第92話 亜人の村の日々その1

「ショウマさまっ。

 朝ごはんですっ。

 もうみんな集まってますよっ」


ケロ子の声で目覚める。


「分かった、今行くよ。

 先食べててー」


あくびをしながら返事をするショウマ。

ズルズルと体をベットから引っ張り出す。

二人は優に寝れるダブルベッド。

木製の土台は大工さんに作ってもらった。

アラカワさんだったかな。

上に獅子山羊(キマイラ)の毛を使った布団。

シーツは土蜘蛛の糸製。

極上のシロモノだ。


昨日は誰と寝たんだっけ。

ケロ子だな。

彼女は朝早い。

全員分の朝ご飯作るのだ。


すでにショウマはコノハの家からは出ている。

自分の家を建てたのだ。

というか個人の家レベルじゃない。

お城みたいになってる。

村の人には聖者サマの御殿と言われてるのだ。

村の大工というアラカワさんが作った。

「アラカワ、今日中に造るですよ。みみっくちゃん達が住むんです。

 イメージとしては3階建てです。1階は入り口、お役所みたくするです。

 2階は聖者サマとの謁見の間です。豪華に作るです。といってもゴテゴテ派手にしちゃダメですよ。

 質素におごそかに、それでいて趣味が良く上等の品を並べてまとめるです。

 3階がご主人様とみみっくちゃん達の生活の場です。

 ちゃんと生活しやすいようにするですよ。ベッドは特別製で、お風呂も必要です…」

「うるせえ。

 何言ってんだ、お前。

 そんなの1日で出来る訳ねーだろ」

「アラカワなら出来るですよ。不眠不休で働くです。

 夜の24時までなら今日中に作ったと認めてあげてもいいですよ」

「あのなぁ…」

「戦士達は何人でも借りられるです。キバちゃんにはもう許可もらったですよ。

 女手も手を貸してくれる人たちがたくさんいます。

 聖者サマに恩返ししたい人だらけなんですよー」

「許可ってオマエ…。

 オレに言いに来る前にもう手を回してるんじゃねーかよ」

「あれ、アラカワ。聖者サマに逆らうですか?」

「分かった、もういい。

 やるよ。

 やりゃーいいんだろ」


コノハさんの家には母親サツキさんが一緒に住んでる。

ユキトの家も同じ、ユキト、イチゴ、ナデシコさん。

本来の住人に戻ったのだ。

エリカ、ミチザネ、コザルは別に家を作った。

エリカの寝室には鍵が掛るようにしたらしい。

「なんかちょっと寂しいわね」

エリカはブツブツ言っていた。

コノハさんの家にたまに泊まりに行ったりしてるらしい。

ショウマのとこはダメ。

昼遊びにくるくらいならいいけど、夜は大人の時間なのだ。


夜の話か。

タマモはキレイだった。

白い髪の毛から覗く金色の瞳がショウマを見つめる。

口を開けるとキバのような八重歯。

赤い舌がチロチロ覗く。

その舌でショウマの全身を舐め上げたのだ。

いや夜の話はまた今度。

今は朝、朝食の時間。


ショウマが居間に行くと人が大勢いた。

ケロ子、みみっくちゃん、ハチ子、ハチ美。

ショウマと一緒に住んでる従魔少女達。

タマモもゴハンを食べてる。

タマモは基本的にコノハの家。

“妖狐”として住んでる。

コノハさんにはどこで正体を明かしたもんだろう。

コノハさんはあの夜夢うつつの状態だった。

目の前で美少女スタイルのタマモが“妖狐”になったのを見たハズ。

どこまで覚えているのか。

ショウマはまだちゃんと確認していない。

コノハさんからもツッこんでこないし。

何となくあいまいな状態。

その5人のほかに何故かエリカ達までゴハンを食べてる。


「だって、ケロコさんのご飯美味しいんだもの」

「しかしエリカ様、さすがに毎日食べに来てるのはどうかと」


「いいよっ、材料はちゃんと貰ってるしっ。

 それにアタシだけで造ったんじゃないよっ。

 そこの煮物はサツキさんにも手伝ってもらったのっ」


ケロ子は料理の腕もレパートリーも上昇してる。

コノハの母親サツキさん、ユキトの母親ナデシコさんと一緒に料理してるのだ。

お互いのキッチンを行き来してる。

ショウマの家のキッチンが新品で一番広い。

結果ショウマの家のキッチンに3人で集まる事が多くなってる。


ナデシコさんとイチゴちゃんはショウマが石化から回復させた。

『野獣の森』でランク5の魔法を使ってしまった。

それもコノハさんやタマモのいる前で。

みみっくちゃんは何だか既に知っていた。

「ご主人様。やらかしたって事はもうカクゴが出来たってことですよね。

 聖者サマとして名が知られてしまってもいいよと仰せですね。

 だったらみみっくちゃんも遠慮しません。聖者サマ御殿作りましょう」

いや覚悟なんて何もしてないよ。

でもまぁみみっくちゃんがナニカすると言うならそれはそれでおまかせしよう。

石化はなりかけならランク4で回復できるらしい。

『回復の湖』を二人に使った。

石化が進行してるナデシコさんにはアレをやってみた。

『かーいーふーくーのーみーずーうーみ』

唱える時により魔力を込めるヤツ。

前『炎の玉』で試したことある魔法の使い方。

『炎の玉』は通常より大きい火となり攻撃力も上がる。

ティアマーは何と言っていたかな。

魔法の効果上限とか言っていた。

おそらくこの時間をかけて魔力を込める行為はその上限を突破するワザ。

イチゴちゃんはすぐ治ったし、ナデシコさんも二回で回復した。

複数回魔法を唱えるのと、一回の魔法に複数分魔力を込めるのとどちらが効率良いのか。

おそらくショウマの感触で言うと後者だ。

何度かやっていれば魔力の込め具合の調整やその効果も分かって来そう。



「うむ、美味しい。

 この前エリカ様が作った料理は食べるのに苦労した。

 ニガイ物を無理やり食べる新しい修行かと思った」


コザルさんが天井から言う。

なんでこの人は天井が好きなのかな。


「コザル、余計な事言わないでいーのよ」

「エリカ様、たまにケロコさん達の料理会に参加したらどうです。

 今のままではさすがに女子としてどうかと思いますぞ」


「いーのよ。

 アタシは剣の修行が有るの」


エリカ達は亜人の村から『野獣の森』探索している。

ベオグレイド側の知り合い冒険者を呼び寄せたりしている。

「危険は有りますが、こっちの方が稼げますぞ。

 簡易宿泊所も用意してあります。

 試しにどうです」

ミチザネが美味いこと言って引き込んでる。

簡易宿泊所はもちろん、村の大工がどうにかした。


「いや、もう勘弁しろよ。

 いくら何でも俺、働き過ぎだぞ」

「アラカワなら出来ますですよ。

 それから冒険者が泊まりに来るようなら温泉も拡張したいですね。

 今のままじゃ手狭です。

 村の人は無料にして、宿泊所に泊まってる人からはお金取りましょう。

 そうだみみっくちゃん閃きましたよ。

 ついでに横に食堂も併設しましょう。

 冒険者と言えば、酒場。お酒も引っかけられるようにして稼ぎましょう。

 アラカワー、設計と工事の手配よろしくですよ」

「オマエー!

 簡単に俺の仕事増やすんじゃねぇ。

 いやもうマジで死ぬって」


村の戦士達が2チーム、エリカ率いるチーム。

この3チームに加え冒険者達の数チームが『野獣の森』に挑んでいるのだ。

エリカ率いるチームには弓士のムゲンや、剣士タケゾウ、チェレビーの部下チンピラ冒険者達が加わっている。


チェレビー自身はサツキさん、コノハさんと薬作りに回ってる。

サツキさんはコノハさんに薬作りを教えた母親。

コノハさんより薬作りの腕は大分上らしい。

チェレビーとお互いの知らない知識を分け合い、上手くやってるようだ。

なんせ薬は必要だ。

ショウマも回復魔法を使うが、3チーム全部についてはいけない。

冒険者達が迷宮で使うのに必要なのだ。

ショウマはここ数日全然迷宮に行ってない。

僕良く働いたもの。

休憩だよ。


冒険者組合の建物も立て直した。

工事は…

「だから死ぬってばよ」

というワケだ。

これで亜人の村に来た冒険者にも対応できる。

買い取り価格は今、ベオグレイドの半分くらい。

一気に同じには出来ない。

徐々にね。


組合の受付ザクロさんに調べてもらった。

チェレビー達は要注意人物になってた。

新人冒険者を脅して金品やドロップ品を奪ってる、そんな疑いが有る人物。

でも疑いが有るだけで、指名手配もされてなきゃ犯罪歴も無い。

そのままエリカの下で働いてる。


「アンタらいいわね。

 イチから鍛え直すからね。

 覚悟しときなさいよ」

エリカは即リーダー風を吹かせてる。

大丈夫かな。

部下になったと思わせて迷宮内で裏切るとか。

まぁコザルさんもついてるしなんとかなるか。


ショウマはまかせっきりだ。

ミチザネにエリカ、みみっくちゃんが相談してどんどん体制が出来上がってく。

ショウマは眺めてればオーケー。

素晴らしいね。

放置ゲームみたい。


タケゾウとムゲンはそう簡単じゃなかった。

どちらも賞金首だった。

冒険者組合に情報が回ってるのだ。


タケゾウは言う。

「いやー。

 練習試合だったんだがな。

 自分は強い強いって過信してるバカがいてよ。

 軽く切っただけなんだが当たり所が悪かったんだな。

 死んじまった。

 だけど真剣で斬りかかってきたのはアイツの方なんだぜ」


そんなに大きな罪でも無い。

保釈金を払えば許される話みたい。


「頼むよ、聖者サマ。

 ちょっと金貸してくれないか。

 その分、ここで働くし。

 アンタの仲間の女戦士達に稽古も付けるぜ。

 あの女達みんな素質は有りそうだが、キチンとした訓練受けた事無いだろ。

 見りゃ分かる。

 動きに無駄が多すぎるぜ」


確かに従魔少女達は訓練受けさせたことなんかない。

でもタケゾウ剣士でしょ。

みんな剣は使わないよ。


「俺様を甘く見てくれるなよ。

 武芸百般、剣でも槍でも素手でも武芸と名の付くもんは一通り齧ってんだ。

 そうでもないと侍剣士にはなれないのさ」


侍剣士?

ザクロさんが教えてくれた。

「剣戦士の上級かつ特殊職だっていうよー。

 剣とか槍、一つしか心得が無い人はなれないのが特徴なんだって。

 侍剣士になった人くらいしか侍ブレードは使えないって言うよ。

 『花鳥風月』のキョウゲツさんが有名な侍剣士だね。

 その人が有名なんで憧れてる人も多い職業だよ」

まぁいいか。

確かにこの人は腕が立つらしい。


「ショウマ王。この男が腕が立つのは保証しますぞ。

 まぁ私にはかないませんが、

 しかし学ぶところの一つくらいは有るでしょう」

ハチ子も言うし、保釈金くらい出してもいいかな。


「恩に着るぜ。

 聖者サマ」

侍剣士タケゾウ、ゲットだぜ。

みたいな。


ムゲンはというと。

「私は犯罪などしていませんよ。

 賞金をかけてるのは私の祖国です」


ムゲンは顔を隠す帽子を取ったら美青年だった。

なんだよ。

顔を隠して正体の分からない敵。

実は美女でしたー。

みたいなのを期待してたのに。

ガッカリだよ。

それはコザルさんがやってしまったか。

いやネタかぶってもいいじゃん。

何回やってもいいモノはいいんだよ。


彼は小国の王子様だった。

相続争いで兄弟と揉めて、祖国を出て来たらしい。

ムゲンと言う名も逃れるための偽名。

本当の名はムスターファとか言うらしい。


美青年で王子様!?

うーん。

主役度高い。

ショウマの仲間にはいらないよね。


でもこの人は帝国の地理に詳しいらしい。

ショウマはそのうち、鉱山に行って鍛冶の村にもいかなきゃイケナイ。

案内だったら任せてくださいと言う。


まぁいいか。

村の戦士達には遠距離支援の人がほとんどいない。

弓矢使える人は貴重なのだ。


弓士ムゲン、ゲットだぜ。

これも何回やってもいいよね。



「ショウマ王、それでは行ってくる」

「ショウマ王、行ってきます」


「今日はハチ子とハチ美が『野獣の森』行く日?」

「うむ、今日はLV15くらいまで行きたいところだな」


「ハチ美、ハチ子が暴走しないようよろしくね」

「はい、ショウマ王。

 ご安心ください。

 村の戦士の方々にも被害が少ないよう、

 私が監督します」


「なんだ、ハチ美。

 ワタシがリーダーだぞ」

「はい、分かってますよ。

 リーダーは姉様です。

 私は監督役です」


「そうか、ワタシがリーダーと分かってれば良い。

 ……

 アレ、リーダーと監督ってどちらが偉いんだ?」


従魔少女達は交替で迷宮に行ってる。

ケロ子、みみっくちゃん組とハチ子、ハチ美組。

イタチは村の戦士のリーダー格だった。

その代わりに戦士達のグループに加わってる。

新入りのハズなのに何故かリーダー扱いなのだ。



【次回予告】

情報部という男も来た。黒い制服に星型☆を上下ひっくり返したマーク。情報部の印らしい。

「亜人の村に聖者サマですか。 少し噂になってますよ。 無料で亜人たちに神聖魔法を使っている人間がいるとね。今日は挨拶に寄らせて貰っただけです」

なんだかニコニコした男。幸せそうな微笑みを浮かべている。

次回、女隊長は語る。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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