第18話  四日目その4


「組合としては真剣に『毒消し』が必要なんです。

 『毒消し』の材料を用意していただけるなら、

 ショウマさんの対応は優先させていただきます」

「そんなに『毒消し』が必要なの?」


冒険者組合の主任キキョウはショウマに説明してくる。


「地下迷宮の2階以降に行くには1階の湖を通らないと行けません。

 湖には毒の攻撃を使う魔獣がいるのです。

 特に猛毒を使う巨大魔獣。

 巨大魔獣はいなくなったという情報も有るのですが確かではありません。

 巨大魔獣がいなかったとしても“毒蛙”が出ます。

 冒険者に『毒消し』を用意せずに進めというのは無理な話です」


「『毒消し』の材料は“毒蛙”からドロップする『カエルの死体』なの。

 でも巨大魔獣がいるから“毒蛙”と戦ってる人が少ないし、

 『カエルの死体』も全然組合に入ってこないわ」


続けたのは組合の受付嬢アヤメだ。

どこまでショウマに通じてるか怪しいと思ったのだろう。


「巨大魔獣と戦うには『毒消し』が必要。

 でも魔獣のいる場所のカエルを倒さないと『毒消し』が手に入らない。

 あははは。

 出口なしだね」

「笑ってる場合じゃないのよっ!」


ショウマは自分がその巨大魔獣を倒したことに気付いてない。

大きい魔獣って何匹もいるんだなくらいに思っている。


「他に『毒消し』を手に入れる方法は?」

「『野獣の森』なら手に入ります。

 ここから距離が有るし、帝国領から薬を持ち出すには許可が必要です」

「商人さんたちも輸送しようとしてくれてるんだけどそこで引っかかってるみたい」


「後は地下迷宮の4階です」

「4階だと材料じゃなくて『毒消し』そのものが手に入るみたい。

 ただ迷宮の下層に行けてる冒険者が少ないわ。

 巨大魔獣が出てこないようなら増えてくると思うんだけど」

「まぁいいや、だいたい分かった。

 『毒消し』の材料か『毒消し』を手に入れればいいんだ」


ショウマは軽く言う。

アヤメは本当に出来るの?と疑っている。

キキョウ主任はさすが腕利きの密偵と納得している。

ショウマは別に勝算があるワケではない。

 【クエスト発生:『毒消し』を手に入れろ】

ってヤツだね

とか考えているだけなのだ。



「今後はアヤメに言ってください」

と言ってキキョウ主任は行ってしまった。


「なんでアヤメが」

「アヤメ、ショウマさんと仲良さそうじゃない」

 

キキョウ主任は目がクサってると思う。

やっぱりアヤメに面倒な事はに回ってくるようになっているのだ。


「はい。クラス:ドッグの冒険者証」

新しい冒険者証をショウマに渡す。


『冒険者証

   階級:ドッグ

   名前:ショウマ

   発行:冒険者組合』


「階級がドッグになっている以外前と変わらないわ。

 けど紙が白から青になってるでしょ。

 傷みにくい上等の紙に変えてるの。

 大事にしなさいよ」


「後、チーム順位の褒賞も受け取ってないわよね。

 今渡すわ」

「褒賞?

 なにそれ?」


「何で知らないのよ!」


説明中断したんだった

やっぱりコイツ何も分かってない


「そこに貼ってあるチーム順位見なさいよ。

 ショウマ、999位なの。

 毎週順位が出るわ。

 1000位以内なら、金貨一枚」

「金貨一枚?」


「そうだ、これも換金できる?」


ショウマは『コオモリの牙』『コオモリの羽』をアヤメに差し出してくる。


「いいわよ、10Gにしかならないけど。

 これで今月は3人ともノルマ達成になるわ

 なんだ、8個も有るじゃない。

 これでケロコさんもミミックチャンさんもクラス:リトルラビットからクラス:ラビット扱いに出来るわ。

 冒険者証は変わらないけど、買取価格なんかが少し上がるの」


アヤメはとっとと記録を書き換える。

大っぴらには言ってないけど、リトルラビットなんてただの勘違いで来てるようなのが多い。

一人前どころか新人とも思われてない。

冒険者組合は加入の敷居は低い。

冒険者を目指す人間には元犯罪者や、訳アリの人間も少なくない。

冒険者証は渡されるが、その後は本人の行動が問われる。

組合加入して1ヶ月もリトルラビットを続けるようなら 組合でも強面の人間がオドシつける。

辞めるか、本気で続けるかハッキリしろという訳だ。

ラビットになれば一応はマトモな冒険者志望扱いになる。

ただの身分証欲しさに冒険者組合に手間をかけさせるのは勘弁なのだ。

コイツもそんな勘違いかと思ったけど一応真面目に冒険者やってるんだ。



「金貨一枚?」

ショウマの考えが正しければ金貨1枚=1万G=100万円だ。


「毎週100万円。

 なにそれ、

 ボロ儲け?

 夢の年収一千万?

 を軽く超えてる!」


週に100万円。

一年間はおよそ50週。

という事は年収五千万円?

コオモリのドロップ品は80Gにしかならなかった。

けど週の褒賞は大きい。


ショウマは『梟の嘴』や巨大猛毒蟇蛙のドロップ品は差し出さないでおく。

1個しか無いのだ。

1個しかないモノってとっておきたくなるよね。


この時点でショウマの所持金はざっと30000Gだ。

昨日のアンデッドのドロップコインや一昨日のフクロウのコインも合わせてある。


「アバウト300万円!

 キター!」


「ご主人様、みみっくちゃんのチーム登録もしてもらいましょう」

「チーム登録?」


「はい。冒険者組合にある『冒険者の鏡』に3人で登録するのです。

 するとアラ不思議、ケロ子お姉さまが戦闘で敵を倒した経験値が3人の共有の経験値になります。ドロップするお金は基本リーダーの元に入ります。我々ならショウマさま一人の手に入るワケです。よ!この守銭奴!ってヤツですね…」

「あーあー。

 あれってやっぱりそういうヤツだったんだ…」


「……

 何ですって? お家の鏡でチーム登録出来たですって~、ケロ子お姉さまはチームに入ってる?

 じゃあなんでみみっくちゃんチーム登録してくれなかったですか、みみっくちゃんだけのけものですか? 仲間外れですか。そしたら街に来るまでの戦闘でも経験値みみっくちゃんにも入ったのに…」

「ゴメンゴメン。そういうモノだと分かってなかった。

 今やろうよ、チーム登録」




「大きい鏡ですっ」


冒険者組合の鏡は大きかった。

ショウマの家に有った者はいわゆる姿見だ。

ちょうど人間一人が映るくらいの大きさだ。

組合の『冒険者の鏡』はその横に広いモノだ。

10人くらいは人間が映せるだろう。


「はい、じゃ3人でチーム登録ね。

 リーダーは…ショウマと」

「チーム名は『ショウマ』のままでいいの?」


ショウマにアヤメが尋ねてくる。


「チーム名?」

「うん。今『ショウマ』になってる」


「『ショウマさまとシモベ』でどうでしょうっ」

「『従魔少女隊』いやこれだと従魔だってバレバレ?」

「『みみっくちゃんファンクラブ』というステキな響きはいかがかと」


「後でも変えられるから早くして欲しーな」


結局チーム名は『ペガサス』になった。

今度ゆっくり考えよう。

『ショウマ』のままはショウマがイヤだ。









地下2階にも行ってみようと言い出したのはカトレアだ。

新人がLV5くらいにはなってからがいいんじゃないと返したのは魔術師だ。

議論は他のメンバーも混じって白熱した。

だって6人チームだ。

経験値を6人で割ってたらいつまで経ってもLV5になんかならない。

2階はアンデッドが大量に出る。

休憩する場所も無い。

無理しちゃ元も子もないぞ。

ベテランが付いてるんだ。

普段は3階で戦っているメンバーが一緒だ。

4階でだって戦える。

あそこは罠が多いから3階をメインにしているだけだ。

今回4人新入りが来たのは試験だぜ。

今後も新人は入ってくるだろ。

俺たちは新人教育に慣れてない。

最初くらい慎重にやろうや。

新人だからこそ下の層に連れてかなきゃ経験にならないだろ。


そんな話をしていたら警戒を忘れた。

冒険者失格だ。

後ろからだ。

後ろから魔術師が狙われた。

巨大なクチバシが上から降ってきた。

魔術師もベテランだ。

急所は避けた。

避けたと思う。

けど倒れたまま起き上がらない。


「なんだ!

 アレ

 見たことないぞ」

「デッカイ鳥だ」


「そんな魔獣 1階にいないだろ」

「バックアタック仕掛けてきたぞ」


隊列の後ろから魔獣が仕掛けてくるバックアタック。

通常起きるのは3階より下だ。

1階で喰らうなんて予想もしていない。 

ワヤクチャになった隊列を組みなおす。

斧戦士とベテラン剣戦士が前に出て、カトレアは後衛。


「なんだ、あれ。なんだよ!

 あんなデカイのと戦えるわけねーじゃねーか」

「どうしましょう。

 どうしたらいいですか?」


新入り戦士と従魔師コノハはパニックになりかけてる。


「魔術師をみてくれ。

 回復薬持ってきてるだろ」


戦力にならないのが隊列に入るよりいない方がマシだ。

カバーできる余裕は無い。



この中でキャリアの一番長い剣戦士が話し出す。


「聞いたことある。

 “闇梟”だ」

「知らないよ そんなの」


「ワシは聞いた事あるぞ

 いつの間にか チームの最後衛が一人いなくなる

 デッカイ梟が攫ってく ってヤツじゃ」

「怪談話じゃないか」


フクロウが舞い降りてくる。

カトレアが意識するより先に手が勝手に動く。

弓に矢を番え引く。

獲物を見た時の猟師の習性だ。

矢は当たった。

当ったはずだが、フクロウが黒くて良く分からない。

確認する余裕は無い。

前衛の戦士をフクロウが襲う。

爪だ。

マジかよ。

笑ってしまうほど鋭く長い。

斧戦士が盾で受ける、がムリだ。

衝撃で跳ね飛ばされる。

剣戦士が切り込むが「カン」と固い音で跳ね返される。

カトレアは離れて行く黒いフクロウに矢を射る。

飛行する魔獣なら矢に特攻が付く。

上空に舞うフクロウ。

ザっと人間3人分くらいの大きさか。

矢は刺さった筈だが、どの程度のダメージかは分からない。


「ヤバくねーか。

 逃げた方がいい」

「逃げられたら逃げるさ!」


斧戦士は立ち上がってきたが、魔術師はまだひっくり返ってる。

見捨てて行くには貴重すぎる人材だ。

コノハは足が遅い。

これも捨てて行くのはダメだ。

カトレアには出来ない。

魔術師が最初にダウンしたのが痛い。

火属性の魔法を正面から当てるのが最もダメージを与えられる方法だ。

もっとも相手を避けられないようにしてからの話なのが難しい。

しかしあのデカイ図体だ。

何処かには当てられただろう。


「チックショウ!

 分かってて狙ったんじゃないだろうね」


“闇梟”は上空で旋回している。

図体が黒くハッキリとは判別できないが、光の加減で動く翼が見える。

こちらのスキを狙ってるのだ。

カトレアは威嚇に矢を放つが、どの程度効果が有るものか。


「他のチームの助けは?」


「1階だよ。

 低LVのチームが来たって、足手まといが増えるだけだろ」


魔術師がフラフラしながら起きてきた。

コノハが回復薬を飲ませたのが効いたらしい。

肩を抑えてる。

出血が激しい。


「無事か?」

「無事じゃない」


「魔法は?」

「集中できん。

 威力は落ちるが、2,3発なら使える」

 

「それじゃ仕留めきれない。

 避けられて終わりだ」

「やるしかないだろ。

 他に手は無い」


「なんだよコレ。

 なんでこんな事に…

 みんな死ぬのかよ。

 おれも死ぬのか…」


魔術師の横には新入り戦士がついてきている。

すでに顔が青を通り越して白い。

その後ろにはコノハが心配そうについてきてる。

顔が青くなっている。

当たり前だ。

命の危機なのだ。

パニックにならないだけマシだ。

その後ろに“妖狐”がついてくる。


「!」

「コノハ、マヒ攻撃だ」


「あのデカブツが近付いてきたらマヒ攻撃を食らわせろ!

 落っこちたヤツを全員で仕留める!」


カトレアは叫ぶ。

勝利の可能性が見えてきた。

なのにコノハは言うのだ。


「マヒの遠吠えは…

 タマモより大きい魔獣には効果が出ない事が多い…です」




【次回予告】

「うん?

 なんだか話が僕のいないところで盛り上がっていない?

 主役は僕じゃないの?」

「ショウマさまっ 楽屋オチとかメタフィクションは最近嫌われるみたいですっ」

「本編では無しだけど、次回予告の中ならいいんじゃないかとおもったみたいですよ

みみっくちゃん情報によると」

次回、ショウマの出番は有るのか? 

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