第70話 獅子の仮面の人影その1

「ねえ、コノハさん。

 あの男何だったの」


ユキトの家だ。

女子達は寝ている

毛皮を敷いた上に毛布にくるまっている。

従魔師コノハは女冒険者エリカに訊き返す。


「あの男?」

「あのお風呂出てきたとき絡んできた男。

 背が高くて、性格悪そうなヤツ」


「イタチさんですね。

 あれでも戦士達のリーダー格なんです。

 性格悪そうはヒドイですよ」

「性格悪そうで通じたんだから、

 コノハさんもそう思ってるんじゃないの」


「えへへ。

 そうかもしれません」

「あっ。

 コノハさん笑った。

 良かった。

 笑うんだ」


「何でですか。

 私は良く笑いますよ」


そういったけど。

思い返すとコノハは最近笑ってないかもしれない。


「そういえば最近笑ってないかもです。

 緊張してたみたい」

「そっか。

 ゴメンね。

 お母さんが大変なんだもんね」


「そうですね、コノハ。笑った方がいいですよー。笑うとそれだけで人間キモチが軽くなります。あんまり笑っていないとココロが病気になるですよ」

「へー。ミミックチャンいい事言うね」


「それで、そのイタチという男はコノハに何を言ってきたのだ?」

「あの話とか言ってませんでしたか」


ハチ子、ハチ美さんだ。

寝たように見えて聞いてたらしい。

 

「あの話と言うのは…

 イタチさんは『野獣の森』の奥を知っていると言うんです。

 “埋葬狼”が攫って行く住処もだいたい分かると」

「そうなのっ。

 じゃあその人に案内してもらえばいいねっ」


ケロ子さんも参加してくる。


「ははあ。みみっくちゃん分かりましたよ。“埋葬狼”の巣に案内する替わりに

 なにか要求してきたですね。でコノハ、何をイタチに要求されたんですか」


コノハは一瞬言葉に詰まる。

口に出し辛い。

周りの女性はコノハに捲き込まれて『野獣の森』で戦っている。

内緒には出来ない。


「……

 『野獣の森』を案内してやるから、夜一人でオレの家に来い。

 そう言われました」


「そっ、それって」

「なに、プロポーズ!プロポーズなの?」


浮かれた声を出してるのはエリカだ。

コイツは男女の話に疎い。


「違うだろう。どう聞いたらそうなるんだ」

「違います。どう聞いても身体を要求しているだけです」


「あれっ。

 そう、そうなの」


シュンとするエリカだ。


「そうだとすると、

 なんて卑劣な男なの!

 許せないわ。

 あの時切り付けてやれば良かった」


怒った声を出すエリカ。

浮かれたり、怒ったりせわしない。

 

「あの卑劣漢。

 性格悪そうだけど。

 見た目はちょっといいと思って失敗だったわ。

 今度会ったらホントに切ってやろう」

「やめてください。

 一応戦士達のリーダー格ですし、

 村でも重要な存在なんです」


戦士達のリーダーはキバトラ。

その2番手がイタチだ。

『野獣の森』を廻る時もキバトラチーム、イタチチームに分かれている。


「戦士達のNo2、副隊長ってワケですか?だから『野獣の森』に詳しい。奥の方も良く知ってるってコトですか。だったら同じチームの人なら、同じくらい地理を知ってそうです。他の戦士に頼めば場所が分かるかもしれませんですよ」


「それが…」


コノハも他の戦士に訊いたりはしてみた。

でもみんな奥までは知らないと言うのだ。


『野獣の森』。

亜人の村の入り口から入って広い。

その奥に通れない場所がある。

木々が生い茂って人は通れない。

入り口と同じようなゲートが有る。

ゲート以外からは通れない。

ゲートから入って行くと『野獣の森』の奥部分。

ベテランの戦士達でもほとんどは入った事が無い。

ウワサではさらに危険な魔獣がいると言う。

最大最強の“双頭熊”、石化の呪いを使う“蛇雄鶏”(コカトリス)、猛毒の“鴆”。

全て奥にはウヨウヨ居ると言われてる。

入り口側には普通いない。

がなにかのハズミでたまに出てくるのだ。

『野獣の森』入り口からたまに魔獣が溢れるように。

奥から入り口側へたまに出てくる。

昼間遭遇したのもそんなヤツだろう。


「『野獣の森』の奥には“双頭熊”“蛇雄鶏”がたくさんいるですか。それは確かに入っていけないですよ」

「つまり5層以降ってコトね。

 入り口の次がもう5層なの?」


言ってるのはエリカだ。

エリカは正面、ベオグレイド側から『野獣の森』を探索してる。

正面から平均LV20はいかないと厳しいと言われる3層。

よほどの腕利きでなければ入るべきではない4層。

そしてベテランでもほとんど行った事の無い5層だ。

エリカ達はまだ4層すらほとんど入っていない。

試しにチラッと様子見した程度。

2層から3層をウロウロしているのだ。

4層には猛毒を浴びせる鳥“鴆”がいる。

よほど準備しないと危険。

3層でもう少し鍛えてから挑もう。

そんなトコロだ。

亜人の村側から入ると入り口の次がもう5層。

どんなハードモードよ。

そう思うエリカだ。


「でもそうするとイタチが奥を知ってると言うのも胡散臭いですよ。コノハを騙してるんじゃないですか。みみっくちゃん知ってますよ。男は女を手に入れるためならウソもつくって」


「ウソかもしれません。

 でもイタチさんが『野獣の森』の地理に詳しいのは本当みたいです。

 戦士達もみんな言っていました。

 イタチさんはどこに何があるか全部知ってるって」


「ふーむ。この前話を聞いた時、“埋葬狼”に攫われて戻ってきた人がいるって言ってたですよ。その戻ってきたと言う人はいないですか。その人なら知ってるかもしれませんです」

「それはキバトラさんに聞いた事が有ります」


コノハはキバトラに訊いてみた。

“埋葬狼”に攫われて戻って来た人を教えてくれないか。

尋ねたい事が有るんです。

母親を助けに行きたいと言うのは秘密だ。

キバトラが知ったら一人で“埋葬狼”の巣まで突き進みかねない。

そんな迷惑はかけられない。

キバトラは複雑そうな顔をした。


「悪りぃが教えられん。

 攫われたヤツが子供の頃の話なんだ。

 今は村で普通に暮らしてるヤツだ。

 だけど戻ってきた時はショックだったみたいでな。

 人が変わったみたいになっちまった」


「本人だって子供の頃の話だ。

 もう覚えてないかもしれん。

 今さら思い出させたくないんだよ」


確かに子供の頃魔獣に攫われて、埋められた。

そこから抜け出して村に帰ってきた。

ショッキングな体験だ。

思い出したくは無いだろう。


コノハはそう説明する。

みみっくちゃんも納得したみたいだ


「ならやっぱりイタチに案内だけでもさせたいですね。コノハが躰を差し出すのは論外としてもなにか他にイタチに協力させられないですかね」


「そんな卑劣漢の手は不要だろう。

 我らが強くなり、『野獣の森』の奥まで進めばいいだけのコトだ」

「我らが強くなり『野獣の森』の奥まで進めばいいのです」


「そうだねっ。ハチ子ちゃん、ハチ美ちゃん。

 明日は頑張ってね。

 コノハさんも」


明日はハチ子、ハチ美のLVアップのため『野獣の森』に行くのだ。

コノハとタマモも一緒だ。

明日に備えて寝る事にしよう。




「なあ。明日オレも一緒に行っちゃダメか」


村の少年ユキトだ。

ユキトはショウマに頼んで一緒に『野獣の森』に入りたがってる。


「うーん。

 明日は連戦で戦いだけしてLV上げするつもりなんだよね」


言外にダメだと言ってる。


「また奥まで探索に行くときは案内してもらうよ」


まだ未練がある様子のユキトだ。

ミチザネが尋ねる。


「なんでユキト君はそう行きたがるんです?

 理由でもあるんですか」

「オレ、まだ12歳だけど、

 16歳までにもっと戦っておきたいんだ。

 戦士になりたいからな。

 運び人になったらイヤだもの」


冒険者。

成人になって冒険者登録すると自然と職業が決まる。

自分では選べないのだ。

魔法を使える者なら魔術師に、戦士なら戦士に。

いつの間にかステータスに職業が決められてるのだ。

それは本人のそれまでの行動、特技、特徴で決まると言われてる。

ユキトが今『野獣の森』に入ってるのは見習いとしてだ。

一人前の冒険者と一緒なら未成年でも迷宮に入れる。

その時職業は仮に運び人になる。

荷物運び役だ。

まれに魔法が得意な者だと魔術師見習いという職業になる。

戦士や斥候が得意な人間なら戦士見習い、斥候見習いにというワケだ。

でもほとんどの見習いは運び人になる。

実際に前線でバリバリ戦う訳じゃない。

荷物を持って見学や案内。

実情に沿った職業と言える。

ユキトもそうだ。

職業:運び人なのだ。

成人して正式に冒険者になる時、また職業が決まる。

運び人はイヤだ。

戦闘に役立つスキルも無いし、ステータスも上がらない。

剣戦士、槍戦士になれば戦闘スキルも身に付く。

ステータスだってプラスされる。


「フーン。

 運び人はスキルは何もないの?

 それってただの無職無能じゃない」

「一応『収納』ってスキル有るよ。

 荷物を袋に多く入れられるだけのつまんないスキルだよ」


『収納』?

みみっくちゃんのは『体内収納』。

あれは“宝箱モドキ”の種族特性じゃなかった?

自分の体より大きい量を体内に入れられる。

種族特性プラス運び人モドキの職業スキル?

まあ。

みみっくちゃんに関しては謎だらけ。

あまり考えてもなー。


「ご主人様がみみっくちゃんを雑に扱った気配がしました」


その頃みみっくちゃんが寝言でそんなコトを言ったとか言わないとか。



【次回予告】

ショウマは試しに近くの木を見てみる。枝の生い茂った辺り。枝をかき分けてみる見ると。いた! 銀色に光るナメクジ。大きさは普通のナメクジ大じゃない。仔猫くらいはある。30cm前後。

「キター!キタキタ!メタル〇ライムキター!」

次回、レベルアップみんなですれば怖くない。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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