第四章 地底大迷宮と暴走する英雄と竜の塔と鋼鉄の魔窟と

第95話 ショウマのいない迷宮都市その2

迷宮都市は騒めいてる。


収穫祭が近いのだ。

お祭りなのだ。

商店は競ってセールをしかける。

レストランや酒場は賑わう。

取れたばかりの収穫物。

野菜が果物が、近隣の村から遠方から次々運び込まれる。

市場ではこれらが売られ、飲食店の連中も目玉品を探しに来る。

近くの村から遊びに来るものもいる。

わざわざ遠くから見に来るもの好きだっている。


広場には屋台が出る。

旅商人が露店も開く。

芸人なんかもやってくる。

旅芸人だ。

キワドイ格好の踊り子の姉さんも居れば、奇術師もいる。

吟遊詩人に道化。

道端で踊って小銭を稼ぐモノ。

大がかりなテントで入場料を取る有名な一座。

イロイロだ。


パレードなんかもある。

貴族や組合の役員なんかが飾り馬車から挨拶する。

もちろん人気は無い。

人々が沸くのはゲストに招かれた冒険者が通る時だ。

名の知れた冒険者が馬車に乗って通れば歓声が上がる。

拍手が響き、指笛が鳴らされる。



「ジョウマ?

 誰だい、そいつ」


サラだ。

老女サラ、冒険者チーム『名も無き兵団』のリーダー。

この時期彼女は忙しい。

彼女は商売をしている。

武器屋、薬屋、服屋、酒場。

いろんな店に店長を立て、その元締めなのだ。

祭りに出る露店の仕切り。

それにも関わってる。

収穫祭の実行委員の一員という訳だ。


そんな彼女の元に今回のパレードに参加する冒険者の候補が届けられた。

まだ候補である。

確定な訳じゃない。

でもサラの元に届けられた時点である程度決まった話だ。

調査をして問題の有った候補や、本人が出ないといった候補なんかは外されてる。


だからキョウゲツの名は無い。

サラは引っ張りだそうとしてるが、本人が逃げてるのだ。

キョウゲツが若い頃はパレードに無理矢理参加させたモノだ。

まだヤツも断っていいモノと思ってなかった。

名前も顔もそれで一気に知られた。

道を歩けば人々が騒ぐ。

アイドルのような人気になったのだ。

いろんなイベントに参加させた。

サラの商売に利用したのだ。

金持ちのオバサマ達を集めたパーティーのホストのようなマネもさせた。

あれはちょっとやり過ぎだったかね。

酔っぱらったオバサマ達がキョウゲツ一人に群がったのだ。

少し反省するサラだ。

少しだけだけど。

それからキョウゲツは女嫌いを広言するようになった。

イベントからも逃げてる。


「ジョウマ氏。

 大地の神は父さんだよ教団の大司教です。

 冒険者チーム『天駆ける馬』のリーダーとしての参加です。

 街では話題になってます。

 “迷う霊魂”を倒した男として」


サラの元に候補のリストを届けた部下が説明する。


「ああ?

 何だそれ。

 ウラが取れた話かい?」

「冒険者組合では“迷う霊魂”を倒した者は分かってないという返事です。

 冒険者チーム『天駆ける馬』のリーダーなのは事実です。

 大地の神は父さんだよ教団の大司教なのも確認しました」


「うーん」


大地の神は父さんだよ教団。

ハタ迷惑な集団だ。

ヤツらは肉体を鍛えてる。

冒険者としての行動も積極的にしている。

冒険者としてはそれなりだ。

体力は無尽蔵に有るし、得体の知れないスキルも使う。

でも全員素手で戦うヤツらだ。

チームに魔術師も入れないし、罠に対する斥候の類も置かない。

応用が効かないのだ。

特殊攻撃を使うような敵にはアッという間にやられる。

だからそれなり程度。

大活躍してるなんて話は聞かない。


「どうも胡散臭いね。

 アタシは推薦しないよ。

 他の役員どもがコイツを出す分には文句も言わない」


サラは迷ったけど候補から外すまではしない。

あくまで祭りのパレードだ。

飾り物である。

本物の腕利き冒険者である必要は無い。

話題性があればいいのだ。


その時サラの名前が呼ばれる。


「サラ様、大変です!

 大変なんです」

「騒がしいね、どうしたんだよ」


「空、空を見てください。

 迷宮都市に近付いてくるんです」



街は騒めいてる。

いや騒めいてるどころじゃない。

パニックになりかけてる。


「何アレ!」

「バケモノ!」


「飛んでるぜ」

「空飛ぶ魔獣か?」


「イヤ、あれが飛行船だ」

「あの王国が開発してるってヤツか」


「そうだ。王国と女神都市の間辺りじゃもう使われてる」

「王国に行ったヤツなら見たことあるハズさ」


少しは知ってるモノも混じってるがほとんどの人間が見たことが無い。

空飛ぶ乗り物だ。

見たことあるヤツでも仕組みは知らない。

公開されてない。

空気を逃がさない袋。

それを下から温めてやれば空に上がってく。

熱で飛ぶ風船みたいなモノ?

そんなくらいの認識だ。


「ありゃ 王国の飛行船だね。

 あの胴体に書かれたマーク。

 第一王子の物じゃなかったかい?

 紋章官を読んで確認させな」


サラは飛行船は見たことがあった。

だからその存在には驚いてない。

問題は何故それが迷宮都市近くに来てるのかだ。

王国内でしか使ってなかったハズ。



「5日掛かったよ、5日、5日。

 ブルー、王国から迷宮都市まで3日で行けるハズじゃなかったの」

「レオン様。

 3日は理想的な空の状態ならです。

 風に煽られれば倍は掛かると言っていましたよ」


「こんな事なら高速馬車に頼んだ方が速かったんじゃない」

「あれは15日間で女神都市、迷宮都市、野獣の森を動いてます。

 タイミングが合わなきゃ14日待つことになります」


「不便だね、不便だね不便だね」


ブルーヴァイオレットはため息をつく。

王国の飛行船。

まだ正式には運用されていない。

王国内、その近辺でしか使っていない。

試験飛行の名のもとに借りてきたのだ。

飛行船の運用はまだ研究所の預かり。

第一王子とて好き勝手に使う事は出来ない。


「試験飛行、試験飛行試験飛行だよ。

 迷宮都市まで飛行する、試験飛行。

 いつまでも王国近辺しか飛ばないんじゃ、

 実用に耐えるかどうか分からないじゃない」


王国に帰れば研究所からクレームが来るのは間違いない。

それも王子の元へは苦情は出せ無いだろう。

親衛隊隊長であるブルーヴァイオレットのところへ苦情は集まるのだ。

ため息をつかざるを得ない。


「まぁでも、遠距離飛行の能力も証明されたね。

 これで『不思議の島』に行くことも出来る。

 不思議の島、不思議の島不思議の島。

 『不思議の島』探索がはかどればお釣りが来るよ、ブルー」


そうだ。

『不思議の島』探索を行い、その成果を研究所に渡せば文句は言うまい。

でもレオン王子はそこまで考えていなかった筈だ。

今思いついただけの後付け。


「そうですね、レオン様。

 迷宮都市は明日から収穫祭が始まるタイミングです。

 それに間に合ったんだから良いとしましょう」

「収穫祭、収穫祭迷宮都市の収穫祭。

 確か有名冒険者を連れたパレードも有るんだよね」


「有名冒険者、有名冒険者地下迷宮の有名冒険者

 特定ボス魔獣を倒した者の顔も見れるのかな」

「レオン様が来てると知れたら、パレード参加を要請されると思いますよ」


間違いないだろう。

大陸でもっとも有名な冒険者の一人。

それが目の前の金髪の青年だ。


「えーっめんどくさいな、めんどくさいなめんどくさいな。

 ブルー、替わりに出ておいてよ」

「私を見ても誰も喜びません。

 民衆が求めてるのはアナタです」


西方神聖王国迷宮冒険者部隊。

そのリーダー第一王子レオンと親衛隊隊長ブルーヴァイオレットである。



冒険者組合の中。

女冒険者カトレアは受付嬢アヤメに頼まれた。


「カトレアさん。

 キキョウ主任がカトレアさんとガンテツさんに頼みごとがあるそうなんです。

 ガンテツさんに逢えませんか」

「うわっ。

 ガンテツのヤツ、今忙しそうなんだよな」


冒険者チーム『花鳥風月』の出発は明後日。

カトレア達は『不思議の島』へ行く。

明日は収穫祭、初日。

迷宮都市とはしばらくお別れだ。

祭りの初日くらいは楽しみたい。

次の日出発。

収穫祭は数日続くけど、一足お先にオサラバ。

収穫祭のため、荷物を届ける馬車はひっきりなしに迷宮都市へ来てる。

その帰りの便に載せて貰うのだ。

ガンテツが見つけて来た、格安の移動方法だ。

ガンテツは長旅の準備やら、お別れの挨拶でバタバタしている。



「ガンテツ、冒険者組合に顔出さないか。

 キキョウがアンタと話したいんだってさ。

 時間あるかい」


カトレアは『花鳥風月』のねぐらに顔を出す。

古い家を格安で買い取ったとか言うシロモノ。

ボロ屋だがまぁまぁ広い。

部屋数も多いし、風呂もついてる。

キョウゲツやガンテツ、男連中はここで寝泊まりしてる。

カトレアは今や紅一点。

さすがに一緒に寝る気は無い。

馴染みのおかみさんがやってる食堂の二階に間借りしてる。


「ああ、ちょうど冒険者組合にも挨拶に行かなきゃいかんと思ってた。

 要らんドロップ品なんかも最後に全部金に換えたいしな」

「そうか、そうだね。

 キョウゲツ、要らないもの有ったら渡しなよ。

 ついでに売ってきてやるよ」


カトレアはリーダーにも声をかける。

キョウゲツは剣の素振りをしてる。

細身で片刃の剣。

刀というらしい。

カトレアから見ると細すぎてすぐ折れちまいそうなシロモノ。

キョウゲツの手にかかると魔法のような攻撃力を発揮するのだ。


コイツは旅支度してる様子が無い。

不用品の整理なんてしてなさそうだ。


「拙者はドロップ品なんか持っておらんぞ。

 金もドロップ品も全部、ガンテツに預けてある」


はーん?

迷宮で探索してる間はともかく。

普段から私物も金も預けっぱなしかい。

カトレアは呆れる。

それで良く拙者一人でも『不思議の島』へ行くなんぞと言えたモノだ。


「アンタらもう結婚しちゃえば。

 財布も一緒なんて夫婦みたいなもんじゃないか」


「俺はホモじゃねぇ」

「拙者はホモじゃないでござる」


「分かった、分かった」


ツッコミまで息ピッタリじゃんか。



【次回予告】

『花鳥風月』とキョウゲツ。その名前は有名だ。サムライブレードで何でも切り裂く地下迷宮の剣士。他国の王子様の耳に入っていてもおかしくない。次に知られてるのはガンテツ。『花鳥風月』のNo2。カトレアの名前なんて大したことは無い。『地下迷宮』で冒険者を生業としてる者なら聞いた事くらい有るかもしれない。その程度。

「へー。ウチの名前なんて良く知ってるね」

次回、カトレアはニヤける。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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