第19話  四日目その5

「マヒの遠吠えは…

 タマモより大きい魔獣には効果が出ない事が多い…です」


「クソっ」

「いいからやってみろ。

 効果が出りゃ儲けものだ」


従魔師コノハは怯えてる。

大きい魔獣に襲われたのだ。

体長4~6Mくらいだろうか。

フクロウだ。

ベテラン剣戦士が“闇梟”というまでフクロウとは気づかなかった。

空飛ぶ熊に襲われたかと思った。

生まれ育った『野獣の森』で出くわす巨大な敵と言ったら熊だ。

コノハは“妖狐”タマモを連れて戦ったことがある。

その時もベテラン冒険者や猟師と一緒だった。

“妖狐”はマヒの鳴き声を使える。

役に立つかもしれないから付いてこいと言われた。

結果、タマモの遠吠えは熊には効かなかった。

ちゃんと言ったのだ。

タマモより大きい魔獣には効果が出ない事が多いって。

なのに…口々に罵られた。

何がマヒだ、大ウソツキが

仲間がケガしたじゃねーか、お前のせいだぜ

チッ、これだから混血はよ

ウソしか言わねーぜ



「カトレア! 来るぜ」

「!」


“闇梟”!

上空で旋回していた。

その体は黒くて見えづらいが、今は頭をこちらに向けている。

降りてくるつもりなのだ。


「今、作戦たててんだよ。

 後にしろ」

女冒険者カトレアは叫ぶ。


「聞き入れてくれるほど、

 物分かりが良くなさそーだ」

「知ってるよ」


「追い払う。

 『矢の雨』だ」


「あいよ」

「お前ら、ワシの後ろに隠れてろ」


斧戦士の言葉に新入りの剣戦士は抗う気力は無い。

口の中で呟いてる。


「何だよ、何だよ、あれ。

 バケモノじゃねーか。

 あんなの戦える相手じゃねーだろ」


でも戦わなきゃなんないのだ。

そうコノハは思う。


「しゃがんでください。

 頭を低くして」


剣戦士をしゃがませる。

ジャマだ。

コノハはしゃがまない。

敵を見ておかなければ。 



“闇梟”の姿が大きくなってくる。

近付いてみればハッキリ見える。

さっきまで迷宮の暗がりに黒い身体が隠れて良く分からなかった。

図体に比べて頭部がデカイ。

やはりフクロウだ。

その分、嘴(クチバシ)も大きい。

カトレアはデカイ頭部に狙いを定めて叫ぶ。




『矢の雨』




「神様。

 母なる海の女神さま。

 助けて」

新入り剣戦士は口の中でブツブツ言ってる。

しゃがんで目を閉じている。

コノハは中腰になりながらキチンと見ている。

タマモも一緒だ。

今回の戦いではお荷物にしかならないかもしれない。

でも今後も冒険者をやっていくつもりなのだ。

神様に助けを求めてる場合じゃない。


弓を構えるカトレアさんから矢が放たれる。

まだ“闇梟”は遠い。

コノハから見ると、この距離で届くの?と思うほどだ。

でもカトレアさんの強弓から放たれた矢は“闇梟”の胴体に当たった。

それだけではない。

幾つも矢が飛んでいく。

無数の矢だ。

弓に矢を番えて、放つ。

その時間を考えるとあり得ない数だ。

コノハは目を見張る。

『矢の雨』と言っていた。

弓戦士の戦闘スキルなんだ。





「Hoooooooooo!」


威嚇のつもりか。

“闇梟”は鳴き声を浴びせる。

カトレアの矢は当たった。

1本ではない。

『矢の雨』

10本~20本は一瞬で攻撃できる。

間違いなく何本も図体に刺さった。

普通の鳥なら1本当たれば落ちるだろう。

カトレアの強弓から放たれた矢だ。

“闇梟”も無数に飛んでくる矢を嫌がった。

カトレアたち目掛けて滑空していた向きを変える。

横にずれて脇を飛んでいく。

だがついでに爪を伸ばしていった。

長く鋭い凶器がチームを襲う。

ベテラン剣戦士が受けた。

大剣で受け流す。

まともに受けたら吹き飛ばされる。

身を守りながら力の向きをズラすのだ。

それでも吹き飛ばされた。

鉄鎧に身を固めた戦士が。

凶器が離れていく。

長く鋭い爪が見えなくなる。

しのぎ切った。

剣戦士は荒い息をついている。

鎧は凹み、大剣にはヒビが入っている。

“闇梟”はチームの脇を飛び、また上昇していく。

カトレアたちの近くに羽根が振ってくる。

羽根だけで、矢ほどの大きさだ。


「チクショウ!

 ダメージねーのか」

「向きを変えて逃げたんじゃ。

 少しは痛かったんじゃろ」


コノハは自分のマントから薬を取り出す。


「回復薬です。どうぞ」


剣戦士に差し出す。


「フッ フッ サンキュ フッ」


剣戦士はまだ荒い息だ。

体力を使い切ったのだ。

回復薬の瓶を一気に呷る。



「どうする?」

「今からでも走って逃げよう」


「向こうの方が絶対早い」

「チキショウ」


「デカイだけならワシの斧を喰らわしてやるんじゃが」


そうだ。

デカくて空を飛んでる。

カトレアはリーダーだ。

方針を立てなきゃいけない。

今居るメンバーで攻撃力が有るのは次の順だ。

魔術師の魔法。

斧戦士の斧。


魔法は避けられる。

斧は届かない。


カトレアの弓矢は普通飛んでるヤツには特攻が付く。

“闇梟”の躰に矢は刺さった。

だがあの図体だ。

どの程度のダメージか。


カトレアは決断する。


「コノハちゃん。

 タマモに頼む。

 マヒの鳴き声だ。」


「“闇梟”はまたこっちを狙ってくる。

 その時マヒを喰らわせてくれ」



カトレアは従魔師コノハを見る。

コノハは震えてる。

自分の従魔にいきなり6人の生命が懸かったのだ。

震えないヤツはいない。

カトレアだって震えてる。

カトレアはコノハの横に寄り添ってる“妖狐”に目をやる。

“妖狐”タマモに近づく。

タマモの目を見て語り掛ける。


「いいか、タマモ。

 マヒなんてのはだいたい集中が乱れてるヤツが喰らうんだ。

 ウチが弓でデカブツの集中を乱す。

 必ずやる。

 絶対だ。

 デカブツがこっちを狙って舞い降りてくる。

 その時はヤツは集中してる。

 狙うのはそこじゃない。

 ウチの矢を喰らって慌ててる時だ」

  

“妖狐”はフンと鼻を鳴らして見せた。

聞いていた。

伝わっただろう。

言葉が分からなかったらコノハちゃんフォローしてくれ。

他のメンバーも聞いていた。


ベテラン剣戦士と目が合う。

こいつは満身創痍だ。

ヒビの入った大剣を捨てる。

替わりの剣を鞘から出してる。

予備を持ち歩いてやがるのだ。


斧戦士がニヤリと笑ってる。

「リーダーの言う事じゃ。

 従うのが冒険者じゃな」

言いやがる。

戦いになれば勝手に動く癖に。


魔術師がため息をつく。

「チッ、オレが何を言ってもきかねーだろ」

「アンタの魔法が攻撃の要だ。

 頼んだよ」


新入り剣士はしゃがんだまま震えてる。

そのまましゃがんでてくれればいい。

その方がジャマにならない。


コノハは従魔の背中をさすってる。

「タマモ、やるよ」

目が死んでない。 

小さい体でタフだ。

思ってたより冒険者向きなのかもしれない。


タマモはコノハを見ている。

そういやコイツは怯えていない。

普通、動物は自分より図体の大きいヤツを怖がるだろう。

タマモは逃げずにコノハにずっと寄り添ってた。

従魔ってこういうモノなのか。

タマモがカトレアの方を向く。

カトレアに向かってうなずいてくる。


「よし、やるぞ」


パンッとカトレアは自分の両頬を打つ。



………

“闇梟”は獲物の上空を旋回する。

その体は闇色。

暗がりの岩肌に紛れ、獲物に姿を見せない。

獲物が動き出したのが見える。

1体だけ離れて行く。

あれは自分の身体に矢を当ててきた獲物だ。

矢は刺さると簡単には抜けない。

治るのに時間がかかるだろう。

“闇梟”は不愉快だ。

逃げる気か。

他に比べて元気のいい獲物だ。

走って逃げる気か。

仲間を呼ぶ気か。

自分が滑空する速度を知らないのか。

獲物より何倍も速い。

逃がさない。

自分の体に傷を付けたお返しをしないと。

“闇梟”は獲物に向かって急降下する。

巨体が音も立てずに滑空する。

嘴が獲物を捕らえる事を“闇梟”は疑っていない。



滑空する“闇梟”を視界に捉えたカトレアは振り返る。

強弓を構える。


落ち着け。

使うのは複数攻撃『弓の雨』でも無く、特殊攻撃『毒の矢』でも無い。

最もシンプルなスキル

『一点必中』

狙い定めた一点を必ず貫く。

それだけだ。


影が近付く。

黒い翼が大きくなる。

1秒前まで点だったモノが、巨大な影となる。

巨大な影の中にカトレアは梟の丸い目を見た。

それは闇のような黒い目だった。

黒い瞳。

その虹彩にカトレアが映る。



『一点必中』



滑空する巨大梟。

その質量が、翼の端がカトレアにブチ当たる。

自分の体重より遥かに重い物体の衝撃にカトレアが跳ね飛ばされる。






ショウマ一行は冒険者組合を後にする。

ショウマと従魔少女のケロ子、みみっくちゃんの3人だ。

ショウマの懐には金貨が2枚と銀貨がたっくさん。

考えが正しければアバウト300万円なのだ。


「キタ! キタキタ! 300万円キター!」

 

「どうしよう。

 こんな時にゲームもマンガも買い込めない。

 探したらマンガくらい売ってない?」


しかも話によれば毎週金貨一枚くれるらしい。

金貨一枚=10000G:だいたい100万円だ。


「街に来たら魔道具探そうと思ってたんだっけ。

 何があるかな?

 魔法の目覚まし?

 履いてたら勝手に移動してくれる魔法のクツとか無いかな」


「イヤ先にケロ子の武器かな。

 魔法の武器とか持たせたい。

 喋る魔剣?

 もう流行りじゃないね。

 炎の剣とかそーゆーの?」


ショウマは持ち慣れない大金で舞い上がってる。




【次回予告】

弓戦士のスキル カトレアさんによる紹介~

『一点必中』 最初から覚えるぞ。当たるけど攻撃力も飛距離も変わんねー。

       意味あんのか、これ。

『矢の雨』  複数攻撃~。敵が集団で出たらスゴイ使えるぞ。

       倒しきれなくても威嚇に使える。

『毒の矢』  なかなか覚えないヤツだ。相当経験を積んでから手に入る。

       ただなー、相手は魔獣だろ。毒が効いてんだか良くわかんねー。 


「あの店どうしてやろう。お客様センターの番号教えてよ。

 毎日クレームの電話入れるよ。名前変えて、毎日10回は電話するよ」

次回、ショウマが怒る。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る