第93話 亜人の村の日々その2

従魔少女達は交替で『野獣の森』に行ってる。

新入りのハズなのに何故かリーダー扱いだ。


みみっくちゃんの指揮っぷりはスゴイ。


「じゃあみんな行くですよー」


「ははー、かしこまりました」

「我らミミックチャンサマのために」

「我らミミックチャンサマのために」

「我らミミックチャンサマのために」


戦士全員が唱和していくのである。

大丈夫?

怪しい薬でも使ってないかな。


ショウマは朝食を終えて、村を散歩。

ケロ子が護衛に付いてくる。


戦士が集合してる。

今日はハチ子、ハチ美が一緒。

村の戦士達を指揮する立場。


「オレ、ハチコ様に注意されたぜ。

 気合がたらーん ってな」

「うーむ、あのキリっとしたお顔。

 その真逆の抜けっぷりがいいよな」


「なんせ、道なんて分かれてないのにいつも迷うもんな。

 むっ、木が有って通れない。どちらに進むべきなのだ?」

「アホの子顔してるハチコ様も、気合を入れてるハチコ様もサイコーだよな」


「ハチミ様、ああハチミ様。

 麗しい顔と優美な動き、いつも見惚れてしまう」

「いつもお美しい。

 更に弓を射る時の非情なお顔、あれも魅力的だ」


「しかも部下の俺達にお優しい。

 ケガを見ていてすぐに回復薬を下さる」

「お奇麗で、気づかいも出来る。

 完璧だよな」


ハチ子、ハチ美もいつの間にかファンが増えてるな。



「おはようございますっ」


「ああ、おはよう」

「おはよう、ケロコさん」


ケロ子が戦士達に挨拶してる。

他の従魔少女と違ってケロ子には気安く接してる。

そんな風に思ってた時期もショウマには有りました。


みみっくちゃんに聞いたのだ。

ケロコには隠れ信者が多いらしい。


彼等は普段、普通に接している。 

ケロ子が気軽に挨拶してくれるのを望んでいる事を知っているから。

しかしその気軽さを勘違いして

「ケロコさん、今日はいい天気ですね。

 良かったら少し村を案内しましょうか。

 俺、景色の良いところを知ってるんですよね」

等と言う男が現れようものなら結託してボコボコにするのである。

今日のところはここまでにしてやるぜ。

今度ケロコさんを誘いだそうなんてしたら産まれてきたことを後悔させてやるからな。

いいか、彼女は全員のアイドルだ。

言うなれば聖者サマのところの巫女様だ。

そのお姿を拝見できたことに感謝して今日を生きろ。

というカンジらしい。


みみっくちゃんへ忠誠の言葉を捧げてる光景も大分アレだがケロ子の方もなんだかな。

ショウマ教に続いて、みみっくちゃん教、ケロ子教と出来ていきそうだな。

亜人の村の男連中も業が深い。

若い女性がずっといなかったんだからそのせいかも



ショウマは戦士達が出発していくのを見送って、御殿の裏側へ戻る。

御殿の裏側は柵で覆われてる。

女性だけの居住エリア。

男性は立ち入り禁止。

攫われた女性達のための場所だ。


捕えた紳士服の男。

彼の店の地下には攫われて奴隷扱いされてる亜人の女性がたくさんいると言う。

女達を開放するよう迫ったら男は開き直ってしまった。

「嫌なこった。

 女一人に付き10万G出せば、考えないでも無いぜ」

「そんな態度でいいの?

 今キミ捕まってるんだよ」

「ああ、殺すんなら殺せ。

 無料で女を開放したりしてみろ。

 ナメられてあの街じゃもう商売していけねぇ。

 今死んだって同じ事だい。

 ただしあの女達は戻らないぞ」

「そっか。

 しょうがない。

 殺すか」

ショウマは目がマジだ。

女性たちは奴隷扱いされてると言う。

どんな目に合ってるのか。

殺されてもしょうがないよね。

「落ち着いてください。

 ショウマさん。

 いくら相手が悪人と言っても、殺せば殺人罪ですぞ」

「な。やっぱコイツ、おかしいだろ。

 今、本当に殺す気だったぜ。

 聖者サマとかじゃねぇよ」

「いや、ますますおもしろいじゃないか」

順番にミチザネ、チェレビー、タケゾウのセリフだ。

チェレビーはショウマに殺す宣言されてから怯えてる。

絶対アイツ、やべー奴だ。

アレが聖者なワケが無い。

タケゾウは面白がってる。


「とりあえずこの男は開放しましょう

 女性たちに関してはミチザネに考えが有ります」

ミチザネは帝国軍、帝国情報部へ密告した。

「亜人の女を奴隷として働かせている。

 そのこと自体はグレーです。

 それだけで帝国軍も情報部も動かない」

「しかし、地下を秘密クラブにしている

 秘密の商売と言う事はその売り上げは?

 はたして帝国に申告しているのか?

 税金は払っているのか?

 まぁまずしてないでしょう。

 ならば闇商売に脱税。

 まごう事なき犯罪ですな」

「ええー。

 女性を攫って奴隷にしてる事より、

 脱税の方が問題になるの?」

どうもやっぱりショウマには帝国は好きになれそうにない。

「帝国は闇商売に厳しいですからな

 それも小遣いレベルではない大金が動いてる様子」


すぐに結果は出た。

ニ、三日で女性達は解放された。

帝国兵が亜人の村まで連れて来た。

鋭い目の女隊長がショウマに女性たちを引き渡す。

「さすが、隊長。

 ここまで早く動いていただけるとはミチザネも思いませんでした」

「情報部が動いたのだ。

 すぐ証拠も掴んできた。

 こちらも出動しやすかった」

ミチザネが女隊長と話をつけておいてくれたらしい。

普通店に捜査の手が入っても、女性たちを亜人の村まで連れてきてくれはしない。

「自分も女性だからね。

 聖者サマ。

 この娘達、酷い目に合って傷ついてる。

 治してあげて欲しい」

体のケガはショウマが治せる。

心の傷までは荷が重い。


村に来たのは女隊長だけではない。

情報部という男も来た。

黒い制服に星型☆を上下ひっくり返したマーク。

情報部の印らしい。

「亜人の村に聖者サマですか。

 少し噂になってますよ。

 無料で亜人たちに神聖魔法を使っている人間がいるとね。

 今日は挨拶に寄らせて貰っただけです」

なんだかニコニコした男。

幸せそうな微笑みを浮かべている。

「あれは微笑みのキルリグル!?」

女隊長とミチザネがコソコソ話す。

「本物ですか?

 何だってこんな所に情報部の有名人が」

「勿論本人だ。

 店のガサ入れに同行してきた。

 あの地下の惨状を見て笑ってたんだ。

 他にいるモノか。

 顧客リストを持っていかれたよ」

「顧客リスト。

 なるほど、地下の客は金持ち、貴族連中。

 その弱みを握れる機会だった訳ですな」

女隊長は思い返す。

店の地下。

ゾッとした。

女達は鎖に繋がれていた。

怪我をしている者も多い。

鎖が無い者は逃げ出せ無いようにしている。

足の腱を切っている。

パッと見では分からない。

足元を隠す服をクツを脱がせてみればすぐ分かる。

不自然な足の筋肉の形。

筋肉の筋を切り、繋がらないようズラした形で治したのだろう。

まともに歩行すら難しい。

兵士達はみんな顔をしかめていた。

泣きそうになっている者もいた。

女隊長は泣かないよう努めた。

現在は職務中、感情的になる場では無い。

泣くのは家に帰ってからでいい。

そんな中、笑っている。

一人、幸せそうに微笑んでいる。

あんな人間他にいるモノか。


女性達はまとめて生活してもらった。

イタチに攫われた女性だけではない。

帝国のアチコチから連れられて来た女性。

女性達は50人近い人数。


聖者サマ御殿の近くで生活している。

女性達が住むエリア。

彼女たちのキズが言えるまで男子は立ち入り禁止。

ショウマは例外。

いや立ち入ったりしてないよ。

恩に着せてハーレムやり放題とかしてない。

本当だって。

サツキさんやナデシコさん、村のお婆ちゃんたちが様子を見ている。

体のケガは全員ショウマが治した。

精神に関してはお婆ちゃんたちに期待したい。

女性達は替わりばんこに御殿の雑用をしている。

掃除に洗濯、その他もろもろ。

料理だけはケロ子がすると言って断った。

後はサツキさんの薬作りの手伝い。

ナデシコさん達と革の魔法武具の作成。

比較的元気な女性は村の温泉施設、食事処の従業員だ。

アラカワさんの手伝いをしている者もいる。

全員ショウマに感謝している。


今もショウマを見かけるだけで拝んでくる娘までいるのだ。

「聖者サマ。今日もお顔を見れた」

「ワタシ達を地獄からお救い下さった天使」

「白い衣が神々しいわ」

「いやもう天使と言うよりむしろ神」

僕なにもしてないんだけどな。


「スゲエ感謝してるぜ。

 どう言えばいいのか分からないくらいだ。

 本当にありがとう。

 聖者サマ」

キバトラはガッツリ頭を下げた。

「いや、大したことないよ」

というかホントにショウマは何もしてない。

ミチザネに任せて放置ゲーしてただけだ。

「女の人達が早く立ち直ると良いよね」

キバトラは顔を曇らせる。

「ああ、オレは心の傷もいつかは癒える。

 そんな風に思ってたんだ。

 だから、傷ついたヤツにはあまりかまわないで放ってた。

 あれは失敗だったのかな」

誰のコトを言ってるんだろう。

「女達の回復には出来るだけ協力するぜ。

 何をしたらいい?

 何でもするぜ」

うわー。

顔がコワイ戦士のなんでもしますキター。

いや、要らない要らない。

気持ちは有り難いけどキバトラがうろついたら間違いなく女性たちは怯えるよ。

「アラカワさんを手伝って大工仕事をフォローしてあげて。

 住む家も足りないし、お店ももっと作りたいんだよね」



さてあの日何が有ったのか。

実はショウマは良く覚えていない。

ケロ子たちが攫われ、取り戻しに行った。

イタチという男を追って『野獣の森』に行った。

石化したサツキさんを見つけた。

彼女を回復させるため『母なる海の女神』を使った。

そしたら女神が現れた。

そいでショウマは女神とムニャムニャムニャ。

したよね。

それとも妄想。

なんだかあの時、いろんな事が分かったような気がした。

自分が全知全能になったみたい。

悟りを得た。

覚醒した。

そんな気がしたのだ。

どこまで本当でどこから妄想。

どうも客観的に考えてみると怪しい。

視界が広がってくとかアブナイ薬をやった人の妄想くさく無い?

うっすら覚えてる。


「ありがとうな、ニィさん。

 ニィさんの魔力でまた『海底に眠る都』動き出したわ。

 動き出せば、自浄作用でちょっとずつマトモに動くなるようになるやろ」

「お礼や。

 海の女神の祝福つけたる。

 自身の体力と、回復魔法の効果が倍になるいうヤツや」

「にしてもちょっと魔力貰い過ぎたわ。

 カンニンやで。

 うーん。

 なんか別にもお礼できたかなー?

 そうや。

 ウチの教団にニィさんのコト言うとくわ。

 よろしくしといてって。

 ほなまたなー」


ショウマは気絶していた。

魔力切れというヤツだ。

ショウマが魔力切れを起こしたのは初めて。

コワー。

なんというか、心も体もウツロになる。

暗い意識の中落ちていくように眠るのだ。

これ僕、死んだんじゃないと思うほどコワイ。


そりゃ魔術師の人達魔力切れを避けるよ。

ギリギリまで魔力使うとかそんなアブナイコト出来ない。

一つ間違えたらもう起きてこないかも。

そんな気がするのだ。


そこから何となく普通の人は魔法ランクが上がらない理由も想像出来る。

みんな魔力切れは怖い。起こしたくないのだ。だから実戦でギリギリまで使ったりしない。

可能な限り温存する。実戦で使わなきゃ魔法のランクは上がらない。

ショウマが実戦で何十回と魔法を使えるのは魔力がチートレベルに高いからだ。

普通の人は温存して、一、二回しか使わない、使えない。

それじゃ何時まで経ってもランクは上がらない。



冒険者組合にも寄ろうかな。

「聖者サマ―」

冒険者の相手をしていたザクロさんがそっちを無視してショウマと話し出す。

いや、先に来てた人は?

ザクロさんと話してた冒険者は憮然としている。

「コラ、ザクロさん」

「支店長、その人よろしくねー」

「聖者サマのせいでこの組合もチョッピリ忙しくなっっちゃったよ」

うーん。

村に冒険者が来るようになったと言ってもまだ大した人数じゃない。

ベオグレイドや迷宮都市の組合に比べれば、全然ヒマなハズだ。

「どう、冒険者さん達?」

「うん。なんとかなってるかな」

薬はサツキさん達のお陰で供給されてる。

宿泊所も食堂も順調。

「後は武器だね」

ザクロさんが言う。

武器か。

武器は使うと傷む。

矢なんて消耗品だ。

剣だって使ってれば痛む。

ベオグレイドから仕入れてるけどやはり時間はかかる。

「武器屋や鍛冶屋で村に来てくれる人いないかな」

「うーん。

 何でも屋みたいな商人さんでもいいんだよ。

 こっちで注文聞いて、買い出ししてくれる人」

みみっくちゃんかミチザネだな。

でも両方ともけっこう忙しいんだよね。

冒険者もやってるし、村の村長代理みたいな事もしてるのだ。

「こんな時ザクロの兄さんがいてくれると良かったのになー」

「お兄さん?」

「うん。

 迷宮都市に商人の勉強に行っちゃったんだ。

 自分が立派な商人になれば、必ず村の役に立つってー」

「聖者サマ達、迷宮都市から来たんだっけ?

 じゃ知らないかな。

 ザクロと同じ亜人なの。

 と言ってもお面してるから分からないかー」

「その人もお面してるの?」

「うーん、どうかな?

 普通の人から見ると自分の顔は醜いって気にしてたからねー。

 お面してるかもねー」

商人志望の人がいた。

ネズミの亜人だって言ってた。

ショウマは手を伸ばして、ザクロのお面をそっと外す。

「な、何するの?!

 聖者サマ」

その顔にはネズミの面影が有る。

ピンク色の鼻が突き出して黒い瞳が潤んでる。

「なんだ、醜いなんてウソツキ。

 全然カワイイじゃん」

「エッエッ、エー。

 ザクロ、聖者サマに口説かれたー!?」

アタフタしてるザクロさんにお面を帰す。

帰ったらみみっくちゃんに言わなきゃ。

メモを、呑み込んだはずのメモをザクロさんに渡してって。

「お兄さんのカタミです」

そう伝えてあげて欲しい。



【次回予告】

母なる海の女神教団。その聖都、テイラーサ。今日は定期的に開かれる儀式の日。

教徒の視線が聖女に集中する。テイラーサ近辺に住み、毎回儀式に参加してる者。遠方から一目聖女を見ようとやって来た者。年老いて生きてるうちにこの目で聖女を拝みたいと訪れた者。さまざまな視線が聖女エンジュに注がれる。彼女は壇上で言った。

「ヤッホー。元気でやってるかいなー。みんなの女神様、ティアマーさんやでー」

次回、カリンは訴える。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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