第94話 亜人の村の日々その3

そのままユキトの家にも行ってみる。

女性達がナデシコさんとイチゴちゃんと一緒に革細工している筈だ。


「あっ聖者サマ」

イチゴちゃんがショウマに気付いて走ってくる。

初めて会った時、人形のようと感じた少女はスッカリ元気になった。

足が石化していたのが治ったのだ。

「イチゴちゃんっ。

 元気っ」

「うん、ケロコ姉。

 元気だよっ。

 今日はどうしたの?」

「散歩がてら様子を見に来ただけだよ」

ナデシコさんも近づいてくる。

石化して寝込んでいた女性は今や革の魔法武具製作班のリーダー格なのだ。

「聖者サマ、こんにちは」

色っぽく微笑むナデシコさん。

二児の母だというのが信じられないくらい、彼女は若くて色っぽい。

実はショウマは彼女とムニャムニャしてしまった。

御殿でショウマが従魔少女と昼間っからムニャムニャしてたトコを見られてしまったのだ。

石化を治したお礼に改めて来たナデシコさん。

そいでもって、お礼をどうしたらいいのかしらというナデシコさん。

うわー、年上の女性、色っぽいなーというショウマの視線に気づかないほど鈍感じゃ無かった。

ユキト、イチゴの父は大分以前に亡くなったらしい。

独り身で寂しさを感じていた彼女とショウマはムニャムニャムニャ。

そんなカンジ。


「ナデシコさん。

 製作班の調子はどう?」

「順調です。

 みんなやり方を覚えてくれたのでペースは上がっていくと思います」


『野獣の森』で手に入れた材料で魔法武具を作る。

それを街で売って大金持ちになろう作戦。

作戦は順調だ。

門の兵士達にはみみっくちゃんを覚えてもらった。

一度ショウマと出向き、彼女に関してはショウマの従者なんでよろしくね、と指輪を見せながらせまった。

女隊長は直角礼で承知した。

みみっくちゃんが呑み込んで一気に魔法武具を持っていく。

ミチザネの知り合いと言う商店で販売中。

販売価格の7割がこっちに入ってくる。


「あっ、ケロコさん

 こんにちは」

ユキトだ。

ユキトは今隣の離れにいる事が多い。

作って貰ったのだ、誰かに。

「だから死ぬって言ってんだろ」

従魔用の別宅である。

今そこには“獅子山羊(キマイラ)”と“土蜘蛛”がいる。

ユキトが従魔師見習いになったのだ。

『野獣の森』から溢れてくる魔獣には人間を襲わない魔獣もいる。

たまに村の人間と波長が合って、飼い犬のようになるのだ。

コノハさんのタマモもそうだ。

ユキトは実は“獅子山羊(キマイラ)”を飼っていた。

たまにショウマ達の食卓に持ってきていたヤギの乳。

あれは“獅子山羊”の乳だったらしい。

ウソでしょ。

僕もう飲んじゃったよ。

頭が獅子、身体は山羊という魔獣。

どう見てもバケモノだ。

大丈夫かな。

お腹壊したりしない?

子供の時魔獣を飼っている経験が有ると従魔師になりやすい。

正にコノハさんがそれ。

ユキトも成人を待たずに従魔師見習いになった。

本人は戦士になりたかったみたい。

丁度良い、そのまま『野獣の森』で“土蜘蛛”をボコボコにしてユキトの従魔にした。

「えっ! やだよ。

 オレあんまりムシ好きじゃないんだ」

そういうユキトだったが、ケロ子がお願いしたらすぐ気が変わった。

魔法武具作るのに『土蜘蛛の糸』も必要なのだ。

ドロップ品だけど、“土蜘蛛”捕まえたら量産できないかな。

目論見は当たった。

1日3個~5個従魔にした“土蜘蛛”は吐き出してくれた。

『土蜘蛛の糸』はベンリだった。

かなり高品質な糸として使える。

普通の服や織物の材料としても使える。

品質は絹よりキレイで丈夫。

エリカは言ってた

「蜘蛛が吐き出した糸で作った!?

 そんな服着れるワケないじゃない」

「絹糸で作った服、持ってないの?」

「持ってるわよ。

 とっておきの下着が絹製…

 って何聞き出そうとしてるのよ!」

「いや、何もしてないけど」

「エリカ様、ご存じないのですか?

 ミチザネは知っていますぞ。

 絹糸も虫が吐き出したモノです。

 蚕という蛾の幼虫が体から出した糸です」

「ウソでしょ。

 ミチザネまで、エリカを担ごうとしたってダマされないわ」

いや、ホントウなんだけどな。


さてコノハさんの家も近い。

ついでに寄って行こうかな。

「兄ちゃん。

 また『野獣の森』に連れってくれよ。

 戦士になりたいんだよ。

 成人するまでに戦っておけば戦士になれるかも」

「従魔師の方が貴重だからなー。

 そっちの方が絶対稼げるよ」

「稼げる?

 そうか嫁や子供を養っていける…

 でも戦士の方がカッコイイ。

 しかし経済力も…」

ユキトはチラチラケロ子の方を見ながら考え出してしまった。

放っておこう。



「こんにちはー。

 サツキさん調子はどう」


「うわ、来やがった」

チェレビーが顔をしかめる。

ショウマにすっかり苦手意識を持ったらしい。

サツキさんとコノハさん、チェレビーを中心に戻って来た女性達が薬作り班として働いてる。

「ショウマさん…

 こんにちは」

コノハさんは挨拶はしたものの横を向いてしまった。

なんだかこのところショウマを避けてる雰囲気なのだ。

ショウマの方も気まずい。

まずタマモを自分の従魔にしてしまった。

火急の際だったから仕方ないと思うけど、コノハさんの従魔の横取りだ。

それなんてNTR?

コノハさんはその事に気付いてるんだかどうだか。

さらに気まずい理由も有る。

「あっ、聖者サマ」

嬉しそうに笑いながらやってくるサツキさん。

コノハさんの母親とは思えないくらい若い。

ショウマは実はサツキさんともムニャムニャムニャ。

コノハの父親は大分以前に無くなっていて一人で寂しかった彼女。

ショウマにお礼にやってきて……以下略。

「チェレビーさんのお陰で大分レシピが増えました。

 今なら、相手をマヒにする薬や毒に犯す薬も作れます」

「あはははは。

 攻撃系の薬はホドホドにね。

 亜人じゃない冒険者も増えてるから、

 彼らの分の回復薬を必要になってくるんだ」

「はい、おまかせください」

サツキさんはニッコリ笑う。

コノハさんに似て身長は低め。

体形の良く分からない服を着てるけど。

実は凹凸の有るボディをしていらっしゃるのだ。

良く似た母娘。

その脱がした身体も確認してしまったショウマである。


ショウマは自分の家に戻って来た。

聖者サマの御殿だ。

ここは良い家なんだけど3階まで上がらなきゃイケナイ。

エレベーターつけてくんないかな。


「ああー、疲れた。

 今日は良く働いた」

散歩してただけだろう。

見ていた人がいたら言うトコロだ。


留守番してたみみっくちゃんが出迎える。

彼女は村の人の陳情や報告を聞いてる。

ミチザネと合わせて村長代理みたいな役をやってる。


「ご主人様、いろいろ順調ですよ。褒めてくださいですよ」

「何かあったの?」


「水道ですね。水の供給が形になりました」

「あの湖から川を引き込むってヤツ?」


「アレは大がかりすぎるんでちょっとストップです。

 今は山の方に沸いてる湧水を村まで流れるようにしました。

 各家庭で使って、余った分は溜めて農業用水ですね」

「へー」


「みみっくちゃんとケロ子が明日戦士達と『野獣の森』に行く予定だよね」

「そうですっ。

 ショウマさまっ」


「キバトラさんにキャンセルって伝えておいて」

「あれどうしたです、ご主人様。もしかしてついについにやる気になったですか」


「うん、明日はみんなで迷宮探索に行こう」


ショウマと従魔少女だけで行こう。

“鋼鉄蛞蝓”探して、経験値マシマシ。

一気にLVアップ狙い。


「分かりましたっ。

 言ってきますっ」

「ケロ子お姉さま、まだキバちゃん達出かけてますよ。

 エリカにも声かけて私達の替わりに村の戦士チームに加わって貰いましょう」


「タマモちゃんはどうします?ご主人様」

「うーん、連れていきたいね。

 コノハさんは薬作り有るし、

 タマモだけ連れてって大丈夫じゃないかな」


ショウマはしばらく迷宮探索する気にならなかった。

【クエスト:埋葬狼に攫われたコノハの母親を救い出せ】

も完了させたのだ。

休んでもいいじゃん。


ショウマは気絶した状態で『野獣の森』にいたのだ。

みみっくちゃんが連れて帰ってきてくれた。

ぼうーっとしてるタマモ、コノハ、サツキさん。

ショウマも含めて四人も連れて帰ってきたのだ。


みみっくちゃんは独力でイタチから逃げ出したらしい。

イタチは行方不明だ。

どこかに逃げたのか。

でも荷物や、金は置いて行った。

『野獣の森』に落ちていたらしい。

みみっくちゃんが呑み込んで来た。

イタチ本人だけがいない。

「多分、迷宮の魔獣にやられたんですよ」

みみっくちゃんはそう言っていた。


イタチは驚くほどお金を持ってた。

200万Gほど、日本円換算で2億円。

遊んで暮らせるじゃん。


元々女性達を売って得た金だろう。

女性達に返すのが筋。

でも女性達は要らないと言う。

亜人の村でお金あってもあまり用途が無いしね。

ベオグレイドまで行かなきゃお店も無い。

女性達はベオグレイドに行きたくないのだ。


村の発展費用にバンバン使ってる。

いろいろモノ要りは多い。

一般の冒険者の宿舎とか食事処の準備。

女性達の生活の場にも家具はいる。

薬作りだって道具が必要。

みみっくちゃんとミチザネが買いに行けば税金はかからない。


あの時ティアマーと一つになったショウマ。

全てが見えてた。

どうすればいいか何もかも。

もうほとんど覚えていない。

でも『野獣の森』と山に有る別の迷宮がぶつかってた。

そんな事はちょっと覚えてる。

それをどうしたらいいのかはサッパリだ。

だいたいそんなのショウマが考えるコトじゃないじゃん。


まぁでも『野獣の森』には行こう。

“森の精霊”(フンババ)様に逢ってみよう。

『野獣の森』のラスボス=“森の精霊”(フンババ)

それがショウマの予想。

ラスボスじゃないとしても、ラスボス目指してれば逢えそう。


さあ翌日『野獣の森』入り口前。

集合してる。

ショウマ、ケロ子、みみっくちゃん、ハチ子、ハチ美、タマモ。

チーム『天翔ける馬』


「んじゃ行ってみようか」


「はいっ、ショウマ様っ」

「ご主人様、もっと気合入れてくださいですよ」


「うむ、ショウマ王。行くぞ」

「はい、ショウマ王。行きましょう」


「おう、ご主人。オレ始めてだから楽しみ」


ショウマと従魔少女達は進むのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


母なる海の女神教団。

その聖都、テイラーサ。

今日は定期的に開かれる儀式の日。


多くの教徒が集まっている。

神殿は大入り満員。

すでに儀式は終わろうとしている。


大教皇様が挨拶をし、全員で祈りを捧げた。

女神様への聖歌が歌われ、音楽が演奏された。

聖女様による回復の義。

教徒たちの前で、重傷者が見る間に回復していく。

目を見張る教徒たち。

感極まって泣いている者もいる。


この後は聖女が女神へ祈りを捧げる。

大教皇が締めの言葉を言って終わりだ。


しかし。

聖女の付き人が騒いでいる。

聖女エンジュ、その側女の三級神官が大教皇に訴えているのだ。


「大教皇様。

 おかしい、おかしいんです」

「落ち着き給え。

 今エンジュが祈りを捧げたらもう儀式が終わる。

 それまで待つんだ」


「そのエンジュです。

 あれはエンジュじゃないんです」

「何だと、何を言ってるんだ」


この三級神官は確か、カリンとか言ったか。

聖女エンジュの願いで特別に付き人となった筈。

エンジュにも年齢相応の女性友達の一人くらいはいてもよかろう。

そう思って許可した娘だ。

雰囲気こそ子供っぽいがなかなかしっかりした娘だった。


「雰囲気が、話し方がエンジュじゃない。

 まるで別人なんです」


そう訴えるカリン。

しかし既に聖女エンジュは壇上に上がってしまった。

女神に捧げる祈りを唱える場面。


「おい、私に続け」


大教皇は周囲の男達を連れて壇上へ進む。

ただ事じゃない。

傍観して見ている場面じゃない。

そんな雰囲気を感じ取ったのだ。

場合によっては力で聖女を抑える。



教徒の視線が聖女に集中する。

テイラーサ近辺に住み、毎回儀式に参加してる者。

遠方から一目聖女を見ようとやって来た者。

年老いて生きてるうちにこの目で聖女を拝みたいと訪れた者。

さまざまな視線が聖女エンジュに注がれる。

彼女は壇上で言った。


「ヤッホー。

 元気でやってるかいなー。

 みんなの女神様、ティアマーさんやでー」



「聖女を取り押さえろ」

大教皇は小声で指示を出す。

教徒には聞こえない声。

しかし。

周りの男達はぼうっとしている。



「みんなー、いい知らせがあるんや。

 『海底に眠る都』が久々に動き出したんや。

 迷宮やでー。

 迷宮が増えたんやー。

 冒険者に伝えといてー。

 探してーな。

 せっかく動き出したんや。

 冒険者が来てくれんとしょうもないからなー」


教徒たちがざわつく。

聖女様は何を言っている。

迷宮?

迷宮が動き出した。



大教皇は自ら動く。

エンジュに近付こうとする。

しかし見てしまった。

エンジュ、神官の衣を着た少女。

それに重なる人影。

薄い衣を幾重にも纏った髪の長い女性。

目の前の少女から青い光が発せられている。


「そいでなー。

 『海底に眠る都』を動かすのに助けてもろたんや。

 ショウマはんて名のニィさんや。

 『野獣の森』近くにおるわ。

 亜人の村で聖者サマと呼ばれとる。

 ウチ借りがあるんや。

 みんな恩返ししたってやー」


「以上やで。

 ほな、まったなー」


セリフが終わるとエンジュが倒れ込む。

三級神官カリンが慌てて近寄る。

彼女を抱き起している。



教徒はざわつく。

今のはいったい。

女神様だ。

オレは見た。

聖女様に重なって光り輝く女神様。

間違いない。

母なる海の女神様だ。

何を言ってるかは良く分からなかったが。

神の言葉だ。

簡単に人間には意味が分からないモノなんじゃないか。

女神様の言葉よ。

女神、ティアマー様。


ショウマ。

『野獣の森』近くの亜人の村にいる。

聖者様。

女神様が聖者と認めた男。

聖者のために何かしなくては。


そんな言葉が無数の人間達の間で語られる。

大教皇でも既に止められない。


そんな事が起きてるなんてショウマはもちろん気付いて無かった。



【次回予告】

大地の神は父さんだよ教団。ハタ迷惑な集団だ。ヤツらは肉体を鍛えてる。冒険者としての行動も積極的にしている。冒険者としてはそれなりだ。体力は無尽蔵に有るし、得体の知れないスキルも使う。でも全員素手で戦うヤツらだ。チームに魔術師も入れないし、罠に対する斥候の類も置かない。応用が効かないのだ。特殊攻撃を使うような敵にはアッという間にやられる。だからそれなり程度。大活躍してるなんて話は聞かない。

「どうも胡散臭いね。アタシは推薦しないよ。他の役員どもがコイツを出す分には文句も言わない」

次回、サラは迷う。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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