第47話 旅立ちの支度その2

ショウマ一行は迷宮都市に着いた。


今日は行動サイクルで言うと、迷宮探索の日。

迷宮探索、街に行く。

このサイクルにショウマは心の中で既に休日も加えている。

迷宮探索、街に行く、休日。

これで3日間だ。

ショウマが休むと言ったら休むのだ。

決定事項である。

一般的な判断では街に行く日というのは休日になるだろう。

そんな道理はショウマには通用しない。

しかししばらく、迷宮都市を離れる予定なのだ。

今日はその準備だ。


一行は今日もメイド服スタイル。

ショウマのリクエストだ。

ショウマは上等のコートを着ている。

メイドを引き連れた金持ちのボンボンになってるのだ。

と言っても街ではメイド服は一般的に知られてない。

見て珍しい服だなと思っても給仕スタイルとは思われないのだ。

結果キレイな服装に揃えた女性を引き連れた金持ちのボンボンである。

ショウマは自分がそう見えてることに気付いてない。


みみっくちゃんがコノハさんと会って来るという。

『野獣の森』に行くのにどんな準備が必要か確認するそうだ。

昨日、コノハさんが泊まってる場所は聞いておいたらしい。

んじゃ任せよう。


一行は5人に増えてる。

別行動もいいだろう。

全員居ると目立つし、この前も絡まれたのだ。


「ハチ子、付いてって」

「な、何故私がみみっくちゃんと…」


「あれ、ハチ子。王に文句を付けるのは許せないんじゃなかったんですか。異論を唱える自体失礼と言ってたですよ」

「む…いや、王が意見を述べて良いと言ったのだ。私は王に従っている」


「ハチ子、みみっくちゃん一人じゃ危険だよ。

 この前みたいに絡まれるかも。

 ハチ子の戦闘能力が必要だよ」

「王よ、分かりました。護衛の任、果たしてみせましょう」


「というワケだ。みみっくちゃん先輩、頼りないからついてってやろう」



ショウマは冒険者組合に行く。

ケロ子とハチ美も一緒だ。

しばらく迷宮都市を離れるよという挨拶。

みみっくちゃんがしておいた方がいいと言うのだ。


そんなものかな。

ショウマは考える。

ショウマが会社員とすると、冒険者組合が会社。

なら長期休暇は申請出さないとね。

有休貰えるのかな。


『野獣の森』近くの組合の場所も聞いておこう。

待てよ。

別の冒険者組合行くんだから、休暇じゃない。

出張だ。

出張手当欲しいな。



「えー。アヤメちゃん、お休みなの」

組合にいつもの受付嬢はいなかった。

休日出勤した代休らしい。

替わりに受付嬢がキキョウさんを呼びに行ってくれた。


別室に行ってみると、キキョウさんと変なオジサンがいた。


「待ってください。ルメイ会長。

 ショウマさんが良いと言ってからと…」

「いえいえ、キキョウさん。

 単に挨拶するだけですよ、ア・イ・サ・ツ」


ショウマににじり寄ってくるオジサンである。


「ワタクシ、実は商人でして是非ショウマさまとお近づきになりたいと」


オジサンはやたら愛想良い。

太めの中年男だ。

身なりは良く、奇麗な紳士服。

髪は白髪が多い。

なんかアレみたい。

フライドチキンのお店の表に有る人形。


「そういや、この世界でフライドチキン食べてないや。

 有るのかな?

 それくらいは有りそう」


オジサンはショウマのセリフを聞き逃さなかった。 


「フライドチキン! 油で揚げた鳥ですな。

 この辺ではあまり見かけませんが、ご用意しましょう」

「へー。

 やっぱりフライドチキン屋さんなんだ」


フライドチキン売るために、冒険者組合にわざわざ来るなんて。

商売熱心だな。

感心するショウマだ。


「お住まいをお教えいただけますかな。

 近日中にお持ちいたしましょう」

「うーん。どうしようかな。

 近いうちに僕、出かけちゃうんだよね」


「ほほう、それはそれはどこかご旅行ですか?」

「うん。『野獣の森』へ」


キキョウは驚いた。

初耳だったのだ。


「ショウマさん。それは本当ですか」

「うん。その挨拶に来たんだ。

 後『野獣の森』近くの組合の場所教えてもらえない」


「『野獣の森』ですか。ショウマ様、いつご出発のご予定ですかな」

「えーとまだ決めてないけど、

 2,3日中だね」


よろしければといってルメイ会長は話し出す。


高速馬車と呼ばれるモノが有る。

明日『野獣の森』へ向かう馬車が迷宮都市を出る。

迷宮都市から『野獣の森』へ徒歩の旅なら10日はかかる。

しかし、その高速馬車なら2日で行ける。

会長もそれに乗って、『野獣の森』近辺の街ベオグレイドに行くのだそうだ。

乗車券をご用意しましょう。

そう会長は言った。


「ホントウ。

 いいね、それ。

 無料キャンペーン中?」


「王よ、いい話ですがいい話過ぎないですか?」

「商人さんっ。その乗車券って普通はおいくらなんですかっ?」


「いえいえ、もちろん料金の方はこちらでお持ちしますよ。

 その替わり今後ルメイ商会を贔屓にしていただければ、こちらはお釣りが来ます」


ハチ美、ケロ子は怪しんでいる。

ショウマに旨い話は疑えという気持ちはあまり無い。

スマホ料金プランやら、ペ〇ペイキャンペーンやら。

旨い話には慣れてるのだ。

もちろん商人側の考えは有るんだろうと思う。

でも契約する訳でも、ハンコ押すんでも無い。

くれるんなら貰っとこう。

しかし、それ以前に今なんて言った?


「今、ルメイ商会って言った?

 それって街の大通りにある大きいお店?」


「はい。ご存じでしたか?

 私ルメイ商会の会長をしております、キューピー・ルメイと申します」

「じゃあ、用は無いや」


あそこのヒゲ店長と店員はケロ子とみみっくちゃんに暴言吐いたのだ。

しかも迷宮商人さんを死に追いやってる。


「ああ、ちょうど良かった。

 あの店の偉い人なんだよね。

 あそこの店長に暴言吐かれたんでクレーム入れたいんだ。

 お客様センターの連絡先教えてよ」


ショウマはマジである。

根に持ってるのだ。

とりあえず10回はクレームの電話しないと気が済みそうにない。


「ショウマさまっ。ケロ子は気にしてませんっ」

 

「お客様センタ?

 ええとウチの店で何かありましたか。

 大変申し訳ありませんでした。

 責任は私が取らせていただきます。

 何が有ったか教えていただけますか」


ルメイ会長は深々とお辞儀をした。


ええっ!

キキョウはさらに驚いた。

商人とは言っても、ルメイ会長はもう国を越えた重要人物である。

世界でも有数の商会。

その代表なのだ。

まさか冒険者に深々と頭を下げて見せるとは。



………

「…そうですか。大変失礼しました。

 店長には必ず責任を取らせます」

「いや、もういーよ」


ショウマはさんざん文句を言った。

ヒゲ店長のコト、店員のコト。

お店の内装から値段まで全て文句を言いまくった。

そこからまた店長に対するクレーム。

さすがに言い飽きた。


「ケロ子様もウチの店の者が大変失礼いたしました」


ルメイ会長はケロ子にも頭を下げる。


「いえっ。そんなっ。

 ホントウに気にしないでくださいっ」


ケロ子は逆に慌ててる。

人に頭を下げられるのが初めてなのだ。

しかも相手は年上の身なりの良い男性である。

ショウマは毒気を抜かれている。

店長に関して、さんざん文句を言ったのでスッキリしたのだ。


「ところで、ショウマ様。

 ルメイ商会をもうお使いになりたくないという気持ちはよくわかりました。

 そこでどうですかな」


「私、キューピー・ルメイ個人とお取引いただくというのは?

 それもお嫌ですかな?」




『獣の住処』の戦士達は探し回ってる。

今日見つけないとリーダーに殺されるのだ。

戦士達は知恵は無いが、体力だけは有り余っている。

迷宮都市の至る所を探し回ったのだ。

しかしついにメンバーの一人が考えついた。

戦士の中でも数少ない知恵者だ。


「もしかして、着替えたんじゃないか。

 二日経ってるし、服を着替えてる」

「そうだな。着替えなきゃフケツだ」


「じゃあ魔術師っぽいガキと4人の女戦士を探すぜ」

「魔術師っぽいガキと3人の女戦士と変なの1人探すぜ」


そして彼らは探し回ってるのである。

彼等は戦士だ。

考えるのは仕事じゃないのだ。

キューピー会長のように組合に訊いてみよう、そんな考えは浮かばないのだ。




「サラ様から預かっていたんです。

 練習試合に勝ったら、後ろ盾になると言ってらしたでしょう。

 サラ様の紋章入り指輪です」


別れ際にキキョウ主任から指輪を貰った。

キューピー会長は帰っていった。

結局彼の世話になって、高速馬車に乗る事になった。

ショウマ一行はショウマ、ケロ子、みみっくちゃん、ハチ子、ハチ美。

さらに従魔師コノハと“妖狐”タマモ。

6人と一匹分、馬車に席を用意してくれると言う。

明日午前、迷宮都市の正門前に集合する。

コノハさんにまだ伝えてないけど、何とかなるだろう。

ルメイ商会には恨みがあるが、キューピー会長個人に文句は無い。

それに馬車乗りたいじゃん。

だって歩いたら10日以上だよ。


指輪!

お婆ちゃんから指輪貰った!?

まさかプロポーズじゃないよね。

受け取って大丈夫?


「サラ様が信頼した人物と言う証になります。

 大事にしまって、イザという時使うべきかと。

 見せびらかすのはお薦めしません」


キキョウさんに『野獣の森』近くの組合の場所も聞いた。

二ヶ所有るらしい。

一ヶ所がベオグレイドという街に有る物。

キューピー会長が行く予定の街だ。

迷宮都市と同じかそれ以上の規模の街らしい。

もう一ヶ所、『野獣の森』を挟んだ逆側にもあるそうだ。

こっちは小さめの村らしい。

コノハさんが言ってた故郷かもしれない。


『野獣の森』は入り口が二ヶ所有るのだ。

少し驚いたが、場所は森だ。

出入り口が幾つか有っても当然なのかも。


組合も街の規模もベオグレイドの方が大きい。

小さめの村は数人しか組合員もいないという。


それからみみっくちゃん、ハチ子と合流。

二人にはもう一回コノハさんの所に行ってもらう。

明日の高速馬車に乗るというのを伝えるため。

旅が二日で済むことになったので、支度は大して必要ない。

二日分の食料くらい。


ショウマは服屋に向かう。

例のキラキラしたトカゲ店員さんのお店だ。


「はーい。出来てるわよ」


黒のフードを染めるよう預けていたのだ。

フードは純白に染められていた。

しかも背中には意匠が凝らしてある。

翼の生えた馬の刺繍がされていたのだ。


「うわっ

 白!

 しかもペガサスの刺繍」


ショウマの感覚だと割と恥ずかしい。

白って。

ケロ子達はみんな良いと言う。

仕方ないので白のローブを羽織るショウマ。

なんだかファ〇ナルファンタジー風?

しかしこれで一昨日の黒いローブの魔術師とは思われないだろう。

フードで顔を隠してももうOK。

顔隠しときゃいーや。


ついでにしばらく来れ無い事を伝える。

残念がる店員に新しい服のイメージを幾つか伝える。


身体にピッタリしたロングドレス。

色は華やかに。

スカートにはスリット。


真っ赤な衣装に白のフワフワ。

生地はモコモコのウールで。

ブカッとした帽子とセット。


チャイナドレスとサンタルックだ。

後ジャージも欲しいな。

伸縮性の有るルームウェア。

ダラッとする用。

適当にドンドン伝える。

イメージにピタっとハマるかは分からない。

けどこの店員さんなら何か作ってくれるだろう。



さてその頃


『獣の住処』の戦士達は走り回っていた。


「魔術師っぽいガキと4人の女戦士、そんなのどこにもいないぜ」

「魔術師っぽいガキと3人の女戦士と変なの1人、そんなのどこにもいないぜ


やばい。

今日見つけないとツメトラさんに殺されるのだ。

しかし知恵者が情報を仕入れてくる。


「おーい。オレ似顔絵手に入れてきたぜ」

「似顔絵?」


「そうだぜ。黒いローブの魔術師、その似顔絵だ」

「本当か」


似顔絵を見た男達は首を傾げる。


「本当か、コレ?」

「やけにキラキラした子供だぜ」


「男かコレ?、女かと思った」

「本当だよ、新聞社に知り合いがいてよ。

 明日の新聞に乗る予定のイラストだぜ。

 間違いねーよ」


「新聞に? ならそうなのか…」


男達の見る似顔絵。

黒いローブで頭の隠れた美少年だ。

睫毛は長くあどけない口元は笑みを浮かべ、顔立ちは美しい。


「よーし このキラキラした美少年、探すぜ」

「このキラキラした美少年、探すぜ」


どうやら『獣の住処』が探し求める人物に出会う事はなさそうである。




【次回予告】

スレイプニル。

北欧神話では主神・オーディンの愛馬と言われる。8本の足を持つ最高の軍馬だ。

オーディンの義兄弟でありながら邪悪な神としても有名なロキの子供であるという逸話も有る。ゲームなどで、神獣、神馬と呼ばれる所以であろう。

「変なウマキター」

次回、コノハは絶句する。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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