第13話  三日目その4


従魔ケロ子は扉の外に出て主の名を呼ぶ。

また広間に入って、室内を走りながら叫ぶ。


「ショウマさまっ。

 何処ですかーっ」


「ショウマさまっ、ショウマさまっ」


居ない。

ショウマが居ないのだ。


室内にはアンデッドが落とした『骨』や武具が転がっている。

先ほどの骸骨の中に“骸骨戦士”や“骸骨弓戦士”も混じっていたのだろう。

汚れた弓や剣、鎧も有る。

宝箱まで有る。

それらをひっくり返してみるがもちろんショウマは居ない。

ケロ子は『賢者の杖』を拾い上げしっかり抱きしめる。


「ショウマさまっ」


「ショウマさま ショウマさま ショウマさま」


「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」


ケロ子が探してもショウマが見つからない。

ショウマさまの目がケロ子を見ていない。


ケロ子は産まれた時からショウマと一緒にいた。

一人になるのは今初めてなのだ。






「ホネー!」

「うわ! 人骨じゃないか」


慌てているのは従魔師コノハと新入り戦士だ。

“歩く骸骨”が出たのだ。

2階に多数出没する代表的なアンデッドだが、1階にも姿を現す。


「慌てなさんな。

 1体しか居なければ大した敵じゃない」


『花鳥風月』の古参メンバーは余裕の表情だ。


「そ…そうなのか」


戦士が剣を突き出す、が骨のすき間をすり抜け当らない。


「ああ、剣で攻撃するなら大振りした方がいいよ。

 こいつら刺されるより、打撃に弱いんだ」

「ただし気をつけろよ。

 動きが鈍いからって甘く見るな。

 下手にアンデッドの攻撃を喰らうとアンデッド化するって言うぜ」


「心配するな。

 アンデッドになったらウチがキッチリ倒してやるよ」


戦士は口々に言われ戸惑っている。


「あ!

 タマモ!」


コノハが命じてもいないうちに“妖狐”が“歩く骸骨”に突撃する。

頭からの体当たりだ。

“妖狐”にヘッドバットを喰らった“歩く骸骨”が一撃で崩れ落ちる。


「それだ。体当たりが一番効くんだ」

「分かっちゃいるが、ガイコツに体当たりするヤツぁいねーよ」


「さすが従魔だな」

「えへへー。

 よくやりました、タマモ」


“妖狐”の頭を撫でるコノハ。

そんな従魔師と従魔を見ながらカトレアは思う。

自分で判断して敵を攻撃する

体格から想像される通り攻撃力も有る

なにより敵をマヒさせる特殊能力

人間の冒険者には出来ない芸当だ


「確かにこいつは金の卵かもしれないね」







「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」


「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」


ケロ子はショウマを探している。

必死に探し廻っている。


彼女がこの世界に生まれた瞬間、目の前に居たのがショウマだった。

彼女を見つめる瞳を見た瞬間分かった。

目の前にいる人がケロ子を生み出してくれたのだと。

目の前にいる人の心が、優しさが、愛が彼女に注がれていたのだ。

それらからケロ子は産まれたのだ。

そしてケロ子という名前を貰った。


ケロ子がケロ子になる前。

うっすらと覚えている。

彼女は冷たい水の中にいた。

モノクロの世界。

近くには同類もいっぱいいた。

でも家族じゃない。

仲間でも無い。

近くにいるだけの競争相手だ。

恐ろしい大きいヤツが居た。

そんな記憶だ。

ぼんやりとした夢の中のようなうす暗い記憶だ。

もう忘れた。

そこから色の付く世界に生まれ変わったのだ。

ショウマさまのおかげで。

そこからのケロ子が本当のケロ子だ。



「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」


落ち着け!

ケロ子はショウマさまの従魔だ。

主を守るのが従魔の役目だ。


探すんだ!ショウマさまを!



「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」


ケロ子は室内を見て廻る。

落ちている武具の中から手甲を見つけ腕にはめる。

金属製の手首の上から肘までをガードする防具だ。

『賢者の杖』を懐にしまう。

杖に着いたショウマの臭いを確認する。


目を見開け!

耳をすませ!

ニオイを嗅げ!


探せ!ショウマさまを!



「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」


室内にはこれ以上手掛かりは無い。

ケロ子は扉から通路に出る。

歩く足を速める。

従魔の少女はチアガールの服装に手甲を着けて走り出す。



「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」


見つけろ!アタシの目!

駆けめぐれ!アタシの足!


探せ!ショウマさまを!


目の前に動くものがいる。

ショウマさまではない。

ガイコツだ。

何故アタシとショウマさまのジャマをする?

金属の手甲を付けた腕を前に構える。

そのまま少女は突進する。


「ジャマをするなーっ!!」








ショウマは宙を運ばれている。


『舞い踊る業火』

アンデッドの多数いる部屋で慌てて唱えてしまった。

まだ試していない魔法も多い。

どうせなら『吹きすさぶ風』も試したかった。

立ち昇る炎を見ながらそんな事を考える。

その直後、ショウマの視界が暗くなった。

何かかぶせられたのだ。

そのまま身動き取れない状態で運ばれている。

魔法を使おうかとも思うが、周りが分からない。

もし近くにケロ子が居たら?

フレンドリーファイアは御免だ。







ケロ子は走る。


何処かにショウマの姿は無いか。

何処かにショウマの臭いは無いか。


従魔は主を求めて疾走する。

“歩く骸骨”に遭遇する。

手甲を着けた腕を前に構え体当たりをかます。

すでに何体の“歩く骸骨”を葬っただろう。


『LVが上がった』

『ケロコは冒険者LVがLV6からLV7になった』


そんな声も耳に入らない。







「よし今日はここまでだ」


地下迷宮入り口の広間にカトレアたちは戻ってきていた。

左の回廊を一周したのだ。

戦果は

“飛び廻るコイン”×9

“狂暴鼠”×4

“歩く骸骨”×2


ドロップコインは45G。

『ネズミの歯』が買い取ってもらえるが、20Gにしかならない。

合わせて65G。

普段のカトレア達の戦果を考えると微々たるものだが、無いよりはマシだ。

新入りの戦士はLV1からLV2に上がっている。


「明日は朝から右の回廊に行くよ。

 できれば午後は2階に行きたいからね。

 薬草と回復薬 たんまり持ってきな」


「だから焦りすぎだって」

「左回廊の適正LVは1~5、

 右回廊はLV3~8、

 2階はLV10からって言うだろ。

 新入りはLV2、

 コノハちゃんだってLV3だぜ」


「そりゃメンバー全員が同じLVだったらだろ。

 新入り以外はみんなLV30前後だ」

「そうだけどよ。

 まだ役割だってハッキリしてないぜ」


「イチイチ細かいね。

 いいから薬草持ってくりゃいいんだよ」

「ヒデェ」


メンバーが分かれる。

飲みに行くもの、雑貨屋に行くもの、とっとと宿に帰るものさまざまだ。


新入りの戦士は魔術師に誘われて飲みに行くらしい。


「コノハちゃんも行こうぜ。

 親睦会」

「すいません。

 私はタマモがいるので。

 えへへ」


従魔師は“妖狐”を連れてそそくさと帰っていく。

飲みに行くなら魔術師のナンパから守ってやらにゃと思ったが必要なさそうだ。

カトレアは組合に行く事にする。

『ネズミの歯』の換金だ。

ついでにアヤメに挨拶しておこう。



 



………

“屍食鬼”は彼らの隠れ家へ辿り着く。

隠し通路を使った人間には辿り着けない場所だ。

担いでいた袋を下し、そこで間違えたことに気付く。

メスじゃない。

臭いが違う。

ガイコツ達のたまり場にニンゲンを導いた。

カギを置いておけばバカなニンゲンはかなりの確率で引っかかる。

バカなニンゲンはガイコツと戦って殺される。

後は死んだニンゲンをのろまなガイコツたちの目を逃れて喰らうだけだ。

今回はメスが居た。

だからニンゲンとガイコツが争っているうちにメスだけ攫う。

皮袋に閉じ込め担いで逃げる。

ハズだった。

ニンゲンとガイコツが争う瞬間恐ろしい炎が上がったのだ。

“屍食鬼”は火を使わない。

アレは恐ろしいモノだ。

慌てて手近なニンゲンを袋に詰めて担いだ。

取り違えたのだ。

「グッ!グッ!グッ」

メスじゃない。

仕方ない。

今から行ってもニンゲンのメスは死んでいる。

後で死肉を食いに行く。

今はこのオスを殺す。

生肉を喰らう。

2,3日置いて腐りかけの肉を喰らう。

“屍食鬼”は腐りかけの肉の味を思い浮かべる。


「ケロ子~、

 近くにいる~。

 いたら返事をして」


「いないね?

 大きいの行くからちゃんと避けてね」

 

ニンゲンが何か言ってるが気にしない。

捕えたニンゲンはだいたい騒ぎ立てるモノだ。

棍棒を振り上げる。

袋に叩きつけるのだ。


“屍食鬼”は人間の言葉が分からない。

だから次のショウマの言葉も分からない。

それはこう言っていた。



『炎の乱舞』



【次回予告】

“屍食鬼”

彼らには雌個体が存在しない。

人間あるいは亜人の雌個体を捕え、特殊な薬漬けとするのだ。

その雌個体は仮死状態となり老いることは無い。

永遠に“屍食鬼”の子供を産卵し続けるだけの存在と化す。

「孤独な少年 アパートで不審死?

 火元は『炎の玉』みたいな?」

次回、従魔の少女は導かれる。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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