第108話 鋼鉄蛞蝓その2

「そこに気配がします」

ハチ子が今度は叢を指して言う。


『ツタ縛り』


運び人にして魔術師みみっくちゃんの木属性魔法が“鋼鉄蛞蝓”を捕らえる。


ショウマと従魔少女達は『野獣の森』。

経験値マシマシな魔獣、“鋼鉄蛞蝓”を倒して回ってるのだ。


「今度は私が試してみて良いですか」

弓士のハチ美が言う。

さっきはハチ美だけ攻撃してない。


『毒の矢』


スキルを使うハチ美。


「最近覚えたんです。

 魔獣を状態異常にするらしいです」


相手に毒を喰らわせる。

なかなか凶悪なワザ。


矢を受けた“鋼鉄蛞蝓”は?

『ツタ縛り』で身動き取れなくなっている。

銀色の皮膚をぷよぷよ動かしている。

毒状態になってるのか、イマイチ分からない。

相手はメタリックなナメクジ。

弱ってるとか元気とかそんな判別はショウマには付かない。


「ダメですか?」


ハチ美が残念そうに言う。


「効いてるのか、どうか良く分からないね。

 でもこのスキルは使いどころきっとあるよ」


毒攻撃と言えば中ボスなんかに使える定番だ。

体力がやたら有る敵にジワジワとダメージを与え続ける。

何処かで役に立つだろう。


「じゃあアタシもスキル試したいっ」


今度は武闘家ケロ子だ。

最近、ショウマは迷宮探索してない。

御殿でサボってた。

従魔少女達は『野獣の森』に交互に出かけて闘っている。

いつの間にか新しいスキル覚えてたらしい。

ちぇー。

お家で寝ながら従魔少女の活躍見れないのかな。

何処かにドローン無い?

リアルタイム映像送ってくれないかな。

録画もしといて欲しい。


ケロ子は両足に力を入れる。

足に力を入れて地面を踏みしめるような動作。

そこからゆっくりと両手を前に出す。


ショウマはつい言いたくなる。

かーめー〇ーめー波。

子供の頃みんな一度はやったよね。

ケロ子は手を揃えて前に出してる。

そこは手を上下にして、とか指導したくなる。


『鎧通し』


“鋼鉄蛞蝓”を両手で打つケロ子。

ナメクジの銀色の皮膚が波のように震える。

と思うと消えて行った。



『LVが上がった』

『ショウマは冒険者LVがLV22からLV23になった』

『ケロコは冒険者LVがLV20からLV21になった』

『ミミックチャンは冒険者LVがLV19からLV20になった』 

『ハチコは冒険者LVがLV18からLV19になった』 

『ハチミは冒険者LVがLV18からLV19になった』

『タマモは冒険者LVがLV13からLV14になった』


「やった、やった。

 スゴイじゃん、ケロ子」


槍で刺しても弓矢で撃っても効かなかった“鋼鉄蛞蝓”を倒したのだ。

ケロ子はテレた顔。

『鎧通し』ってなんだっけ?


「鎧や防具を無視して中の本体を打つと言う武道の技ですね。

 みみっくちゃんにも本当かどうか良く分かりませんが、絵物語なんかでは『気』を操って鎧の中の人を打つなんて言います。もう少し現実的な理屈では鎧と人体の隙間を無くして、その上から打撃を加えると衝撃が人体に伝わる、そんな考え方も有るようですよ」


ははあ。

防御力無効化ってヤツか。

あるね、アルアル。

普段は使わない地味スキルだけど。

たまに異様に硬い敵が出てくるとそれが無いと倒せないってヤツ。

そういやアレもそんなんじゃなかったか。

二重の〇み。

大分前に終わったマンガなのに、実写映画化されて再ブームになったヤツ。

その中でケンカ屋が手に入れた極意。

「フタエノ〇ワミ、アッー!」


よーし、よし。

ショウマの魔法でしか倒せないかと思ったが、色々倒す方法有りそう。

“鋼鉄蛞蝓”退治。

ドンドン行こう。


「おまえー!

 何をしている?」


誰かに言われた。

誰だろう。

蛇の仮面を付けてる女性。

頭に髪飾りか、鳥の羽根も付けてる。

まあいーや。



「ハチ美、次の“鋼鉄蛞蝓”は?」

「はい、ショウマ王。

 あの木に居ます」


ハチ美が木の枝を指す。


『ツタ縛り』


すっかり定番の木属性魔法。

縛られて身動き取れない“鋼鉄蛞蝓”


「ショウマ王、聖槍ならダメージを与えられるハズ」


槍戦士ハチ子が言う。

彼女は職業、聖戦士・槍でもある。

おそらくけっこうなレア職業。

そのスキルは聖槍を召喚出来ちゃう。

おっけー。

やってみよう。


「おまえだ、おまえ

 聞こえてるんだろう」


気にしない、気にしない。


「お面を付けた人は却下だそうですよ。仮面被った人多すぎなんですよ。

 これ以上いたら誰が誰やらです。お面を外して出直してくださいですよ」


そう、その通り。

迷宮商人さんはひょっとこの面。

“森の精霊”(フンババ)さんは獅子を象った面。

ザクロさんも似たような仮面。

仮面被った人はこれ以上いらない。

見なかったコトにしよう。


『聖槍召喚』


ハチ子の手に白銀に輝く槍が現れる。

『聖槍召喚』はスキル、ランク1。

ランク上がったらどうなるのか。

気になる、気になる。


「いい加減にしろー。

 無視するな。

 お前いじめっ子だな」


「喰らえっ」


ハチ子の槍はやはりカンとはじかれる。

ハチ子は諦め悪く、何度も“鋼鉄蛞蝓”を刺してる。

聖槍が効かないというのが許せないらしい。

子供のように意地になってる。


「うりゃっ、えい。

 このこの、これでもかー」

「ああっ。

 なにをしてるんだ!

 お前ー」


蛇お面女がドンとハチ子をど突く。

いきなり打たれたハチ子はバランスを崩してる。


「なんだ、キミは。

 いきなりどこから出て来た」

「アナタ。いきなりどこから出てきたんですか」


いや、さっきからいたじゃん。

ブツブツ言ってたじゃん。

 

「お前たちがこの子をイジメるから、

 許せなくて出てきたのだー」


蛇お面女が“鋼鉄蛞蝓”を抱きしめる。

『ツタ縛り』で縛られてたハズの“鋼鉄蛞蝓”。

縛ったツタは消えてる。

“鋼鉄蛞蝓”は女性に抱き上げられ胸元でプルプル震えてる。


「おおー、よしよし。

 怖かったなー。

 もう大丈夫だぞ」


女性は改めて見ると、蛇のお面をしている。

ザクロさんがしてた獅子の仮面ともまた違う。

安っちい、ヘビの絵を描いたお面。

それを顔に着けてるのだ。

さらに鳥のような羽根飾り。

違った。

羽根飾りじゃない。

頭から羽根が生えてる。

頭の両脇、ケモ耳が生えるような位置に髪の毛から鳥の羽根が出てる。


なんだか〇レーヌみたい。

昭和なマンガの敵女性キャラを思い浮かべるショウマ。

お前幾つやねんといったカンジだが、大丈夫。

数年前にはネット配信でリメイクアニメ化されてる。

その女性キャラは令和になってもいまだにエロカッコ良いフィギュアが造り続けられているのだ。

マンガやアニメで見た事なくてもフィギュアは見た事が有る人もいるだろう。

実写映画化?

なんの事?

そんなもの無かったよ。

デ〇ルマン。


「おまえー、なんのつもりなんだ!」


女性はショウマに指を突き付けて叫ぶ。

なんのって。

経験値マシマシ。

やり口が卑怯くさかったかな。

もしかして何かのルール違反しちゃった?

怒られてるの?


「この子がお前に何したっていうんだ。

 いじめっ子め」


この子って“鋼鉄蛞蝓”?


「えーと。

 動物愛護団体の方?」


動物愛護団体はナメクジも保護してるのかな。

ハチ美が動物愛護団体の人を見て怯えてる。


「ショウマ王、その女性。

 見えてはいるんですが、気配が有りません」


どういうコト?


「我らには分からないが、普通の人間ではない」

「普通の人間じゃありません」


ショウマに見えてるのはお面を付けた普通の女性。

頭から羽根も生やしてるけど。

亜人ならあり得ない事じゃない。

亜人の村には羽根生やした人けっこういた。


ハチ子、ハチ美は超感覚。

目で見ているだけじゃない。

頭に有る黒い毛。

金髪の中に混じった黒い房が立ち上がる。

蜂の触覚の様に。

視覚では見えない何かを察知する。

気配を感じないってどういうコト。


「当たり前だ。

 あたしの本体はここに無い。

 視覚情報だけを送り込んでるんだ」





「マリーって言うんだ。

 よろしくね」

「はい、よろしくお願いします。

 マリーゴールド様」


亜人の村の冒険者組合。

支店長は直立で頭を下げている。

ザクロも軽く頭を下げる。


別の街の組合支店長だと言う女性。

支店長同士だけど、ザクロの上司はやたら丁寧な対応。

同じ支店長でも格の違いとか有るのかなー。


「人員は二人だけなのかしら?」

「そうだよー。

 冒険者組合に来る人なんて前は全くいなかったからねー」


そうだ。

以前までは亜人の村で冒険者組合に来ると言ったら。

10歳越えた男の子が冒険者見習いに登録する。

成人して冒険者登録する。

それくらいだった。

一ヶ月誰も来ない。

そんな事だって有ったのだ。

それが今は毎日誰かしら訪れる。


「聖者サマのせいだねー。

 ちょっと忙しくなっちゃった」


とは言えベオグレイドの冒険者組合に比べればまだ全然。

人員を増やすような状況じゃない。

ザクロの言葉を聞いてマリー支店長はクスリと笑う。

良かった。

うちの上司ほど五月蝿くなさそう。


「建物の改装したのよね」


マリーが組合の内装を見ながら言う。

木造の建物。

壁紙なんか貼ってないけど。

建てたばかり。

中はピカピカだ。


「改装と言うか、新築だねー。

 前の建物はもうボロボロだったもの。

 潰して、新しいの建てたんだー」


「へー、良くそんな予算有ったわね」

「あ、いや、それはですな」


「聖者サマがやってくれたんだよー。

 工事は亜人の村の大工さん。

 忙しい人なんだけど、聖者サマが頼んでねじ込んでくれたのー」


「フーン、費用は?」

「それはつまりですな」


「この貧乏組合にそんなお金有るワケないじゃん」


「聖者って人が全部出してくれたの?」

「いえですからその」


「そうだよー。

 といっても工事したのは亜人の村の大工ー。

 村の物を建てるのにお金はとってないねー」


村では貨幣をほとんど使ってない。

大工仕事の分、食料やなんやらが替わりに渡される。

とは言っても順番待ち。

組合の建物なんて優先順位はずーっと後の方。

いつまでも手を付けられない。

その筈だったのに聖者サマがクチを利いてくれたのだ。

ちなみに貨幣は少しづつ使い出してる。

他所から冒険者が来るようになった。

彼らが買い物するのにお金を取ってる。

食堂も出来た。

そこで食べようと思ったら亜人の村の住人もお金が必要。


「なるほど、聖者サマか。

 どんな人なのかしら。

 顔を見てみたいわね」

「今日は聖者サマ、

 『野獣の森』に行くらしいから顔出すかもねー」


「じゃあ聖者サマの話はもういいわ。

 大事な話をしましょう」


大事な話。

別の土地からわざわざ冒険者組合支店長が訪ねて来た用事。

何だろう。

ザクロは知らない。

マリーゴールド。

冒険者組合支店長だと言う。

おそらく元冒険者。

革鎧の上からコートを着ている。

武装とそれを隠す上等な外着。

オフィシャルな席にも耐えられるギリギリのライン。

名を上げた冒険者が引退して組合のポストに座る。

珍しくは無い。

けど支店長にまでなるなら相当の知名度、もしくは能力が無いと。

そんな人がわざわざ亜人の村までやってくる大事な話。


「まだ、新築祝いやっていないのよね?」

「はぁ?」


上司が応えるけど何の話か分かってないみたい。


「やってないわね、そうだと言って!」

「やってないよー。

 最近すごい勢いで建物造られてるからねー。

 してるヒマが無いんだよー」


「フフフフフ。

 よし、じゃあ新築祝いしましょ。

 呑むわよ」


すでにマリーはコートから瓶を取り出してる。

酒瓶。

どこにしまっていたのか。

葡萄酒、どぶろく、蒸留酒、エール、ライスワイン。

次々取り出す。


「いえ、あのですな。

 マリーゴールド様、今は職務中でして」

「固い事言いっこなし。

 組合の建物が新築された。

 新築祝いよ。

 一杯くらい呑んでも、誰も文句は言わないわ」


「あははは。

 ザクロも呑むー」

「コラ、ザクロさん」


「この葡萄酒がオススメよ。

 新酒なの、最近人気上昇中ね」

「葡萄酒いいね、この村にはどぶろくかエールしかないんだ」


女性同士が一気に盛り上がる。

グラスで乾杯。

酒を呑みあうのだ。


「支店長も一杯くらいどう?」

「いえ、私は」


「支店長ー。

 新築祝いだよ、新築祝い」

「新築したのなんて何日前だ。

 今さらそんな言い訳出来るか」


ザクロとマリーゴールドが盛り上がってる。

お互いのグラスに注ぎ合う。


今度、村のどぶろくも持ってくるよ。

へー、呑みたい呑みたい。

大工の奥さんが作ったヤツがおいしーの。

いいわねー、このライスワイン試してみて。

なにこのスッキリした味、ウマー。

でしょ、どぶろくと原料は同じなんて信じられないでしょ。

ウソー。


既に女子二人は酔ってる。

亜人の村の組合支店長は呆れる。

部下の女性に。

怖いもの知らずな事だ。

ザクロはまだ若い。

知らないのだろう。

支店長の年代なら誰でも知ってる名だ。

酔いどれマリー。

女冒険者サラと並ぶ有名人だ。

すっかり名前を聞かなくなったと思ったら、冒険者を引退して迷宮都市の組合の支店長になっているとは。



【次回予告】

色々テキトーに言ったような気もするね。カレー、ラーメン、コーヒー、プリン、チョコレート。久々に食べたいなと思うモノを羅列。こんなカンジと伝えた。

「イタイイタイ、口の中が痛い。おのれ、王を攻撃するつもりか」

次回、ハチ子は怒ってる。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る