第126話 野獣の森横の惨劇その1

「『野獣の森』のドロップコインが変なんだよ。

 誰か明らかに間違えてるよ!

 迷惑だから何とかしてよ!」


ショウマとフワワさん。

“森の精霊”。

亜人の村ではフンババと呼ばれてる。

けどショウマはフワワと呼ぶことに決めたのだ。

言われた獅子の仮面の女性はそっぽを向いてしまった。

あれ。

とショウマが思うと歩いてく。

部屋の隅に行って、しゃがみ込んでしまった。


「そっかー。

 それで来たんだ。

 あははははは。

 そうだよね。

 『海底に眠る都』のティアマーを助けてたから、

 ひょっとしてわたしも助けてくれるのかもー。

 なんて思っちゃった」


壁に向かって一人で話してるのだ。

あははははは。

乾いた笑い声である。


「そんなハズないよね。

 わたしなんて嫌われ者だもんね。

 人間はみんなわたしが嫌い。

 ケツァルコアトルちゃんもわたしが嫌い」


「いーんだ、いーんだ。

 嫌われたままで。

 わたしは淋しく一人消えるもん。

 もう『野獣の森』も管理が効かないし」


あっ、落ち込んじゃった。

ショウマはまだ全然文句を言ってない。

ヒトコト言っただけ。

これから延々言い続けるつもりだったのに。


どーしてくれるのさ。

今まで『野獣の森』で倒した魔獣の数。

それ全部計算してよ。

その分の適性なドロップコイン補填して。

僕の分だけじゃないよ。

亜人の戦士の分もだよ。

そう最後には言うつもりだったのだ。


しかしフワワさんはメッチャ分かり易く落ち込んでる。

部屋の隅に手でのの字を書いてる。

しかも咳込み始めてしまった。


「ウウッ、ゲホンゴホン。

 ううー、もうダメ。

 ああー、もうムリ」

「大丈夫なの。

 何かのビョーキ?」


声をかけてしまうショウマ。

文句を言いにきたんだけどな。

相手は体調悪そうだし。

女性だし。

獅子の仮面を付けてるので顔は分からないが。

声は女性。

体の輪郭も女性のモノだ。

 

『癒す水』


ショウマは回復魔法を使ってみる。

海属性のランク1。


「ゲホッ、ゴホッ。

 なによー。

 今さら優しいフリなんてしなくていーんだから」


うわっ。

メンドくさっ。

もう放っておこうかな。


ケロ子達、従魔少女は大丈夫かな。

部屋の空間には従魔少女と巨人の戦いが映し出されてるのだ。

上手いコト戦ってる風。

いい感じで攻めてる。

敵の巨人は状態異常にかかる。

動けないトコロをみんなでタコ殴り。

でも巨人はタフ。

気付くと回復のスキルを使う。

どんなに叩きのめしてもトドメを刺すまで行かない。

長期戦になってるのだ。


「フワワさん。

 あの巨人て何?

 あれ戦い止めさせられない?」


フワワさんは落ち込んでたハズなのに。

ちゃっかりショウマの横。

画面を一緒に覗き込んでる。


「あれね。

 あれは『野獣の森』のボス魔獣。

 “森の巨人”フンババ。

 もう一人のわたし。」


「フンババさん、フワワさん?」


どういうご関係ですか?

なんだか写真週刊誌の記者みたいな質問をするショウマ。


「うーんと。

 あれはフンババ。

 森の巨人、大自然の番人、森を荒らす者への懲罰者」


「わたしはフワワ。

 森の精霊、森とともに暮らす人にとっては神様みたいな存在。

 そんな設定」


「ようするにあれは『野獣の森』で一番強い魔獣。

 わたしは『野獣の森』の管理者、森そのものよ」

 

フワワさんは抽象的な事を言ってるなと思ったら。

途中で諦めたみたい。

自分でも良く分かってないんじゃないの。


「じゃあ、アレはフワワさんの部下みたいなモンでしょ。

 戦い止めさせてよ」


「部下?、うーんまあそうかも。

 でも無理よ。

 戦いに入ってしまったら途中で止められない」


「それにあの娘達に倒して欲しいの。

 そうすれば、アナタに頼める」


止められないのか。

そっか。

ボス戦だものな。

途中で逃亡出来ない。

倒すか、全滅する。

後は電源引っこ抜く。

そういうタイプの戦いか。


「前代未聞だと思うけど。

 実際森はボロボロになってるし。

 それで森の巨人フンババまで倒されたら。

 条件はオーケーだと思うのよね」


なんの話?



「グァッ」 

帝国兵士が“暴れ猪”の牙に刺される。

腹を貫かれているのだ。


「クッ。こいつめ」

「ケモノ風情にやられるか」


盾を前面に“暴れ猪”を抑え込もうとする兵士達。

しかし。

宙を火が飛んでくる。

“火鼠”の攻撃。

モロに喰らった兵士は制服が燃え上がる。


「助けてくれ、

 誰か水、水!」

「湖に飛び込め、バカ」


兵士を湖に向かって蹴り飛ばしたのはタケゾウ。

この位で慌てる男じゃない。


空にはオレンジ色の鳥。


「ピトフーイ」


鳥が降りて来る。

兵士達の至近距離を飛んで上空へ。


「ゲホン、いきなり気分が」

「なんだこりゃ、体が動かない」


いきなり体調を崩し動けない兵士達。

“獅子山羊”キマイラの群れが襲う。

普通人間を襲わない大人しい魔獣“獅子山羊”。

それでも集団で暴走すれば危険だ。

兵士達は“獅子山羊”の蹄に踏みつぶされる。


亜人の戦士達は帝国兵と違う。

魔獣と戦うのに慣れている。

全員固まって戦っている。


「なんだこりゃ。

 何でこんなところから魔獣が溢れてくるんだ」


キバトラのセリフだ。

チェレビーが反応する。


「俺達に分かるワケねーだろ。

 地元のアンタ達こそ心当たりは無いのかよ」

「入り口以外の場所から、魔獣が溢れてくるなんて。

 聞いたコトが無いぜ」


後ろからムゲンが矢を放つ。

空に舞う“鴆”を狙い撃つ。


「こちら側の『野獣の森』は元々変でした。

 魔獣が多すぎる」

「だから、森がパンクでもしたのかしら」


冗談でもいうような口調の女冒険者。

マリーゴールドは鞭で“火鼠”や“鎌鼬”を打つ。

コイツらは魔法に似た攻撃を放つ。

その前に倒す。


「おおっと、行かせねーぞ」


亜人の村がに暴走しようとしていた“暴れ猪”。

刀が切り裂く。

左の刀が足を斬り、動きを留めた胴体を右の刀が貫く。

侍剣士タケゾウ。


「これ村の方がやべーんじゃねーか」


亜人の村には老人が多数いる。

女性と子供は山の方へ逃げたハズ。

エリカとミチザネも付いてるのだ。

そっちは何とかするだろう。

しかし老人達は。

 

「村の老人達はそんなにヤワじゃない。

 それに戦士の半数は残っている」

「なら、自分達のコトだけ考えればいーんだな。

 そいつは楽勝だ」


辺りは魔獣だらけ。

少し先で帝国兵が次々と魔獣によって倒されていく。

そんな中で笑って見せるタケゾウ。




ゲホッ、グホッ、ゴホン、グハン、ゲハッ、ゲハッ。


ショウマは慌てる。

獅子の仮面の女性フワワさんがいきなり倒れた。

凄まじく咳込んで調子悪そう。


「大丈夫なの?

 不治の病?、難病?。

 ヒロインが病気で死んじゃうパターンのアニメや映画って、

 苦手なんだけど」


スクリーンのように映し出されてた映像。

従魔少女と巨人の戦いが映ってた映像。

そこに重ねて別の映像が映し出されたのだ。

魔獣が溢れて、兵士らしき男達を蹂躙している。

なんだかタケゾウやムゲンらしい人も映ってる。


「なにこれ?

 今起きてるコト?

 生中継?」

「そうよ、今『野獣の森』の外で起こってるコト。

 わたしはもうダメ。

 全身いたるトコロがボロボロなの」


「回復魔法使おうか?」


普通の病気にも効くのかな。

『治癒の滝』くらいでどうかな。


「駄目よ。

 魔力をムダにしないで。

 取っておいて」


「あなた従魔師でしょう。

 従魔師が従魔を操るのには普通魔力は必要としないの」


おおっ。

従魔師だと見破られてる?

今まで知り合った人達にはショウマが従魔師だと知られてない。

誰一人知らないハズ。

相手は“森の精霊”フワワ。

神様みたいに思われてる人。

何かで分かってしまうのか。

まあいいや。

何の話だっけ。

従魔師が従魔を操るのには普通魔力は必要としない。

うん。

ショウマもケロ子達と一緒にいる。

それだけで魔力を使ってるような気はしない。


「でも従魔師が従魔に出来る数はランクで決められてる。

 それを越える数の魔獣を従えてしまうと魔力を常時使う事になってしまうの。

 ペナルティみたいなモノね」

「へー、知らなかった」


ふーむ。

例えば従魔師のランク1で2体まで従魔が持てる。

ランク2なら4体までとか、決まっている。

それ以上5体従魔にしてしまった場合、従魔を従えているだけで常に魔力を消費する。

なるほど、常に魔力を消費するんじゃあっという間に魔力切れ。

すぐ失神する。

実質、上限を越えては従魔を持てないという事だ。


「そして従魔師のレベルで従えられる魔獣のレベルも決まる。

 あなたのレベルじゃ本来不可能なコト。

 だけどアナタには有り余る魔力が有る。

 その魔力を使いさえすれば、それをペナルティとして支払えば。

 きっと出来るハズ」


さっきから一体何のハナシ?



 

ハァハァ。

ケロ子達は疲れている。

“森の巨人”フンババを叩きのめした。

槍で刺して、弓で撃つ。

蹴り飛ばして、斧を喰らわす。

杖でも叩く。

巨人はボロボロ。

そろそろ倒れてくれるかも。

そう思うと回復してしまうのだ。

WOOOO!WOOOONWOOOOON!

天を仰いで巨人が吼える。

するとケガが治っていくのだ。


「クッ、これではキリが無いではないか」

「キリが無いのです」


「ケロ子、『身体強化』がそろそろ時間切れになりそうっ」


そろそろ時間切れっ。

何度も使ってるスキル。

何となく検討はつく。


「ハコ、私の『気絶の矢』もそろそろ使えない。

 あと一回が限度だ」

「みみっくちゃんの『眠りの胞子』もそうです。後一回がせいぜいですよ」


「オレ、試してみる。

 『マヒの遠吠え』」

「タマモちゃんより体の大きい魔獣には効きヅライハズですよ」


「オレ、知ってる。

 魔獣が集中が切れてる時、慌ててるような時。

 そんな時ならマヒを喰らわせやすい」

「それはありがたいが、

 しかしいくらやっても回復してしまうのではな…」


「大丈夫です。巨人を見てください。至るところケガだらけですよ。

 回復してはいますが、全てのダメージを回復しきれてはいないんです。

 ちゃんと今までみんなが与えたダメージは生きてます」


「でも私達も疲れてます。次です。次の攻撃で一気に叩き込みます。

 ケロ子お姉さま、あの後頭部を蹴るヤツ又出来ますか。

 あれから一気に全員攻撃しましょう。今度こそあのデカブツの体力根こそぎ刈り取るですよ」



【CM】

くろの小説、宣伝です。

CMが有って、次回予告が有るっていいじゃんみたいな。

『ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221149439173

『クリーム色の壁とブラウンの扉』

https://kakuyomu.jp/my/works/16816452220757957103

『ゾンまほ』は一話千文字程度、毎日更新に挑戦中

『クリブラ』は文章を敢えて変えてみた挑戦作。『クズ…ってみた』を読み慣れた方には読みにくいかも。こうゆーのもやってみたかったのです。ちなみにグロ注意です。


【次回予告】

父は良く言っていた。彼は代々続く貴族の家系、軍人になる者が多い。

いいか。一般兵どもは貴族じゃない。帝国の為に戦う。そんな意味を理解しないアホウどもばかりだ。奴らは金のために兵士になった卑しい連中だ。すぐに楽をして逃げ出す事ばかり考える。そいつらを一人前の戦力にする事がお前の仕事だ。遠慮する事は無い。逃げ出すヤツは蹴り上げろ。2,3人殺してもかまわん。見せしめの為だからな。

「脳を狙うとはさすがみみっくちゃんのお姉さま、黒いです。ダークですよ。真っ黒な攻撃です」

次回、ケロ子、打つ。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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