第77話 ベオグレイドへその5

エリカを先頭にショウマ達はベオグレイドの街を歩いてる。

女冒険者エリカと魔術師にして商人のミチザネは元々ベオグレイドの住人。

街には詳しいのだ。


「アナタ、けっこうやるじゃない。

 帝国兵に頭を下げさせるなんて」

「うーむ。ホウガン一族の紋章入り指輪ならなんとかなると思いましたが、

 まさかあそこまでとは。

 ミチザネも驚きましたな」


ショウマが一番驚いてるのだ。


建物はほとんどが石造り。

整然と石造りの建造物が立ち並んでいる。

迷宮都市は木造と石造りが半々くらいだったろうか。

亜人の村は全て木造だった。


門から入ってメインストリートを歩くショウマ達。

初めての帝国の街を観察するショウマ。

迷宮都市に比べて建築能力は上なのかな。

迷宮都市はほとんどが平屋。

たまに二階建て、三階建てを見かける程度。

こちらは5階建てを越えるような建物がごろごろ有る。


「どうキレイな街でしょ」


エリカが自慢するように言う。


「みんなは迷宮都市から来たんだっけ?

 アタシ迷宮都市は行った事無いの。

 そっちはどんな雰囲気なの」


「そうだな。迷宮都市は石造りの建物と、木造の物と半々くらいだったか。

 この街の方がキレイだが、活気は迷宮都市の方が有った気がするな」

「そうですね。この街の方がキレイで整然としています。

 迷宮都市の方がゴミゴミしていましたが、

 住人たちは活き活きとしていました」


ハチ子とハチ美が似たようなことを言う。


何故整然とした印象を受けるのかショウマには分かった。

道路がキレイに直線なのだ。区画が整理されてる。無駄な空き地というモノが無い。

空間のスミに造られた変な形の建物が存在しないのだ。そう思って見ると、露店商や屋台も存在しない。だから人が多いのに、迷宮都市ほど活気ある雰囲気に見えないのだろう。迷宮都市はもっと雑然としていた。所せましと無理やり立てたような建物が並び、木造の物も石造りの物も入り混じってた。


「ベオグレイドが新宿西口のオフィス街。

 都庁が有る辺りみたいなカンジ。

 迷宮都市は上野のアメ横かな」

「?

 どこよ、それ」


エリカにはまったく伝わらない事を言うショウマだ。


「あそこで待ち合わせましょう」


エリカは食堂を待ち合わせ場所に選ぶ。

エリカは自宅へ行くと言う。

ショウマ達は冒険者組合に行く。

ミチザネが案内してくれる。


組合で週間褒賞もらわないと。

亜人の村でザクロさんに言われたのだ。


「うん?

 ショウマくん。

 通知が出てる。 

 週間褒賞受け取ってないんじゃない」


忘れてた。

毎週金貨一枚もらえるんだっけ。

じゃあくださいと言うとザクロはしかめ面をした。


「ええー。

 この貧乏組合からお金を取ろうなんて、

 オニ、アクマー」


どうしろと言うのだ。


「ベオグレイドの組合から貰ってよ。

 あそこなら予備の費用もいっぱいあるハズだよー」


すでにショウマの手持ちは金貨40枚以上。

今となっては金貨一枚くらい、どうってコトない。

でも貰えるモノは貰っておこう。

魔法武具や、魔道具思った以上に高いみたいなのだ。



週間褒賞ください。

そういうと冒険者組合、受付の人はフリーズした。

手元の魔道具記録端末を見ながら。

口はOの字。

タップリ10秒はフリーズした。


「はっ失礼しましたっ。

 チーム『天翔ける馬』の週間褒賞ですね。

 そちらはリーダーのショウマ様ご本人で間違いないですね」


「では今ご用意いたしますので、

 少々お待ちを」


ベオグレイドの冒険者組合受付の人はやたら丁寧。

迷宮都市のアヤメとはエライ違いだ。

ここの人はなんだかショウマに向かって最敬礼でもしそうな勢い。

裏に褒賞を取りに行ったかと思ったら、小走りで戻って来た。


「大変お待たせしました。

 どうぞお受け取り下さい」


受付の対応に周りの人も驚いてる。

何だコイツ?

どこかの王族か、貴族か。

そんな視線。


「ショウマさん?

 またなにか騒ぎを起こされたのですか」


ミチザネまで訊いてくる。

またって何さ。

僕は一度も騒ぎなんて起こしてないよ。


ベオグレイドか迷宮都市かの違いじゃない。

この受付の人の対応が変なのだ。

もしかして、門の処での軍の騒ぎがもう伝わってる?

うん?

なんだか受付が差し出した褒賞が重い。

明らかに金貨一枚じゃない。

差し出されたのは金貨が数十枚。

加えてアイテムと宝石っぽい光る石。

ずっしり重たい。


周りの冒険者達が見ている。


「おい、あのアイテム。もしかして」

「ああ、魔道核だ」


「それも普通に手に入る魔道核(下)じゃねえ」

「魔道核(中)以上、もしかしたら…」


「魔道核(上)だってのか」


ざわざわしている。


「ショウマさん、いったん出ましょう」


ミチザネはショウマを連れて組合を出ようとする。

しかし言われるまでも無く、目立たないよう逃げ出しているショウマ。

すでに建物の外に出ている。


「もういない! いつの間に?」


置いてけぼりを食ったミチザネ。

逃げる時だけは素早いショウマなのである。



エリカは自宅で装備を取り出している。

アレを使うのだ。

普段は使わないとっておきの装備。


エリカは冒険者だ。

『野獣の森』探索で着実にLVを上げている。

クラスもドッグから、ウイングファルコンというクラスに認められた。

素早い戦士に贈られるクラス名だ。

まだトップクラスの冒険者と名乗るには厳しい。

それでも若手の実力者。

徐々に注目を浴びつつあるのだ。


今回は『野獣の森』をベオグレイド側からでなく、亜人の村から探索する。

亜人の村側にも入り口が有ると言うのは聞いていた。

しかし特に行く気は無かった。

亜人の村と言えば、蛮族が集まっている場所。

マトモな人間なら行かない。

そう言われているのだ。

それは偏見であったと今ではエリカは分かっている。


場所が亜人の村というので油断した。

実用優先、無骨な鉄の胸当てで行ってしまった。

蛮族がいるような場所と思っていたので汚れて良いスタイルにしたのだ。

あの胸当ては速度上昇の効果も有る。

だけど、そんなモノじゃダメだったのだ。




ミチザネとショウマは武器屋街に来ている。

この辺りはさすがにメインストリートほどキレイじゃない。

それでも迷宮都市より整然としている。

露店商や屋台というモノがこちらにも無い。

店の外に商品を置く事も出来ないらしい。

やっぱり、街によって違うものだ。


先ほどのアイテムや金貨は既に袋にしまってハチ子、ハチ美に持たせている。

ミチザネはエリカの壊れた胸当てを修理に出すらしい。

ショウマは装備を見ていく。

とりあえず、ハチ子ハチ美に好きなのを選んでもらう。


ハチ子は重鎧を着ている。

ヘビープレートアーマーとか呼ばれるヤツ。

身体中をガッツリ金属で覆う。

肩から手の先まで、腰から足の先まで。

角型の金属兜まで被ってしまえばハチ子だという事すら分からない。


「これぞ戦士の鎧というモノだ」


なんだかハチ子は気に入ってるみたい。

確かに西洋の騎士とか十字軍とかこんなイメージ。


「どこかで見たような・・・

 あれだ。

 鋼の〇金術師の弟くん。

 声がくぎみーだったヤツ」


ショウマは分からないと思って好き勝手な事を言ってる。

しかし見た目が厳つい鎧だ。

明らかに重そう。


「それホントウに動けるの?

 ハチ子」

「もちろんです。

 ショウマ王」


と言って足を上げて歩いて見せるハチ子。

一歩ごとにグギギとかドスンとか言う効果音が聞こえそう。


「ハッハッ、どうです。

 ハッ普通に動けるでしょう、ハッハァ」

「イヤ、明らかに息が荒いよ」


ハチ子が実戦に使うには無理が有りそう。


鉄鎧。

工夫されて軽量になったモノでも20kgは越えたと言う。

実戦で使われていた時代の一般的な鎧で30~50kg。

下に着るアンダーウェアや籠手脛宛てなども含めての重さだが、それにしてもキツイ。

現代人なら戦場へ着ていくだけでバテてしまいそうだ。

でも実際には重さより熱がこもる方が問題だったらしい。

金属は熱を溜めこむ。

兜まで着用した日には熱中症で倒れるのだ。

ハチ子が着てるのはその問題も起こりそうだ。


金属製鎧でもいろいろ有るね。

チェーンメイルにスケイルアーマー。

スケイルアーマーに似たラメラーアーマー。

どう違のか良く分からなかったけど。

スケイルアーマーは革や布地に金属片を貼り付けて出来たもの。

ラメラーアーマーは布の下地は無く、金属片を繋ぎ合わせたモノらしい。

どちらもプレートアーマーに比べれば軽量かつ動きやすい。

その分防御力は劣るみたい。

でもプレートアーマーに比べればショウマの目にはカッコいい。

だってこの方が身体のラインが出るし。

ハチ子が着てちゃんと女性のフォルムが出るのだ。

さっきのはロボットみたいだった。

いやしかし。

無骨な鎧で中身が予想できない戦士。

脱いでみたら実は美少女でした~みたいな。

そういうキャラ立てもアリ?


ショウマがくだらないコトを考えてる間にもハチ子は試しに身に着けている。

今はチェーンメイルを着ている。


「これは動きやすいな」


チェーンメイルも種類があるみたい。

今ハチ子が来てるのは厚手のチェーンメイル。

多分これはこれだけで完成してる。

他に薄く出来てるアンダーウェア風の物も有る。

その上に胸当てや腰鎧を付けるのだ。

いわゆる鎖かたびらというヤツだ。


チェーンメイル、鎖帷子。

特徴はプレートアーマーに比べると製作が楽な事。

革鎧に比べると防御力が高い。

身に着けた人間の可動域を制限する事も少ない。

またプレートアーマーの欠点に関しても通気性が高いため、熱中症に陥る事も無い。

ただし防御力はプレートアーマーに劣る。


うん。

これがいいかも。


薄手のチェーンメイルをアンダーウェアに全身を覆う。

そして金属プレートの胸当て、手足のアーマーだ。

胸当ては無骨だが、その下はお腹が覗く。

薄手のチェーンメイルはハチ子のスタイルの良さが出る。

肌は露出してない。

が鎖からうっすら透けて見えるのがいい感じにエロカッコいい。


ハチ美はキレイな鎧を見ている。

鎧に波のような花のような文様が出ている。

ダマスカス鋼の鎧と書かれてる。


商人が教えてくれる。

これは見た目がいいので飾ってあるけど、防御力は高くないよ。

値段も高いよ。

本当だ、10万Gしてる。

チェーンメイルは2万G前後。


ハチ美もハチ子と似たスタイルで揃える。

ハチ子は下のチェーンメイルまで輝く白銀の色に拘った。

その方が聖戦士らしいというのだ。

ハチ美は少し抑えた色合いで差をつける。

アンダーに使うチェーンメイルは黒く塗ったモノ。

いいね。

黒の鎖かたびら。


チェーンメイル、胸当てや脛宛てなど。

併せても6万Gくらい。


ハチ美は弓も新しいのを購入。

今持ってるハチ美の弓は長弓。

命中性能は高いけど扱いは難しいタイプ。

1Mくらいの取り回しのいいヤツに替える。

森の中で大型の弓は使いにくい。


持ち金は多い。

高くて性能の良さそうなのを選ぶ。

複合弓。

幾つかの材料を使い、M字型のカーブを描いている。

取り回しも良いし、弦を引くのも長弓の半分程度の力で同程度の攻撃力が出せるらしい。

1万G。

買っちゃえ、買っちゃえ。


「どう? ハチ美」

「はい、使いやすいです。

 矢も短いですから持ち運びが楽になります」


ボウガンも売ってる。

これならショウマでも扱えそう。

取っ手がついてレバーを引くだけで矢が飛びだす。

でもショウマは魔法を使うだけで忙しい。

コノハさんにどうだろう。

スリングショットよりは攻撃力が有りそうだ。

6000G。


矢も必要だな。

しかし今日はみみっくちゃんがいない。

大量に買い過ぎると帰りが大変。


ハチ子の槍は買わない。

既に持っていた槍が予備用に使える。

主武器はアレが有るのだ。

聖槍。


ショウマは魔法武具を諦めた訳では無い。

しかし、鉄の魔法武具はほとんど売っていなかった。

革の魔法武具なら有った。

幾つか武器屋を見て回ると置いてあった。

ただし普通に並んでる訳じゃない。

ショーケースやレジの奥に飾られてる。

希少品扱いと言うヤツだ。

値段は3万~6万G。

買えない事は無い。

先程冒険者組合から貰った金貨は数えてみたら50枚有った。

50万Gだ。

ショウマが既に持っていた金は40万G。

併せて90万G。

日本円でおよそ9千万円。

キター、9千万キター。

そろそろ1億円が見える。

どうしたの。

ハイパーインフレ?

ああ。

どっかにオタクグッズ専門店無いのか。

アニメのBDBOX買い込みたい。

ア〇メイト行って、この店の商品全種類持ってこいとか言ってみたい。

妄想はともかく。

でも絵物語売ってる店行ったら、全商品1冊ずつ買う位はホントウに出来るかもしれないな。

いや、今は従魔少女の強化が優先。


何の話だったか。

革の魔法武具。

売ってはいたものの、これならイチゴちゃんからも手に入るのだ。

イチゴとその母親ナデシコは革細工が得意。

『火鼠の革』だけで作る。

『土蜘蛛のの糸』で縫い合わせる。

それでイチゴは魔法防御力のある防具を作れる。

今も作成を頼んでいるのだ。

亜人の村側の『野獣の森』には魔獣が溢れてる。

戦士団が森に行けば材料は手に入りそう。

ドンドン魔法武具作って貰えばいいじゃない。

それを売りまくればあっという間に大儲けじゃないの。


「やめた方がいいでしょう。

 亜人が魔法効果の有る武具を多量に持っていたら、

 どこで盗んできたと即逮捕されるのがオチです」


ショウマが持ち込んだならば。

次回はみみっくちゃんにも来てもらおう。

マントを多量に呑み込んで持ち込む。

今回の兵士の反応なら、何の検査も無く通れそう。


「フム。イケそうですな。

 私のツテの有る商会に持ち込みましょう。

 そこらの武器屋に持ち込むより高く買ってくれるハズ」


よっしゃ。

大金持ち計画始動。

ミチザネと顔を見合わせ笑うショウマ。

エチゴヤおぬしも悪じゃのう。

いえいえ、お奉行様こそ。

みたいな。



エリカはしまってあった装備を取り出し身に着ける。

 

ダマスカス鋼の装備。

ダマスカスの片手剣。

ダマスカスの兜。

ダマスカスの鎧。


ダマスカス鋼で作られた武器は波のような、花のような文様が入る。

この装備の良い所はカッコいい!

とにかくカッコいいのだ。

エリカのお気に入りなのだ。


キューピーおじ様に頼まれた。

仕方なく亜人の村に行ったのだ。

しかし行ってみれば、ショウマという男は細身の身体に真っ白なフード。

ペガサスの意匠まで入れている。

ケロコさんも普通の革鎧に見せかけているが、エリカの目は誤魔化せない。

あれはケロ子さんのスタイルを際立たせる、見た目を重視した装備だ。

しかもハチ子さん、ハチ美さんあのスタイルの良さは何なのか。

絶対冒険者として鍛えただけじゃない。

おまけにやたらカッチョイイ槍まで持ち始めてしまった。

このままだとダメだ。

今のエリカの装備はイチゴちゃんに借りた、革の上着。

革の鎧も有ったけど、サイズが合わない。

ズボっと着れる貫頭衣、正直カッコ良くないヤツ。

それしかなかったのだ。

エリカが一番負けているのだ。

納得いかない決まってる。


だからベオグレイドに来たのだ。

下の服は赤にする。

文様の入った鋼の鎧に赤の布地。

よし、これなら負けてない。


エリカがベオグレイドに来た目的。

それはカッコいい鎧に着替えるため。


ショウマと言う男を手伝うようキューピーおじ様に頼まれている。

本人はどうかと思うトコロも多い男だ

しかし。

迫害を受けている亜人の村で神聖魔法を使い村人たちを助けている。

既に聖者サマとまで呼ばれている。


これだ。

聖者サマを助ける女冒険者。

その名はエリカ。

美しいダマスカスの鎧に身を包む女戦士。

これである。

幼いころから憧れた女冒険者の図だ。

絵物語の女冒険者サラのようだ。


カッコ良さ:最重要!

見た目:命!

それこそがエリカの信条。


彼女が冒険者になった理由。

それはカッコいいからだ。

謎多き迷宮から溢れる魔獣から人類を救う英雄。

それこそが冒険者。

それこそがエリカなのだ。


負けるものか。

アタシがヒロインなのだ。

ダマスカスの装備に身を包み謎の気合を入れるエリカである。



【次回予告】

攻撃が来る。そう思ったのに、来ない?その直後。棒が切られる。あっという間に手に持った部分を残して棒が切られて落ちる。刀を持った男が切ったのだ。何故。斬られると思ったタイミングと全然違う。しまった。そう思う瞬間。お腹に衝撃!蹴られた。刀を持った男の足がケロ子の腹に入ったのだ。

「さっき隣の家に入って行ったろう。子供みたいな女とそそる体つきをした女」

次回、イタチは言う。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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