第46話 旅立ちの支度その1

「キサマラ!すぐに連れて来いって言っただろうが!

 何をグズグズしてやがる!」


「すんません! リーダー」

「ツメトラさん、今日中には必ず」


『獣の住処』。

冒険者チームの一つだ。

迷宮都市では有名と言っていい。

その特徴は構成員が皆、戦士だという事だ。

回復役はもちろん、魔術師がいない。

元々冒険者には戦士が多い。

にしても極端な編成である。


『獣の住処』の戦士達はビクビクしている。

リーダーが怒っているのだ。

クラス:ブラッドサースティタイガー、ツメトラさんである。

怒り狂ってるのが一目で分かる。

顔から獣毛が生えている。

獣化。

獣系の亜人に多い能力だ。

特徴は人によって違う。

獣毛が生えたり、犬歯が伸びたりする。

それに合わせて、身体能力が向上する。

腕力が上がる者もいれば、嗅覚が上がる者もいる。

ツメトラさんは筋力が上がる。

興奮すると獣化を起こす。

と同時に破壊衝動が堪えられなくなる。

見境なく暴れるのだ。

上がった身体能力を使って。

『獣の住処』のメンバーはみんな知っている。

彼を怒らせるとどうなるか。


ツメトラさんが言っているのは黒いローブの魔術師の話だ。

一昨日、冒険者組合の訓練場で試合が有った。

そこで試合見物をしていたチームのメンバーが被害を受けたのだ。

凍り付かされていた。

戦士達は感心した。

まさか数十人一気に凍り付かせるような魔法が有ったとは。

野郎!やりやがったな!倍にして返すぜ!

という思いより、

スゲェもん見た、話のネタになるぜ!

という気持ちなのだ。

しかし、ツメトラさんは違った。


「オメェラ、たった一人の小僧にやられて笑って済ます気か!

 ナメラレたら終わりだろうがよ。

 その魔術師の小僧をオレの前に連れて来い!

 今すぐにだ!」


戦士達の目の前でツメトラさんは剣を折って見せた。

日本刀のような細身の剣ではない。

厚みのある鋼の剣。

人間の手で折れるモノではない。

だが、ツメトラさんは興奮すると鋼の剣を折って引き裂いて見せるのだ。

というワケだからして。

『獣の住処』の戦士達は探し回ってる。

リーダーには逆らえない。

なにせ狂戦士なのだ。

逆らったら自分達がどうなるか分からない。


「黒い革ローブの魔術師と4人の女戦士だな」

「オレは黒い魔術師のガキと3人の女戦士と変なの1人

 って聞いたぜ」


変なのと呼ばれてるのが誰かは敢えて気にしないでおこう。

戦士達は一昨日から街を探し回ったが、まったく見つけられないでいた。


「黒い革ローブの魔術師と4人の女戦士、まったく見当たらないぜ」

「黒い魔術師のガキと3人の女戦士と変なの1人、まったく見当たらないぜ」


そして今日も彼らは探し回ってるのである。





「ご主人様。昨日は二つ返事で引き受けてましたけど、どういう風の吹き回しですか。メンドクサイんじゃないんですか。実はアレですね。コノハさんの何でもしますに邪な欲望を抱いてますね。ご主人様の事です。それ以外考えられないですよ」


「イヤ、違う違う!ちぃがぁうぅー!」


昨日の夜従魔師コノハがショウマ達の隠し部屋に現れた。

『野獣の森』に来て欲しいというのだ。

ショウマはアッサリ引き受けていた。


「ゲテモノ、貴様また王の決定に文句を付けようと言うのか?」

「王に文句が有るのですか?」


ハチ子、ハチ美が殺気立つ。

ショウマに対して無闇に忠誠心の高い二人だ。


「ハチ子、ストップ。

 質問はOKだよ」


ショウマは説明する。

目的意識は共有しといた方がいい。

いやコノハさんが何でもしますというのに心が浮き立ったのも無くはない。

キタ!キタキタ!何でもしますキター!

それは内緒。

ケロ子も聞いてるし。


「えっと。

 魔道具、魔法武具が気になってるんだよね」


持ち物に有るのだ。 


『石像の魔道核』×2

『石巨人の魔道核』


これ名前の響き的に魔道具の材料っぽくね。

みたいな感じである。


ショウマの家は魔道具が幾つかある。

お風呂の湯沸かし。

コンロ。

冷蔵庫。

居間に暖炉らしいのも有る。

暖炉はまだ使ってない。

季節は秋。

そろそろ試してみようかという季節だ。


逆に言うとそれしか無いのだ。

冷房が無い。

夏になったらどうしよう。

コンロも二口タイプ。

今までは3人だから不便は無かった。

ハチ子、ハチ美が加わると足りてるだろうか。

電子レンジ欲しいよね。

お風呂もそうだ。

お風呂はお湯を注ぎいれるタイプ。

追い炊き出来ないのだ。


帝国は魔道具が発展してるらしい。

帝国以外では魔道具も魔法武具もあまり出回っていないそうなのだ。


帝国行って、魔道具手に入れたいな。

そんなカンジである。


『野獣の森』は帝国領にある。

コノハさんは『野獣の森』出身。

という事は帝国にも詳しい。


『野獣の森』に行く。

コノハさんの頼みをパッパッと片づける。

コノハさんに案内してもらって、魔道具を手に入れる。


「そんなようなつもりなんだけど、

 どうかな?」


「みみっくちゃん。帝国についてなんか知ってる?」


「うーん。帝国はあまり情報を外に出さないんです。帝国に関して書かれた書物も少ないですね。みみっくちゃんが知ってる書物の知識だと少し古いかもしれませんよ。最新の情報じゃないとは断っておきますですよ。

 まさにご主人様の言った通り、魔道具と魔法武具は帝国の専売特許ですね。

 『野獣の森』からその材料が排出されると言われてます。魔獣からのドロップ品が魔法武具の材料になる。だから魔法武具も発達するというワケですよ」

 

みみっくちゃんは書物を吞み込んでる。

その知識を持っているのだ。

でも書物に載ってるのが最新の知識とは限らない。

本自体出版されたのが古い物かも。

とっととインターネット普及してくんないかな。

もしくは情報誌。

地球の歩き方帝国版 とか、るるぶ野獣の森特集 とか。



「さらに『野獣の森』からそう離れていない場所に鉱山が有るんです。鉱山も有れば、鍛冶屋も有ります。鍛冶の村が有るはずですよ。そこでご主人様の言う魔法武具が手に入りそうな気はしますですよ」


なるほど。

鉱山か。

そこで、鉄やらなんやらの鉱石が掘り出される。

鍛冶の村で金属が作られる。

さらに『野獣の森』で出た魔獣のドロップ品。

これが合わさって、魔法武具が作られる。

ショウマは鉱山や武器の製造工程を詳しく知ってるワケでは無い。

でもある程度納得のいく仕組みだ。



「よーし。

 じゃあ、『野獣の森』行って、

 コノハさんの頼みごとをパッパと片づけて、

 後は鍛冶の村へ行ってみよう」


「分かりましたっ」

「うむ、王の御心のままに」

「王の御心のままに」


「じゃあ、旅支度が要りますね。ご主人様、今日は旅支度ですよ。みみっくちゃん持てるのに限界が有るから持ち物を厳選しないとですよ」


「旅支度?

 何それ」


「何って、ご主人様。『野獣の森』までは徒歩で10日掛かるですよ。それも旅慣れた人の話ですからね。

 ご主人様が一緒に行動する以上倍はかかると思った方がいいんじゃないですか。だから20日分の準備ですよ…」


「10日から20日?!

 何それ」


「飛行機は?、

 新幹線無いの?新幹線」


異世界だもの、飛行機無いとしても新幹線くらいは。

本当に無いの。

Oh No!なんてこった。





冒険者組合の主任キキョウは思わぬ客を迎えていた。

ルメイ商会の会長だ。

ルメイ商会と言えば、帝国を中心に各地に支店を持つ大規模商会。

その会長がわざわざやって来たのである。


「忙しいところ申し訳ありませんな」


会長は太った中年男性。

人の好さそうな笑顔を浮かべている。


そんな笑顔にダマされないわ。

人の好さだけで大規模商会を回せるハズが無い。

だいたい迷宮都市でルメイ商会は評判が悪い。

相場を知らない客を平気で騙す。

金持ちにはとことん愛想良いが、貧乏人には冷たい。

どこの商売人も一緒と言えば一緒だが、中でも評判が悪い。

会長自身がやってる訳では無いだろう。

しかし黙認してるのだから同じ事である。


「実はご紹介いただけないかと思いましてね」


「紹介ですか?

 誰の事でしょう」

「一昨日、大規模魔法を使ったという黒衣の冒険者です。

 聞きましたよ。

 氷の魔法。それも見たことが無いほどの効力だそうですね」


ブッ

キキョウはお茶を吹き出す。

情報が速い

どこから聞きつけたのよ

帝国情報部?

ルメイ商会は帝国と繋がっているというウワサ。

さすがね。


とするとショウマさんは帝国の密偵では無い。

もしかして王国。

王族かもしれないという考えはあながち間違っていなかった。

今、この迷宮都市では王国と帝国の熾烈な情報合戦が行われている!


キキョウの思考はどんどん進む。

頭の回転が速いのも考え物である。


アヤメが聞いていたらツッこんでいただろう。

「いやいや、一昨日の練習試合。

 冒険者もたくさん見てましたし、帝国の冒険者もいたでしょう。

 もう冒険者の中ではウワサになってますよ」


「その、ショウマさんに紹介ですか…

 どういったご用件なのでしょう?」

「嫌ですね。こちらは商人ですよ。

 高名な冒険者さんには是非使っていただきたい。

 その分、こちらも御贔屓にします。

 組合では必要としてなくても商人としては欲しい、そんなドロップ品も有ります。

 ぜひ顔を繋いでおきたいですな」

「分かりました。

 本人に聞いてみます。

 冒険者本人が良いというようでしたら、ご紹介するという事で」


キキョウは自分がショウマという名前を出してしまった事に気付いていない。

会長が知らなかった個人名を教えてしまった。

普段ならそんなボケをかまさない彼女だが、ここのところ忙しすぎた。

他に考える事が山ほどあるのだ。

冒険者の個人名など気にしていられない。

もちろん会長は聞き逃していない。


キキョウは考える。

相手は大規模商会の会長。

ちゃんと筋を通して組合に頭を下げに来ている。

簡単に断れる話では無い。

しかし相手はショウマなのだ。

どんな失礼を働くか分からない。


「あのキキョウ主任」


ドアがノックされる。

あの声は受付の娘だ。

アヤメでは無い。

今日はアヤメはお休み。

先日の代休である。


「特別案件の方。ショウマさんという冒険者が訪ねてきてます」


このタイミングー?

キキョウの視界にルメイ商会の会長がニンマリ笑うのが見えた。




【次回予告】

メイド服が一般的になったのは18世紀末から19世紀の英国。

つい最近の話なのだ。それまで、貴族の下働きに決まった服装というのはあまり無い。主人のお古を着せられたりもしていたようだ。

19世紀の英国で既にちょっとエッチなバージョンのメイド服は作られている。

ミニスカボンテージ風のメイド服はフレンチメイドと呼ばれてた。

仕事用であった野暮ったいメイド服とこの装飾過多なフレンチメイドのイメージが入り混じって日本のゲーム、アニメのメイド服イメージが出来上がったらしい。

「よーし このキラキラした美少年、探すぜ」

次回、『獣の住処』の戦士達は探してる。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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