか。

 帝国兵士だろう」


「しかし、軍は総崩れです」

「士官殿、これはどう見ても非常事態です」


「魔獣が何体いるのか分かりません」

「一度ベオグレイドまで戻って 態勢を整えましょう」


「上官に指図する気か。

 いいから魔獣と戦え。

 キサマラはそれで給料を貰ってるんだ」


「そんなに言うならアンタが戦え」

「死んだら給料も何もあるか」


兵士達は逃げていく。

クソッ。

役割というモノを理解しないバカどもめ。


自分も逃げよう。

ムラード大佐の所まで行く。

大佐の周辺には歴戦の兵士達が配備されてる。

こんなバカどもとは違う筈だ。


COCK-A-DOODLE-DOO。

なんだ。

騒がしい音。

逃げようとしている方向からけたたましい音が聞こえるのだ。

兵士が立ち止まっている。

先程の口答えをしたバカ。

そいつらが立ち止まっているのだ。


「どうした、戦う気になったか」


士官は兵士の後ろから声をかける。

しかし兵士は答えない。

いや答える事が出来ないのだ。

兵士の顔。

軍服から出た顔が肌の色をしていない。

士官は兵士の前に回り込む。


「こっ、これは!」


兵士の顔は石で出来ていた。

他の兵士達を見回す。


全員、肌が、顔が、軍服から出た手が人間の肌ではない。

石だ。

全ての兵士が石で出来た彫刻。

下士官はへたり込む。

俺は悪夢でも見ているのか。


何かの気配。

動く物の気配を感じて振り返る。

そこには。


鶏冠がある。

どこを見ているか分からない鳥類の目玉。

嘴が突き出てる。

鶏に似た顔。

しかし。

鶏より遥かに大きい。


「グワッ、アアアァァ」


下士官は跳ね起き逃げ出す。

這うように巨大な鶏から離れる。

後ろから息。

巨大な鶏から息を吹きかけられた気がする。


「ハァッ、ハッ、ハァッ」


少しでも魔獣から離れようとする。

目の前には木々。

森の方向へ逃げてしまったのか。

方向をずらして。

ベオグレイドはどっちだ。

左、左方向のハズだ。

だが。

体が動かない。

足が、手が意志通りに上手く動かないのだ。

手が。

服から出た自分の手が。

人間の肌の色をしていない。


「オッ、うぉぉぉぉぉぉ」


両手を擦り合わせようとする。

既にほとんど石と化した腕。

内側はほんの少しピンク色が残ってる。

石化が遅くならないか。

“蛇雄鶏”コカトリス

聞いた事が有る。

石化の呪いを使うと言う魔獣。

あれか。

あの巨大な鶏がそれだったのか。


では自分は。

俺は石になってしまうのか。

全身石になって身動き取れずに一生を終える。

いやだ。

いやだ。

そんなのはいやだ。

そんなのは一般兵士の役目だろ。

俺は貴族だ。

上等な存在なんだ。

俺がそんな目に遭うはずが無い。

しかし。

両手が石になる。

手を見ていた顔。

自分の顔の向きが自由に変えられない。

首が石になりつつあるのだ。


いやだ。

止めてくれ。

石になるのだけはイヤだ。

誰か。

誰でもいい。

助けてくれ。


彼の願いは叶えられた。

彼が這っていた後ろの森。

木々が、その光景がズレる。

木々に見えていたものが動き出す。


全く気が付かない下士官。

“森林熊”

その姿は木々に酷似し見分けが付かない。

魔獣の一撃が下士官の首をへし折る。

下士官は一瞬で絶命する。

石になるのだけはイヤだ。

その願いは叶えられた。



【CM】

くろの小説、宣伝です。

CMが有って、次回予告が有るっていいじゃんみたいな。

『ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221149439173

『ゾンまほ』は一話千文字程度、毎日更新に挑戦中

『クズ…ってみた』の更新は土、日、水曜の週3回としました。詳しくは近況ノートをお読みください。


【次回予告】

『鋼鉄の魔窟』。初めて聞く言葉だが、予想は付く。あの時。ティアマーと一緒に見たのだ。『野獣の森』ともう一つの迷宮。山から地下へと続く迷宮。それが『鋼鉄の魔窟』ティアマーは距離が近すぎてぶつかってると言っていた。

ナメクジ、蛞蝓は植物に悪影響を与える。植物の茎を這いまわり擦り減らす。柔らかい新芽や花は食べてしまう。“鋼鉄蛞蝓”が『野獣の森』の木々を這う。それがおそらくは森にダメージを与えてる。本来、『野獣の森』に居るべきで無い魔獣。なのにそこら中に“鋼鉄蛞蝓”はいた。

「フワワさん。『野獣の森』がこれ以上弱ったらどうなるの」

次回、ショウマ、考察する。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る