第80話 真昼の凶行その3

ショウマは亜人の村に辿り着く。

そろそろ夕暮れ。

なんとか暗くなる前に帰って来れた。


ショウマは疲れてない。

だってほとんど台車に乗ってたからね。


台車を交互に押してたハチ子、ハチ美は疲れ気味。


もっとベオグレイドまで楽に移動できないかな。

馬車使うとか。

従魔に馬車引かせるとかどうだろう。

高速馬車のパクリアイデア。

“暴れ猪”あたり捕まえて従魔にして台車を引かせる。

しかしショウマが従魔にした場合美少女になってしまうな。

少女に馬車を引かせる。

シュールな絵だ。

ダメだな。



途中ショウマは男達とすれ違っている。

ショウマは気が付いていない。

相手は男しかいないグループ。

気にもしていない。


ハチ子、ハチ美は気が付いてる。

行きにもすれ違った。

殺気のする男達。

しかも刀からは血の臭いもしている。

男達からショウマを守るように動く従魔少女達。

あの中にいるのはイタチと呼ばれた卑劣漢ではなかったか。

何事もなく男達は通り過ぎて行った。



「アレだ。

 あれがオレの言ってた上物の女だ」


「よし、一緒に攫うか」

「この道なら他の人間も通らないぜ」


「ダメだ。

 手を出すな」

紳士服の男は言う


「何でだ?

 アンタも見ただろう。

 上物の女だろうが」


確かに美女だ。

惜しい。

しかし。

一緒にいるあの二人。


「あの一緒にいる女。

 あのダマスカスの鎧。

 普通の冒険者に手に入るモンじゃねえ。

 ルメイ商会のトップの親族だ。

 商人組合のパーティーで見た覚えが有る」


「チッ。

 たかが商人だろう」

「攫っちまえばこっちのもんだ」


「ただの商人じゃねぇ。

 ルメイ商会は既に皇族のご用達だ。

 貴族とも縁が深い。

 女のために手を出すにはデカすぎる相手だ」


そんな男達の会話が有った事にはハチ子ハチ美も気付いてない。




村の入り口に付き、コノハの家に向かうショウマ。

そんなショウマ達に駆け寄ってくる少年がいる。

ユキトだ。


「にいちゃん、大変なんだ。

 タマモが、タマモが死にそうなんだ!」

「タマモが?!」


何が有ったの?!



ユキトは村の見張りをしていた。

『野獣の森』の入り口を見張る係。


見張り台は先日壊された。

今日村の大工アラカワさんが直してくれた。

作業を眺めつつ、簡単な手伝いもしたユキトだ。

今日は魔獣も溢れてこない。

交替して帰ってきたユキト。

途中で村人たちが集まっている。


「これはコノハちゃんのとこのタマモじゃないか」

「マズイ。出血が多すぎる」


「誰か薬を持ってないのか」

「血止めくらいならワシがやろう」


ユキトが行ってみるとタマモが倒れていた。

体を切られている。

刃物で切られた傷痕。

肩から胸にかけてバッサリ。

今にも死にそうだ。


ユキトはコノハを探した。

タマモはコノハの従魔。

コノハなら薬も持ってる。


しかしいない。

コノハの家にもユキトの家にもいない。

それどころかイチゴもいない。

今はユキトの家にいるハズのケロ子、みみっくちゃんもいない。


ケロ子とみみっくちゃんが?!


「連れ去られたのかもしれないんだ」


ケロ子とみみっくちゃんが、連れ去られた。

イチゴちゃんとコノハさんも?


ユキトの家に母親のナデシコはいた。

彼女は半分以上石化している。

口が効けない。

身振りでユキトに伝えた。

数人の男が彼女たちを攫って行った。

多分そう伝えている。



今ショウマとユキトはコノハの家に向かっている。

村人がタマモをコノハの家に上げてくれたらしい。


「ショウマ王!我らは攫って行った男達を追います」

「おそらく途中で通り過ぎた男達、血の臭いがしました」


正直ショウマは男達を気にもしていなかった。

しかし連れ去られたのは4人。


ケロ子、みみっくちゃん、コノハさん、イチゴちゃん。

そんな人間4人も連れているようには見えなかった。


「確かに人間4人も連れていませんでした」

「しかし、彼らが何かは知っています」


「分かった。

 行って」


ハチ美、ハチ子は超感覚。

その彼女たちが言うのだ。


ショウマもケロ子たちの事が気になる。

しかしタマモは死にかけてると言う。

回復魔法が使えるのはショウマだけだ。


エリカはパニック。

なになに。

みんな大変そう。

ええっ、タマモが切られたの。

ええっ、女性陣が攫われたの。

大事件じゃない。

アタシたちはどうするといいの?


「ハチ子、ハチ美さん拙者も付いて行こう。

 自分もあの男どもは怪しいと感じたのだ」


フッと姿を現す忍者。

コザル。

今までどこにいたのよ。


「もちろんショウマさんの護衛だ」


朝からずっと一緒にいたらしい。

ベオグレイドの街にも来ていた。

誰も気付いてなかった。

門で兵士達ともめた時も、武器屋にも一緒にいたのだ。

物陰から見守っていたらしい。

ストーカーか。


「もちろん危険が有ったら、

 分かるように護衛したぞ。

 しかし普段は気配を出すのには慣れていないのだ」



ハチ子、ハチ美、コザルが男達を追う。

エリカも一緒に行く。

ショウマはタマモのところへ。

ミチザネはショウマに着いて行く。


コノハの家の前には村人が立っている。

タマモに応急処置をした者もいる。

ユキトとショウマを見ると村人達は首を振った。

横に。


「ユキト。

 もう…」

「そんな!」

ユキトは泣き出す。

村人が少年を抱きとめる。


ミチザネはコノハの家に入って行くのでショウマも付いて行く。

タマモが寝かされている。

血が大量に床に流れている。

前足は取れそうな状態。

肩が大きく切られているのだ。

顔に生気というモノが無い。


『癒す水』


『治癒の滝』


ショウマは魔法を使ってみる。

しかしタマモの状態は変わらない。

ミチザネは首を振る。

「ショウマさん、無理です。

 もう死んでいます。

 魔法で死んだ者を蘇らすことは出来ない」

言って家を出ていくミチザネだ。


残されたショウマ。

ダメだ。

魔法を使っても反応が無い。

見た時点でもう死んでいると分かった。

回復魔法でどうにかなる状態ではない。

ランク4だろうが回復魔法が効く範囲じゃないのだ。

ランク5、ダメもとで使ってみるか。

誰か語り掛ける気がするのだ。

「ランク5の魔法や。

 使って~な」

怪しい。

五月蝿いな。

今、大事な事考えてるんだよ。

 

ショウマの頭に閃いたのだ。

もう一つ手が有るかもしれない。

タマモは従魔だ。

魔獣だ。

“妖狐”なのだ。

魔獣は死んだら消えていく。

どういう仕組みか知らないがドロップ品を残してその身体は消えていくのだ。

倒してから数秒後には消え去る。

従魔はどうなのか。

タマモはまだ消えていない。


ショウマは何度か経験してる。

瀕死の魔獣を目の前にしている。

そしてショウマは彼らを、いや彼女たちを…


ショウマは見てしまう。

タマモの足が、尻尾が消えかけている。

このまま全身が消えていく。

多分残り数秒。

消えてしまったらお終い。

その前に間に合え!


ショウマは心の中の呪文を唱える。


出来るのか。

ホントウに。

分からない。


ショウマは唱える。



『我に従え 獣よ』



魔獣が、従魔が、妖狐が、タマモが光に包まれていく。

消えていくのでは無い。

光の渦に包まれていくのだ。


間に合ったか。

回復が出来なくても、従魔には出来るのではないかと思ったのだ。

なんとかなったのか。

この光に包まれていく光景は今までにも見た。

おそらく間に合ったのだ。


従魔師は魔獣を従魔に出来る。

死にかけた魔獣を自分の配下にするのだ。

では従魔をさらに従魔に出来るのか?

出来ない理由は無いだろう。

同じ魔獣なのだ。


答えは出た。

光が消えた中、一人の美少女が立っていた。


「へっへっへー。

 間に合ったな。

 よくやったぜ!もう一人のご主人」



身体はショウマより少し大きいだろうか。

白銀色の長い髪、金色の神秘的な瞳が輝く。

身体は毛皮を纏っている。

野性味と神秘の混じり合う不思議な魅力の少女。


少女は半裸だ。

毛皮を纏ってる。

大事なところは隠しているが豊満な肉体が見えているのだ。

茶色い毛皮に白い髪の毛。

何となくタマモの面影があるだろうか。

そして耳と尻尾。

白銀の髪の毛から茶色い耳が見えている。

お尻からはフサッとした尻尾が垂れているのだ。


キタ!キタキタ!キツネ耳、キツネ尻尾!

 “妖狐”少女キター。


思い返してみれば。

ケモ耳ケモ尻尾少女が最初の仲間だよね。

とか考えていたのに。

違う従魔少女ばかり増えていたのだ。

いや、もちろんケロ子達に文句は無い。

彼女たちは最高だ。

けどそれはそれとして。

待望のケモ耳ケモ尻尾少女。

いいよね。

ケモ尻尾。


ついじっくり観察してしまうショウマ。

筋肉質な従魔少女。

その腕や腿には鍛えられた筋が見える。

ウェイトトレーニングしたようなマッチョでは無い。

むしろ全身のフォルムは細身。

陸上選手のようなしなやかな身体。


身体には毛皮を着ているけど、申し訳程度に大事なところを隠してるのみ。

お腹やおへそは見えてる。

胸のふくらみも明らかに分かってしまう。

お尻からは尻尾が生えている。

フサッとした柔らかそうな尻尾。

たまに左右に揺れている。

自分の意思で動かせるみたい。

付け根はどうなってるんだろう。

着ている毛皮とくっついて良く分からないな。

お尻の部分をじっくり見てしまうショウマだ。


「ん、なんかアタシおかしいか?」


“妖狐”少女も自分の身体を気にする。


「人間の体ってこんな風なんだな」


毛皮の前を広げて自分の体を見つめる“妖狐”少女。

胸が見えてる、見えてる。

見えちゃいけない先端まで見えてるよ。


「どうだ?

 新しいご主人から見てキレイに見えてるか?」


うなずくショウマ。

しなやかな肉体。

白銀の髪の毛。

金色の瞳。

スゴク奇麗なのだ。


うなずくショウマを見て少女は抱きついてくる。

いきなり急接近。

顔と顔が近ずく。

と思ったらキスされた!


「さっきのお礼だ。

 完全に死んだと思ったところから、

 生き返らせてくれただろう」


そういうコト。

死にそうだったと言う記憶は有るんだな。


「タマモ。

 えーと、

 タマモと呼んでいいのかな?」

「うん? ああ、そうだな。

 ご主人がそれでいいのなら」


「タマモは僕の従魔になる前の事は覚えてるの?」

「ああ、覚えてる」


少女タマモは険しい顔になる。


「チキショウ。アイツら、

 そうだ、コノハ!」


今度は不安そうな顔になる。

不安そうに問いかけてくる。


「おい、新しいご主人。

 オレ、助けに行きたい」


「前の主人、コノハを助けに行きたいんだ。

 今の主人はショウマ、アンタだけど…

 コノハとは子供の時からずっと一緒に暮らしてた。

 姉妹みたいなモンなんだ。

 オレ、コノハを助けに行きたい。

 行っていいか?ご主人」


もちろん。

いいに決まってる。



【次回予告】

既に手に入れた金は一生遊んで暮らせるレベル。村にはもう売りとばせる娘は少ない。最後に転がり込んできた獲物を売りとばして逃げる。コノハとその仲間らしき上玉の女達。さてどこに行くか。帝国からは離れたい。迷宮都市だろうか。それとも女神教団のところか。

「それでイタチはどうしたですか?」

次回、少女は言う。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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