第79話 真昼の凶行その2

苦しそうに喘ぐ革鎧の女戦士。

ケロ子だ。

男の蹴りが腹にキレイに決まった。

呼吸が出来ない。


腕に盾を付けた男は何となく理解する。

フェイントだ。

刀を持った男、タケゾウが殺気を飛ばした。

反応せずにはいられないほどの剣気。

女は切られると思って棒でかばった。

その瞬間には切りつけない。

攻撃が来ない事に女は力を抜く。

力を抜いたタイミングを切り付けたのだ。


盾を付けた男は冒険者チームのリーダー。

冒険者と言ってもマジメに迷宮探索するほどウブじゃない。

迷宮探索から帰ってきた、疲れたチームを襲う。

ドロップ品も持ってるから好都合だ。

まだ弱い初心者を脅してエモノをかすめ取る。

なんでもやるチンピラだ。

金で酒場の用心棒のような事もやる。

馴染みの店から声をかけられた。

彼の特技を知って声をかけてきたのだ。


タケゾウとは初対面。

同じように店に雇われた暴力沙汰のプロだろう。

変な服装の男だと思ったがなかなか出来る。


「オレの仕事はこんなもんか」


タケゾウは手で凶器を振って見せる。

これ以上やったら刀で傷をつけちまうぜ。

そんなポーズ。

手の付けられなかった女を蹴り飛ばして棒も切った。

ちゃんと仕事はしたぜという事だろう。


「おい、お前たち」


リーダーの命令で周りの男が女戦士を抑えつける。

盾を付けた男は布を女の顔に近付ける。

男達の手から逃れようとする女。

だが倒れた態勢で複数の手で抑えつけられている。


「クッ」

「安心しな。

 ただの眠り薬だ。

 グッスリ寝な」


そう。

男の特技は薬。

職業に薬師を持ってる。

傷付けずに女を捕えたいと言うので呼ばれてきたのだ。

怪しい仕事だが、それなりの金を貰っている。



ケロ子は意識が暗くなる。

手に力が入らない。

前が見えなくなる。


「ケロコさん」


コノハは暴れる。

ケロコさんが男達に捉えられた。

彼女はコノハを助けようとしてくれたのに。

コノハは腕を掴まれている。

掴むイタチの手を逃れようとする。


「大人しくしろ」


イタチがコノハの頬を打つ。

平手打ち。

掴んだ腕を力を込めて握りしめてくる。


「ケロコさんを放してください。

 彼女は関係ありません」

「それはなにか勘違いしてるな。

 目的はコノハ、お前じゃない。

 アッチが獲物だったんだ。

 あの女とホントウは背の高い美人も高い値が付いたハズだったんだがな」


「高い値?」


値段。

美人に高い値が付く?

人間を売る気?


「イタチ、アナタ。

 仲間を売る気なの!」


コノハは叫ぶ。

同じ村の住人のハズ。

イタチは少しイヤな男ではあるが。

人間を売買するなんて。


イタチは全く怯んだ様子が無い。


「仲間?、誰が仲間だって」


「おい、その薬。

 コイツにも嗅がせろ」


コノハに笑って見せるイタチ。

盾を持った男が近付いてくる。

布を口元に差し出す。

コノハは顔をそむけるけど、無理やり鼻先に押し付けてくる。

呼吸を止めるのはいつまでも続かない。

少し息を吸い込んでしまったコノハは意識が暗くなっていく。



コノハを襲った男達。

彼らはユキトの家にも押し入った。


イタチがイチゴを襲う。

童女に剣を突き付ける。

怯えた彼女は男達に従った。

母親のナデシコは一目で石化にやられてるのが分かった。

売り物にならない。


魔法を使って来た小柄な女。

男達は彼女も捕まえた。


イチゴに剣を突き付けたのだ。


「大人しく出て来な。

 出てこなきゃこのガキの耳を切り落とす」

「やだ、やだ。

 怖い、いやあああ。」


耳くらいは無くても商売物にはなるんだ。

そう言われて小柄な魔術師は投降した。


「イチゴちゃん。大丈夫だから泣かないでですよ」

「ミミックチャンー。

 ごめんなさい、アタシのために…

 うっうっう…うぇーん えっえーん」


泣く子供も含めて全員薬で眠らせてある。

男達の前に眠っているのは4人。

革鎧の女戦士、小柄な魔術師、従魔師らしいコノハという女、童女イチゴ。



「チッ。

 一番高い値が付きそうなのが二人いない」

イタチは悔しがる。

生意気そうな剣戦士もいない。

アイツは痛めつけてやりたかった。


「いや、充分だ」

紳士服の男が言う。


「特にその小柄な魔術師とイチゴちゃんは高い値が付く。

 いくらでも金を出す客が出るだろう。

 人気が出る。間違いないぞ」


「…オマエやっぱり」

「アンタやっぱりそういうシュミか」


「アイツそういうシュミだったんだ」

「アイツ…やっぱりか」


「違うー。だからオレの趣味じゃない。

 ホントウだって。

 客がつくんだよ。

 オレの趣味じゃない。

 商売だってば」


紳士服の男の言葉は知らんぷりするチンピラ達だ。


それはともかく。


「でどうやって店まで連れて行くんだ。

 いくら亜人と言っても、意識の無い女を四人だ。

 連れて門を通る事はムリだ」

 

「大丈夫だ。

 まかせておけって言っただろ」


イタチはニヤリと笑う。


数秒後、男達は目を見開く。


「まさか、そんなことが出来るとはな…」

「始めて知ったぜ」

「オレも知らなかった」

 

意識を無くしたケロ子たちの姿は無い。

男達だけになっている。




ショウマ達は食堂に来ている。

エリカと待ち合わせた店。

ハチ子、ハチ美は鎧に着替えてる。

鎧は持ったらかなり嵩張る。

メイド服なら畳んでしまえば嵩張らない。


ハチ子とハチ美はハンバーグを食べている。


「これはイケますな」

「お肉が柔らかいです」


メニューを見てショウマが選んだ。

だいたい誰でも好きだよね。

ハンバーグ。


ショウマはカレーライスらしき物を頼んだのだ。

カレー。

メッチャ久しぶり。

週に一回は食べたくなるよね。

でも出てきたのはハヤシライス。

正確にはピラフ風のメシにシチューかけた物だ。

カレー無いのかな。

インド料理屋いかないとダメ?


エリカが着いた。

鎧を着てる。

なんだか模様のある鎧。

兜も同じもので揃えてる。

金属に波のような文様が浮かび上がってる。

全身揃えると相当にカッコイイのだ。

ショウマは目を奪われる。


ミチザネは頭を抱えてる。

なんでそんなバカ高い鎧を着てくる。

10万Gはする装備だ。

10万Gと言えば人が3年は楽に食っていける金額なのだ。

なのに性能はそこまで高くない。


「ああ、ダマスカスの鎧です。

 正直、そこまで性能は高くないのです。

 でも見た目がいいし、鉄の鎧としては軽量なので人気がありますな」

「うるさいわね。

 見た目が大事なのよ」


そうだね。

性能が大して変わらないなら見た目が良い方がいいに決まってる。


「なんだ分かってるじゃない

 さすが聖者サマ」


エリカまで聖者サマ呼ばわり。


ショウマは魔道具も探しに行きたいところだ。


「魔道具ですか。

 何がお要りようですか。

 コンロや湯沸かし、ランプくらいなら手に入ります」


「大型冷蔵庫、風呂ですか。

 そうするとかなりお高いですぞ」


ミチザネが教えてくれる。

小型のもので5万G~20万G。

風呂となると100万Gくらいはするらしい。


バンバン買うには厳しい。

やはり魔法武具売っぱらって大金持ち作戦だな。

なにより今はみみっくちゃんがいない。

買っても持って帰れない。



ショウマは帰路に着いてる。

荷物が重い。

ちょっとした土産も買ってるのだ。

菓子やお茶、嗜好品だ。

村では食糧は不足してない。

近くに森もあるし、湖も有る。

しかし嗜好品は無かった。


イチゴちゃんには革製品の作成を頼んでいる。

そのお礼になる、みみっくちゃん達も食べるだろう。


購入した武具、矢のスペア、エリカの着替えなど。

荷物は多かった。

こんなことになると分かってたらみみっくちゃんに来てもらうべきだった。


運び人雇いましょうか。

エリカがそんなことを言い出す。


『収納』スキル。


担ぎ袋に多く物を入れられる。

普通に入れられる三倍くらいの量が仕舞えると言うのだ。


「どういう仕組み。

 四次元ポケット?」


謎ではあるが便利だ。

正直、ショウマも欲しい。

職業Ⅲが選べるなら運び人にしようかと思ってしまうほど。


「便利では有るけど、

 戦闘の時はフォローしてないと上げないし。

 いい事ばかりじゃないわ」


一人前の冒険者なら普通運び人にはならない。

見習いの子が仮になる職業なのだ。


ミチザネが台車のような物をどこかから用意してきた。

さすがに人を雇うのはメンドくさい。

台車に載せて運ぶ一行だ。


帰り道も門の兵士はショウマを見るなり平伏してきた。

ヘヘーっ お通り下さいませ

みたいな。

台車を調べもしない。

これなら次回からも密貿易可能だな。

大っぴらにやるから密じゃないか。

魔法防具をドンドン作って売りさばこう。

大金持ち計画だ。


とっとと帰らないと村に着くころには真っ暗になりそう。

ショウマ一行は足を早める。

ついでにショウマ自身も台車に乗っけてもらったりして。

いや、それが結局のところ一番早く移動できる方法なのだ。




「グル、グルグルルー」


“妖狐”タマモは目を覚ます。

『気絶の矢』を喰らって意識を失っていたタマモ。

男達はすでに村を出ようとしている。

用は済んだのだ。

早く引き上げた方がいい。


“妖狐”は重い体を上げる。

首を振って意識を取り戻す。

自分の主はどうしたのだ。

見える周辺にはいない。

そうだ、男達。

男達がいた。

ヤツらが自分に何かした。

それで意識を失っていたのだ。

ヤツらとともにコノハがいなくなってる。

あの男達が攫って行ったのか。

コノハを、タマモの主を。

タマモは嗅覚を研ぎ澄ませる。

捉えた。

コノハの臭い。

この臭いを追っていくのだ。


門へ向かう男達。

どこに隠したのか女性の姿は無い。

亜人の村に客は珍しい。

村人は遠巻きに見ている。

暴力の臭いのする男達だ。

しかし、何かしたワケでも無い。

通り過ぎる男達を村人は見ているだけだ。

そこに“妖狐”が飛び込んでくる。

男達の中へ飛び込む。

コノハの姿は見えない。

しかし臭いがするのだ。

イタチの体から。


「クソッ。このクソギツネ」


犬歯をむき出し襲ってくる従魔をイタチは躱す。

他の男達が従魔を取り押さえようとする。

相手は2mはある獣だ。

弾き飛ばされる。


「どいてな。

 ケガするぜ」

タケゾウと呼ばれた男が言う。

刀を抜いている。


タマモが反応する。

イタチに飛び掛かろうとしていた“妖狐”。

しかし別の男から激しい殺気が叩きつけられた。

イタチは後回しにして刀に向かないと危険。


タケゾウと“妖狐”は睨み合う。

タケゾウは刀を上段に構える。


「タマモ。

 コノハは俺が預かってるんだ。

 大人しくしないとどうなっても知らんぞ」


イタチのセリフだ。

コノハ!

主の名前。


タマモは反応してしまう。

その瞬間。

ザグッ

刀が振り下ろされていた。

上段から振り下ろされた刀はタマモの肩から胸までを切り裂く。


「フンッ。

 俺のとの勝負中に気を抜くとはな

 ナメられたもんだ」


タケゾウは言って去って行く。

“妖狐”は体を大きく切られている。

前足が胴体から離れそうな状態だ。

血が流れていく。

切られた体から地面へ血が流れ出る。


村人たちは騒ぎに目を見張る。

しかし男達を咎める事は出来ない。

“妖狐”が先に男達を襲ったのだ。

魔獣に襲われて、反撃で切り伏せた。

男達は身を守ったに過ぎない。

この“妖狐”は。

コノハが飼っていた従魔では無かったか。

何だって人を襲ったりしたのだ。

可哀そうだが、この傷では長くはないだろう。


タマモはイタチに目を向ける。

イタチが、コノハの臭いが遠ざかっていく。

追わなくては。

主を助けるのだ。

しかしタマモの体は動かない。

イタチは去って行く。


「トドメを刺さなくていいのか」

「あの出血だ。すぐ死ぬ」



【次回予告】

魔獣は死んだら消えていく。どういう仕組みか知らないがドロップ品を残してその身体は消えていくのだ。倒してから数秒後には消え去る。従魔はどうなのか。

「へっへっへー。間に合ったな。よくやったぜ!」

次回、セリフを言ったのは誰なのか。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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