第45話 新たなる迷宮へその3


番外編:シロツユ


「ボツ」

編集長は無慈悲に言った。


「なんでですかー!、力作なのに」

「あのなシロツユ。誰が美少年の絵を描けって言った!

 俺が描けって言ったのは事件現場。

 冒険者組合で魔法ぶっぱなして十数人巻き込んだ事件。

 その現場を絵にしろって言ったの」


そう。

シロツユは見ていたのだ。

事件現場。

冒険者組合の訓練場。


シロツユは絵描きだ。

絵描き一本で食べていくのは簡単ではない。

シロツユはまだ若いのだ。

年を重ねて有名画家になって来れば、貴族から仕事が入ったりする。

肖像画を描くのだ。

美味い事、貴族の面影を残しつつ美形に描く。

それだけで信じられない額の報酬が貰える。

シロツユはまだ貴族からお呼びがかかるほど有名じゃない。

絵物語に挿絵を付けたりもする。

これも有名になって来れば報酬が大きい。

今はまだ全然だ。

新聞や号外にイラストを付ける。

速報性が大事というので殴り描きだ。

パッパと描かなきゃいけない。

丁寧に奇麗に描きたい。

そんなシロツユにとってイマイチ好きでない仕事だ。

しかし現在の彼女にとって貴重な収入源なのだ。


何かあったらすぐ絵を提出しなきゃいけない。

でも丁寧に描きたい。

そんな彼女は考えた。

有名冒険者の絵を描いておくのだ。

新聞の売れ筋は有名冒険者の話題。

チーム順位1000位以内に入るような冒険者は顔を見て、先に似顔絵を描いておく。

何かあったら、そこから引っ張り出すのだ。

だからシロツユはしょっちゅう冒険者組合、訓練場に顔出ししてる。


先日のキョウゲツ様の絵は良かった。

既に描いてあった自信作が採用された。

頼み込んだのだ、本人に。

似顔絵描かせてください。

キョウゲツ様は赤くなったり、青くなったりしながら応じてくれた。

キョウゲツ様は元が美形だ。

新聞に載せる絵はいくら美化してもOK。

だって嘘じゃない。

ガンテツさんとかを美形にして描くのは無理が有る。

あまり嘘は描きたくないシロツユだ。

じゃあキョウゲツはというと、

シロツユにはそう見えるんだ、そう言い張るシロツユである。


いや美形にして描けとは言ってないぞ!

編集長の叫びが聞こえそうだ。

でもシロツユの絵はそれなりに人気が有るのだ。

キョウゲツの大きい絵を載せた号もいつもより売れた。

女性読者が買ってくれるのだ。


「だって本当に見たんですよ。

 フードで顔を隠してたけど、通りすがりにチラっと。

 線の細い少年」

「うーん」


編集長はシロツユの出してきた絵を眺める。

フードで頭を隠してはいるが、顔が見える。

前髪から覗く長い睫毛、黒い濡れるような瞳。

あどけない口元は笑みを浮かべる。

かすかに見える白い歯。

体つきは細く、とても冒険者には見えない。

幼げな美少年だ。


「イヤ、これ無理があるだろ!」

絵を机に叩きつける編集長だ。


「とにかく、凍り付いた会場と被害に遭った冒険者の絵を描け。

 今すぐに。一時間以内に出来ないなら、別の絵描きにやらせる」


「ええーっ。そんなコトされたら、今月の家賃が払えません」

「ならすぐ描けーっ!」


しかた無く諦めるシロツユ。


絵物語がもう少し売れて来れば。

新聞の仕事なんて辞められるのに。


絵物語だけで食べていくのはまだ厳しい。

必要経費もかかる。

原稿用紙とか自腹なのだ。

本が売れてから、印税がシロツユの元に入る。

先日発売された2巻の売り上げが手元に来るのは来月だ。

今月の家賃は新聞社からせしめないと。


そうシロツユは絵物語を書いてる。

挿絵は有名にならないと注文が来ない。

だから先にお話も書いて、版元に持ち込んだ。

まぁまぁ気に入ってもらえた。

試しに刷ってみようという話になった。

少部数印刷して、売れた分だけ作家に入る。

版元は少数印刷経費だけ、そんなに損しない商売。

売れなきゃ作家には何も入らない。

まずまず売れてくれた。

二冊目、三冊目とドンドン書いて持ち込んでる。

前の本も順調に刷り部数を重ねてる。

徐々に安定した収入になってくれるかもしれない。


よーし有名作家になってやる。

作家・エーデルワイスの名を世に知らしめてやるのだ。

そう思うシロツユだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



さてダラっとしたみみっくちゃんたちですが、その日の夜お家にお客さんを迎えます。急転直下の展開です。さあみみっくちゃんたちの運命やいかに。



そろそろ夕食の時間だ。

ケロ子に呼ばれて、居間に行くショウマ。


「ううー。

 目が疲れたー」


一気に30冊も絵物語を読んだのだ。

ショウマは目がしょぼしょぼしている。


読書スキルのランクが上がった

とか言って、疲れが吹っ飛ぶみたいなの無いのかなー

そんな事を妄想している。


すすっとハチ美が近付いてくる。


「王よ、冷やしたタオルです。良ければお使いください」


ショウマの手元に差し出してくる。


「ああ、ありがと」


ショウマはタオルを目に当てる。

冷やりとした感触が気持ちいい。


「また、ハチ美はご主人様のポイント稼ぎですね。かまい過ぎると逆に男性には嫌われるって言うですよ。ほどほどにしておくのが良い女というモノですよ」


「だ…誰がポイント稼ぎですか。私は王のためを思っているだけです」


みみっくちゃんとハチ美が言い争っている。

言い争ってはいるけど、剣呑な雰囲気では無い。

これはこれで仲いいのかな。

そう思うショウマだ。



と、ハチ美が真剣な表情になる。


「誰か近づいてきます」

「また冒険者の人っ?」


ケロ子が言う。


ショウマは知らないが、昼にも冒険者が隠し部屋に近づいてきた。

隠し部屋が有るのは湖の小島のさらに先。

岩壁まで続く橋が有る。

岩壁から水が出て滝のようになっている。

その滝の裏に隠し部屋が有るのだ。

普通の冒険者は小島に有る階段から2階へ降りる。

わざわざ危険を冒して、小島の先へ進まない。


だが今日は何組か滝の近くまでやってきた冒険者がいた。

1階に魔獣が出なくなったのだ。

襲われる危険が無い。

ならば、

「あそこに滝が有るぜ」

「ちょっと近くまで見物に行くか」

そんなヤツも少しは出てくる。


そのたびにハチ美は動向を滝の裏から見ていた。

滝の裏に気付くほど近づく者は居なかった。

巨大な滝だ。

近付き過ぎると飛沫も飛ぶ。

水飛沫を避けたのだろう。


その話を聞いたショウマ。

魔獣がいなくなるのも良いことばかりじゃないな

と思ってる。

近くに人が来るの自体嫌いなのだ。


「近付かないで。

 ソーシャルディスタンス守ってよ」


それはそれとして、

ハチ美が警戒した表情になってる。


「二人…いえ、一体は人じゃない。

 魔獣です。魔獣の気配です」


「アレ、一階にはもう魔獣が出なくなったんじゃ?」


「王よ。近づいてきたので私も分かる。アレは魔獣だ」

「一体は魔獣です」


ハチ子も魔獣の気配を捉える。

これはもう間違いない。


しまった!


ショウマは思う。

キキョウさんとアヤメに一階には「魔獣がいなくなった」って言っちゃった。


近付いてくる魔獣に危機意識の全くないショウマである。


家を出るショウマ一行。

隠し部屋へ繋がる滝の裏の空間だ。

そこからもう見えていた。

浮橋の上。

近付いてくる。

一人と一体。

一人は小柄な少女。

一体は大きな獣。

尻尾が有り、狐耳が生えている。

従魔師コノハと“妖狐”タマモであった。




「コノハさん。良くここが分かったね」


場所は隠し部屋の中。

居間だ。

コノハたちを知らんぷりしてやり過ごすことは出来なかった。

タマモが完全に気が付いていた。

滝の裏を指し、コノハに合図していたのだ。

そのまま滝に飛び込んできそうであった。

仕方ない。

相手は知らない仲じゃない。

ショウマたちはコノハとタマモを迎え入れた。

コノハは椅子に座ってる。

タマモは近くに寄り添っている。

みみっくちゃんはタマモの背中にくっついてる。

「ううー。モフモフ。幸せですよ。居間にモフモフが居る。これが居間のあるべき姿ですよ」


「はい。地下迷宮のニオイを辿ってやってきました」


コノハがタマモを見ながら言う。

タマモがニオイを追跡したという事だろう。


ええっ!

僕ってクサイ?

ちょっと自分の臭いが気になってしまうショウマだ。


「はい。どーぞっ」


ケロ子がお茶を差し出す。

初めてのお客様に緊張してるケロ子。


「お菓子も有るよっ。クッキーとドーナッツ。

 どっちがいいかなっ。

 あ、晩ごはんは済んでるの?

 ワタシ達これからなんだよっ。

 良かったら一緒にどうっ」


お客様はもてなさなければイケナイっ。

ショウマさまのためにも、粗相のないようにしなくてはっ。

そんな使命感に駆られるケロ子だ。


ハチ子とハチ美は警戒している。

二人はタマモと初対面だ。

相手は魔獣である。

警戒するのが当然だ。

王を守らなくては。

ショウマのそばに付く二人だ。


「そいで、コノハはみみっくちゃん達になんの用事ですか? モフモフを届けに来たというなら、いつでも受け取りますですよ」


コノハは答える。

ショウマを見る。

真剣な表情だ。



「ショウマさんにお願いがあります」


「図々しいと思うかもしれませんが、お礼はします」


「お金は今はあまりありませんが、稼いだら必ずお渡しします」


「お金だけじゃないです。私にできる事なら何でもします」


「何でもしますから…」


「どうか助けてください」


何でもします…!?

キタ!キタキタ!美少女の何でもしますキター!

さすがにショウマは口に出してない。

この緊迫感の中、言ったらマズいよね。

すでにコノハは目に涙を浮かべているのだ。

そのくらいは理解できるようになったショウマである。


「コノハさん。

 落ち着いて。

 僕は何をしたらいいの?」



「『野獣の森』」


「コノハの故郷は『野獣の森』近辺の村です」


「『野獣の森』に来てください」



そして


ショウマとチーム・天翔ける馬(ペガサス)は新たなる迷宮に向かう事になる。

新たなる迷宮『野獣の森』だ。



【次回予告】

冒険者チーム『獣の住処』

有名なのはリーダーのツメトラ。

クラス:ブラッドサースティタイガー。狂戦士と呼ばれる。

職業に狂戦士と言うのは無い。彼の行動からそう呼ばれるようになったのだ。

「飛行機は?、新幹線無いの?新幹線」

次回、ショウマが狙われる。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)




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