第78話 真昼の凶行その1

従魔師コノハは自宅に来ている。

回復薬の調合をしているのだ。

ショウマのお陰であまり使わずに済んでいるが残り少ない。

時間が有るうちに仕込んでおくつもりなのだ。

“妖狐”タマモがコノハにじゃれてくる。


「えへへー。

 どうしたの、タマモ」

「クォーン、クゥーン」


タマモが甘えている。

頭をコノハの身体に擦りつけるのだ。

毎日一緒に寝ていたコノハとタマモ。

ここ最近寝床が分かれているのだ。

コノハもタマモに抱き着く。


「そっかー。

 一緒に寝ないと淋しいかー。

 えへへー」


薬の調合は一区切り。

しばらく時間待ち。

タマモの背中を撫でる。

背中の茶色い毛は少し硬い。

そこから内側の白い毛へと指を伸ばす。

白い毛の方が柔らかくてモコモコしているのだ。


「クゥーン、クォォーン」


タマモが気持ちよさそうに目を細める。

タマモのブラッシングをしてあげようかな。

だけどタマモが唸り出す。

さっきまでの甘えたような声とは明らかに違う声。


「グルー、グルルルル」


「どうしたの?」


喉の奥で唸り声、警戒してる声。

魔獣が溢れて来た?

『野獣の森』から出たなら見張りが太鼓を鳴らすハズだけど。


さっきケロコさんとミミックチャンさんが村を廻って帰って来たばかり。

彼女たちはユキトの家だ。


コノハはタマモと一緒に家を出る。

ユキトの家にいる二人に声をかけてみよう。

コノハが家を出ると表には男が立っていた。

表に立っていたのは村の戦士達の一人。

槍を持った男、イタチだ。


「イタチさん。

 なにか御用ですか?」

「よう、コノハ。

 家にいるのはお前だけか」


イタチがコノハを見てニヤニヤ笑っている。

バカにするようなイヤな頬笑み。

いつもイタチは人を見る時、こんな顔をする。

タマモが前に進み出る。

主を守るようにイタチとコノハの間に入る“妖狐”。


「タマモ。

 お前に用は無いぜ」


いきなり矢が撃ちこまれる。

タマモの鼻先に。

当たりはしなかった。

が危ないところだった。

矢は地面に刺さっている。

コノハが見るとイタチの後ろに武装した男達がいる。

こちらを見ている。

そのうちの一人が矢を放ってきたのだ。


ドンッ。

タマモが倒れる。

うそ!

矢は当たらなかったハズ。


「心配しなくていいですよ。

 『気絶の矢』と言います。

 キズ付けずに気を失わせるのにちょうど良いスキルなのです」


後ろから男が言う。

この男が矢を放ったのか。

帽子をかぶって顔は良く見えない。

手には弓矢を持っている。


コノハの腕をイタチが掴む。


「他のヤツらはどうした?」

「なんのつもりですか?

 イタチさん。

 大声出しますよ」


「ああ、いいぜ。

 出しなよ。

 寄って来た爺さんどもが巻き添えでケガするだけだぜ」

「クッ」


目的は分からない。

けどイタチは本気だ。

事件になる事を怖れていない。


ショウマ達はベオグレイドに行った。

ケロ子さん、ミミックチャンは隣のユキトの家。

でもコノハに教えるつもりは無い。


「反抗的な目つきだな」


イタチはコノハをバカにするように笑う。

肩に下げていた槍を取り出す。

槍の刃先を向ける。

コノハにではなかった。

倒れた“妖狐”に槍を向ける。


「タマモ!

 止めてください」

「じゃあ言え。

 あの聖者とか言うペテン師はどこにいる?」


「ショウマさんはベオグレイドへ行きました」

「ベオグレイド?

 チッ。

 運のいいヤツだ」


「女どもは?

 特に背の高い女」

「背の高い?

 ハチコさん、ハチミさんも一緒に街へ行ってます」


「なんだと、クソッ」


「おい、家を調べろ」


後ろの男達がコノハの家に入って行く。

盾を付けた男が指令を出す。

コノハの家を土足で踏み荒らす。

コノハはまだイタチに腕を握られている。

痛いくらい強く握られている。

紳士服の男が近付いてくる。

武装した男達とは少し雰囲気が違う。


「ホホウ。

 地味だが、なかなかの女じゃないか。

 化粧すれば人気が出るぞ」


コノハの事を言ってるのか。

人を商品みたいに見定める目。


「誰もいねーな」

「女も男もいねーよ」


男達が家から出てくる。


「エモノはこの女だけかよ」

「いや」


イタチは言う。


「さっき隣の家に入って行ったろう。

 子供みたいな女とそそる体つきをした女」




さてケロ子の棒も買って行こう。

良さげなのはどれなんだろう。


ショウマ達はまだ武器屋にいるのだ。

ミチザネが合流している。


魔法武具じゃなくてチェーンメイルを買ったので安く済んだ。

ハチ美の弓やチェーンメイル、ボウガンその他揃えて10万G弱。

もっと安いのも有ったが、見た目良くて性能良さそうなの選んだ結果だ。

棒も良さそうなの買って行こう。


うわー凶悪そうなのが売ってる。

棒の先に鉄のトゲが付いてる。

モーニングスターとか呼ばれるヤツか。

これを使ってたら、どう見ても悪役だね。


ヌンチャクとか三節棍も有る。

棒と棒の間を鎖でつないだ武器。

三節棍には棒と棒の間を接合して一本の棒として使えるようなギミックの仕込まれたヤツまで有る。

おもしろそうだけど接合部の強度はどうなんだろう。

振り回して魔獣と戦うのだ。

ポキッといかれたら使い物にならない。


普通の木の棒、軽くて丈夫そう。

棒の左右の端は鉄で覆われている。

六尺棒と呼ばれるらしい。

とりあえずこれでいいだろう。

後はケロ子本人が来た時好みで選ばせよう。


みみっくちゃんにも何か買って行くか。

杖はどうだろう。

みみっくちゃんも魔術師に目覚めている。


ショウマの持つ『賢者の杖』は木製。

複雑な文様が刻まれている。

杖頭には宝石らしき物を木が囲んでいる。


「なかなか上等そうな杖ですな」


ミチザネが興味を示すがこれは見せてあげない。

おそらく簡単には手に入らない装備品。

身に着いた魔法属性がランク5まで全て使用可能になる激レア品。


杖も高そうなヤツだとどんなのが有るの?

ショーケースに飾られてる杖が有る。

一本で50万Gもしてる。

アレ何?


「魔法石というヤツですな。

 効果は様々です。

 魔法攻撃力を上げるモノ。

 魔力の消費量を抑えるモノ

 おそらくは魔法武具の中でも手に入りづらいのでしょう。

 高価です」


言われてみると確かに杖に宝石らしきモノが埋め込んである。

50万G。

買えなくもないけど、少し躊躇してしまう値段だ。

『賢者の杖』に埋め込まれてるのも同様のモノかな。


1万G前後のスタンダードな杖を買ってみる。

後は今度来た時、みみっくちゃん本人に選ばせよう。





『氷撃』


攻撃魔法!

その時攻撃魔法が男達に撃ち込まれる。


従魔師コノハの家の外に集まっていた男達。

武装した怪しげな集団。

村の戦士の筈のイタチはコノハを捉えている。

コノハを守ろうとした“妖狐”タマモは気絶させられている。

そんな中に魔法が撃ち込まれたのだ。


同時に跳びかかってくる女戦士。


「コノハさんを放せっ」


棒を振り回す。

男達の一人を突く。

飛び込んできたのは革鎧の女戦士ケロ子だ。


「グガッ!」

みぞおちを突かれた男。

腹を抑えてうずくまる。


「このガキッ」

男達が剣を鞘から抜く。

剣を、槍を、矛を向ける男達。


「ハァッ」

少女は素早く凶器を躱し棒で打つ。


「グハッ」

また男が一人倒れる。


「このアマ」

「すばしっこいぜ」


「てめーら。

 女一人に何をやってやがる」

盾を持ったリーダー格の男が言う。

数人の男が一人の女にいいようにやられているのだ。


弓を持った男が反応する。

飛び込んできた少女とは別の方向。

先程の魔法を使った相手がいる筈だ。

小柄な人影が目に入る。


人影目掛けて矢を放つ。

が。

矢が消えた?


よく見たらこちらも少女だ。

少女に近付いたところで矢が消えたのだ。


弓を持った男には聞こえなかった。

小柄な少女の近くにいたモノなら聞こえただろう。


『丸呑み』


そう少女が言ったのを。



ケロ子は棒を手に戦っている。

棒を実戦に使うのは初めてだが手に馴染んだ。

ユキトの家にいたら何やら人の気配。

表に出たらコノハさんが捕らわれている。

周りにいるのは武装した男達。

明らかに危険な雰囲気だ。

みみっくちゃんの魔法とタイミングを合わせてケロ子も飛び込んだ。


相手は多人数。

でも棒は多人数相手に向いてる。

振り回して威嚇に。

突き出して距離の有る敵を打つ。

多様に使える。

ケロ子の素早い動きと相性がいい。

男達はケロ子の動きを捉えられないでいる。

あっという間にケロ子は二人の男を叩きのめしているのだ。


「なんだ、なんだ。

 だらしねーぜ」


動き出したのは刀を持った男。

鞘から抜いた刀を両手に持つ。

武器は持っているが、鎧らしきものは付けていない。

前合わせの布の服を着ている。


「おい、タケゾウ。

 傷はつけないでくれよ」


紳士服の男が言う。

ちょっとしたケガなら治せる。

しかし腕でも切ってしまったら治せない。

そんな身体の女では客も金を出さない。


「チッ。

 手加減は苦手なんだがな」


頭を横に振りながらタケゾウと呼ばれた男は言う。


「チクショウ!」

男が剣を向けて突っ込んでくる。

ケロ子は戦っている。

今は左右に槍を構えた男と剣を持った男に挟まれてる。

剣を躱しつつ、下段蹴り。

足元を蹴られた男は重心を崩す。

態勢を崩した男を棒で狙い打つケロ子。

「エイッ」

そのままもう一人が突き出してきた槍を棒で受け止める。

流れるような動き。

男達は複数だがケロ子は負けていない。

だが。

ビクンと止まる。

棒を横に開いて前に差し出す。

自分を守る姿勢。

殺気。

斬られる!

そう思った。

ケロ子の体が反応した。


アレ。

攻撃が来る。

そう思ったのに、来ない?

その直後。

棒が切られる。

あっという間に手に持った部分を残して棒が切られて落ちる。

刀を持った男が切ったのだ。

何故。

斬られると思ったタイミングと全然違う。

しまった。

そう思う瞬間。

お腹に衝撃!

蹴られた。

刀を持った男の足がケロ子の腹に入ったのだ。

ケロ子が後ろに蹴り飛ばされる。


「グハッ!」



【次回予告】

“妖狐”は重い体を上げる。首を振って意識を取り戻す。自分の主はどうしたのだ。見える周辺にはいない。そうだ、男達。男達がいた。ヤツらが自分に何かした。それで意識を失っていたのだ。ヤツらとともにコノハがいなくなってる。あの男達が攫って行ったのか。コノハを、タマモの主を。

「まさか、そんなことが出来るとはな…」

次回、男達は目を見開く。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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