第128話 死闘、森の巨人その1

「ハァハァ、まだ死なないのか。

 いくら巨人とはいえタフ過ぎないか」

「フゥフゥ、まだ死なないなんて。

 いくら巨人とはいえタフ過ぎます」


聖戦士・槍ハチ子と聖戦士・弓ハチ美だ。

従魔少女達は“森の巨人”フンババと戦っている。

巨大な魔獣。

体力がハンパではない。

全員総がかりで体力を削り切ろうとしているのだ。


ハチ子が槍で刺す。

巨人はハチ美の『気絶の矢』で気を失っている。

殴り放題、斬り放題。

しかしもうハチ子に元気は無い。

これまで必死で槍を振るってきたのだ。

もう限界。

腕が重い。

槍に全身の腕の、腰の筋肉を乗せて突き刺す。

そんな力がもう無い。

槍を巨人の腿の上に。

腕の力を抜くと槍が重さで落ちていく。

巨人に槍の刃先が刺さる。

そんな状態。


ハチ美は弓矢を射る。

矢そのものは軽く見えるかもしれない。

だが、弓の弦を引き絞る。

集中して相手を狙う。

弓矢は体力も気力も使う。

既にハチ美も限界。

ハチ子に並んで隣で矢を巨人に刺す。

もう弓を引き絞る力は無い。

矢を持って、巨人に突き刺す。

直接矢じりでザクザクと刺していく。


「うぅー、タマモもう疲れた」


斧戦士にして忍者タマモももう限界。

ハルバードを持ち上げ、斧刃で巨人の肩を打つ。

長い柄の部分に斧の両刃が有り、先端は鋭い槍状の武器。

振るうだけでも体力を使う。

タマモもハチ子と同様。

ハルバードを持ちあげては力を抜く。

斧の重さで切り込む。


「タマモちゃん、『マヒの遠吠え』はまだ使えますか?」


みみっくちゃんが訊く。

従魔少女達は巨人を行動不能にして戦っている。

ケロ子が延髄蹴り、タマモが『マヒの遠吠え』。

続いてみみっくちゃんの『眠りの胞子』ハチ美の『気絶の矢』

みみっくちゃんとハチ美はもう限界。

これ以上状態異常は使えない。


「タマモもうダメ。

 さっきので限界」


タマモは状態異常攻撃を使ったのは一回だけ。

しかし既にスキルを使っている。

斧戦士のスキル『猛り打ち』。

忍者のスキル『分身』。

もう魔力に余裕は無い。


「ハッハッハッハッ」

ケロ子は打つ。

巨人のアゴを掌底で。

打つ。

打つ。

打つ。

もう『身体強化』の効果は終わっている。

ケロ子の得意技、跳んでからの蹴りを喰わせる余力が無い。

巨人の胸元に座り込んで腕で打つ。

最小限の動きで顎を打ち続ける。


しかし。

巨人が立ち上がろうとする。

周囲の従魔少女達を撥ね退け動き出す。

状態異常の効力が切れた。


巨人は無傷では無い。

ボロボロ。

満身創痍と言っていい。

右腕は傷つき、まともに動かない。

両足も至る所に刺し傷が有る。

血が流れているのだ。

アバラ骨が折れているのか。

腹は変色し胸元は歪む。

背中の鱗は所々剥がれている。


WWOOOOO!!

しかし。

まだ吼える。

吠え声を上げる力が有る。


巨人に撥ね退けられ、ハチ子が倒れている。

起き上がろうともがく。

パッと跳ね起きる体力が残っていない。

槍を杖の様に使いながら、ギリギリと立ち上がる。

無理矢理自分の身体を持ち上げる。


巨人が石斧を振り回す。

巨人だってボロボロ。

勢いよく振るうパワーは無いが。

斧の重さで振り回すだけで破壊力は絶大。

ハチ子はまともに避けられない。


タマモが走る。

ハチ子を押し倒す。

ハチ子とタマモの上を斧が通り過ぎていく。


くっ。

ケロ子は歯噛みする。

もう状態異常の力は使えない。

巨人もボロボロだけどみんなもボロボロ。

巨人の攻撃を避ける元気が残ってない。

どこかで喰らってしまったらっ。


みみっくちゃんは見上げる。

目の前にはデカイ巨人。

5、6メートルは有る

普通の人間の3倍サイズ。

体中傷だらけでは有るが。

後一発で倒せる、そんなフンイキでは無い。

マダマダオレハマイラネエ。

そんな風なのだ。


巨人が天を仰ぐ。

WOOOO!WOOOONWOOOOON!


ああ。

回復してしまう。

少女達に絶望感が広がる。

もうみんなスキルは使い果たした。

これだけ攻撃して倒せないなら。

そこで回復してしまうのなら。

駄目。

もう無理だ。

そんな気分が広がる。


「待つです。巨人を見るですよ。アイツ回復出来てないですよ」


少女達は巨人を見上げる。

巨人が天を仰いで祈るように叫ぶ。

血が止まる、剥がれた鱗が戻る、傷が消える。

今までだったらハッキリわかるレベルで回復していた。

それが今は。

もしかしたら、少し回復してるのかもしれない。

見て分からない、判別が付かない程度。


「ケロ子お姉さま、ナイスですよ」

「みみっくちゃんのおかげだよっ」


「どういう事だ?」

「どういう事です?」


「木属性の魔法です。巨人の回復はおそらく木属性の魔法なんですよ。

 みみっくちゃんも木属性魔法使うです。そしてその効果は多分森の中、木々に近くに居る方が効果が上がるんです。

 村の中で練習するより、森に入って木魔法使う方がパワーが上がるんです。多分自分の魔力だけじゃない、植物や木々の力を借りてるんです。

 あの巨人も一緒でしょう。あの戦っていた舞台は木で出来ています。あの舞台に乗っていると木属性の効果が上がる。

 効果の上がった回復魔法で今まで回復していたんです」



なるほど。

ショウマは納得する。

空間に映し出されていた映像で従魔少女達と巨人の戦いを見ていた。


巨人はデカイ。

おそらく途方もない体力。

従魔少女全員が倒しても削り切れない。

少女達は知らないが。

「そう、木属性のランク3『森の息吹』よ。

 全員が少し体力が回復する。それも数分間回復し続けるの」

“森の精霊”フワワはそう言っていた。

少し体力が回復する?

明らかにたくさん回復してるよ。

おかしくない?

そう感じていたのだ。

場所。

木で出来た舞台で戦っている。

そのブースト効果。


よし、回復の威力は減らした。

でもこれからどうする。

まだ巨人は一発、二発じゃ退治出来そうにない。


「ねぇ、フワワさん。

 ここから僕、巨人に魔法で攻撃できないかな」


あれフワワさん?

さっきまで隣で一緒に映像覗き込んでいたのに。

見るとフワワさんは倒れている。

寝転んで上半身だけ起こす。


「無理よ。

 空間が離れてる。

 あそこは『野獣の森』でも階層が分かれてるわ」


「大丈夫?

 本当に具合悪そうだよ」


「本当に悪いの。

 “鋼鉄蛞蝓”にずっとやられていたし。

 この間の“金環形邪蟲”メタルワームもダメ押しになったわ」


「?」


「あの子達、『野獣の森』の子じゃないわ。

 『鋼鉄の魔窟』の子達。

 あれに暴れられると『野獣の森』そのものがおかしくなる」


「『鋼鉄の魔窟』もケツァルコアトルも大変だわ。

 “鋼鉄蛞蝓”くらいならいいかと思って放置してたのがまずかった。

 もう森そのものがボロボロなの」


ショウマは考える。

『鋼鉄の魔窟』。初めて聞く言葉だが、予想は付く。あの時。ティアマーと一緒に見たのだ。『野獣の森』ともう一つの迷宮。山から地下へと続く迷宮。それが『鋼鉄の魔窟』ティアマーは距離が近すぎてぶつかってると言っていた。

ナメクジ、蛞蝓は植物に悪影響を与える。植物の茎を這いまわり擦り減らす。柔らかい新芽や花は食べてしまう。“鋼鉄蛞蝓”が『野獣の森』の木々を這う。それがおそらくは森にダメージを与えてる。本来、『野獣の森』に居るべきで無い魔獣。なのにそこら中に“鋼鉄蛞蝓”はいた。

あれは『鋼鉄の魔窟』からの妨害。近付き過ぎて悪影響を与えてる別の迷宮からの攻撃。“金環形邪蟲”。メタルワームも『野獣の森』の魔獣じゃないと言う。それを呼び出していた女性。蛇のお面を付けた女性。蛇お面女とフワワさんはケンカしていた。あの女性は…。


どうすると良い。解決の筋道は。このまま『野獣の森』が弱り続けるとどうなる。野獣の森』が無くなって、『鋼鉄の魔窟』が残る。それも有る意味、自然の摂理なのかもしれない。

木は朽ちる事も有る。環境だって変化する。木が育ちにくい環境になってしまった。木が無くなってその分別の生物が生きる。そういう事も有るだろう。そして又別の場所に木は生えるのだ。


「フワワさん。『野獣の森』がこれ以上弱ったらどうなるの」

「迷宮の形を取ってられない。

 管理者の私が存在できなくなる。

 『野獣の森』が無くなるわ。

 今『野獣の森』にいる膨大な数の魔獣。

 それは全て解き放たれる。

 そこら中に魔獣が溢れるわ」


魔獣が解き放たれる。それは。映像を見る。帝国軍が魔獣に襲われている。

兵士達は魔獣と戦うのに慣れていない。被害者が次々出ている。一応は戦闘訓練をしている兵士達。それでも被害が出ている。森がボロボロで森のカベから這い出てしまってる魔獣達。そんなのは『野獣の森』の魔獣のほんの一部。これ以上の魔獣が一斉に解き放たれる。


ショウマは考察する。

迷宮とは。魔獣とは。迷宮から魔獣が産まれる。その様にも見える。

しかし見方を変えると魔獣は迷宮の中に閉じ込められている。人間を襲う魔獣を迷宮と言う檻に捕らえている。その様にも見えないか。


しかし。

考察は続かない。

何故なら。

従魔少女達が戦っている。

森の巨人と戦っている。

ショウマの大事な少女達が危機を迎えているのだ。



タマモは巨人の足に噛みつく。

ハルバードを振るうのだって力が必要。

ハチ子は槍で刺す。

無理矢理持ち上げて、巨人の足の甲へ。

ケロ子は足を蹴り飛ばす。

もうジャンプして頭を蹴るほど元気は無い。

体重を乗せて斜め下へ蹴り下ろすような蹴り。

巨人がバランスを崩す。

足元に居る少女に向かって斧を振るう。

巨人は両目をやられてる。

敵を正確に確認は出来ない。

適当に薙ぎ払う。

タマモは避けた。

ついでにハチ子も連れて斧の軌道から逃げる。

だけど。

ハチ美。

遠方から弓矢で撃っていたハチ美。

巨人は斧を振り回した。

斧の刃先が届いてしまったのだ。

ハチ美が吹っ飛ばされる。

直撃を喰らった訳では無い。

刃先が触れた程度。

それでも巨大な斧。

ハチ美の体が吹っ飛び、鉄の鎧がひしゃげる。


「大丈夫、ハチ美ちゃん」


ケロ子が駆け寄る。


「お姉さま、薬を」


みみっくちゃんが回復薬をケロ子に投げる。

ケロ子はフラフラしてるハチ美に無理やり飲ませる。


「みんな、みみっくちゃん『丸呑み』使うです。

 相手はバカデカイ巨人、いつまでも呑み込んではいられません。

 すぐ ペッ します。そしたらみんなトドメを刺してくださいですよ」


みみっくちゃんが丸呑みする?

あの巨人を?


“森の巨人”フンババ。

身長5、6メートルは有る。

普通の人間の3倍サイズ。

みみっくちゃんは小柄な少女。

どう見ても入らない大きさ。

でも今までにもみみっくちゃんは体より大きい魔獣を呑み込んで来た。

出来ないコトは無いんだろう。


「大丈夫なのっ?」


ケロ子は訊く。

以前巨大なフクロウを呑み込んだ時。

みみっくちゃんは大分苦しげだったのだ。

お腹をさすってしばらくバタバタしてた。


「うーん。大丈夫じゃないカンジです。大丈夫じゃないカンジはするんですが、『丸呑み』出来ない事は無い、そんなフンイキですよ。

 とにかくやってみます。ホントウにすぐペッするかもしれません。その時は頼んだですよ」


みみっくちゃんは謎だらけ。

どの位保つのか、他人に分かりようもない。

本人の感覚頼み。


そう言ってる間も巨人は暴れてる。

視覚が失われてるから適当に振り回してるだけだが、斧がビュンビュン辺りを切り裂いている。

土の地面に刺さり、土が跳ね返る。

ケロ子は斧刃を避け、そのまま斧を蹴り飛ばす。

迷ってる場合じゃない。


「頑張って、みみっくちゃんっ」

「いっけー」


「ハコ、やれ!

 根性を見せて見ろ」

「ハコ、やるのです!

 気合でやれるところまでやるのです」



【CM】

くろの小説、宣伝です。

次回予告が有るならCMも有るべきみたいな。

『ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221149439173

『ゾンまほ』は一話千文字程度、毎日更新に挑戦中

『クズ…ってみた』は後、数話で第一部完。終わる訳じゃないですよ。アクマで第一部です。その後番外編ぽいのもたくさん予定されてるし、いつか第二部も…。


【次回予告】

みんなLV30前の少女達。LV30いかなければ厳しいと言われる『野獣の森』の奥。その更に最奥のボス魔獣。LV30前の少女、5人だけでそのボス魔獣を倒すなんて。

出来ない。出来なくて当たり前。

「ご主人様、異常なのはご主人様だけ。所詮無謀だったのでしょうか」

次回、ショウマ、考察する。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る