第12話  三日目その3



「コノハです。

 えへへー。

 よろしくお願いします」


少女はカトレアにそういった。

いやもう成人しているのだ。

少女でもないだろう。

しかし見た目はまだ幼い。

未成人だと誰もが思うだろう。


「ああ、カトレアだ。

 一応リーダーって事になる。

 よろしく頼むぜ。

 それでそっちが?」


女冒険者カトレアは従魔師コノハの後ろに視線を送る。


「はい。

 タマモです。

 えへへ、“妖狐”です」


コノハは自慢するように言う。

そこには大きい狐がいた。

狐は意外と小さい動物だ。

代表的なアカギツネは体高40CM、身長50CM前後、柴犬よりも小柄だ。

目の前にいるのは頭の高さがコノハと同じくらいの位置に有る。

獅子くらいのサイズはあるだろう。

身長は優に2Mを超している。

そこからフサフサした尻尾が2本生えている。

2Mというのは尻尾を入れないサイズだ。


「おう、よろしくな。タマモ」


カトレアは“妖狐”にも挨拶して見せる。

タマモも「フン」と言った風情だが、軽く頭を振って見せた。

何となく言葉は通じるみたいだ。


「よし。じゃぁ、この6人と1匹でメンバー登録をする。

 終わったら午後にはさっそく迷宮に入るからな」


カトレアは『花鳥風月』の子チームに声をかける。

他のメンバーはもう紹介済だ。

従魔師のコノハが最後だった。

カトレアはキョウゲツからリーダーを引き受けて、即座にメンバーを呼び出したのだ。


「ええぇ、今日からかよ」


悲鳴を上げたのは『花鳥風月』古参メンバーの魔術師だ。


「もちろん。

 一緒に戦ってみなきゃ何もわかんねーからな」







「まだ、続くの?

 無限回廊?」


ショウマはずっと通路を歩いている。

出てくるのはガイコツだけだ。

ショウマが音を上げないのはケロ子が戦っているのを見るのが楽しみだからだ。

ショウマは魔法を使わず出来るだけケロ子にまかせている。

ケロ子が戦闘を経験したがっているのだ。


ケロ子は強かった。

一撃のストレートでガイコツを粉砕する。

キックも同様だ。

身体の柔らかいケロ子は足が高く上がる。

狙った箇所に自由自在に蹴りを当てるのだ。

ガイコツがたくさん出てきたらショウマも参戦するつもりだ。

が、今のところ観戦一方だ。

ミニスカチアガール姿のケロ子。

彼女がハイキックを決めるのである。

そんなシーンをショウマが見逃すワケにいかない。


「迷宮探索の前に服を買っておいて本当に良かった

 写メ取っておきたい。

 インスタに上げられないかな」


やっぱり、下着も必要だね

ミニスカからたまに覗く魅惑の物体

それが今の綿パンでは『いいね』がつかないよ

明日はあの爬虫人の店に行って高級下着買おう

ショウマは一つ目標が出来た。

目標を持つっていい事だよね


 


「あっ、道が分かれてますっ」

「やっと?

 一本道に飽きてたんだ」


ショウマは分岐点から左右を見回す。


「どっちにしよう?」

「何かありますっ」


ケロ子が左の道に駆けだし、何かを拾い上げる。


「カギですっ、ショウマさま。

 カギ落ちてましたっ」

「お手柄だよ、ケロ子。

 普通に考えたらどこかの扉か、

 はたまた宝箱の鍵?」


そのままショウマとケロ子は何の気なしに左の道を進む。





………

“屍食鬼”は観察していた。

彼らが思い描いた通りの行動だ。

「…グッグッグ…」

久々の生肉を味わう。

そして2,3日おいた腐りかけの肉!。

喜びに震える彼ら。

だが、一体がニンゲンを指さす。

「グッ グッ グッ」

下半身を動かして見せる。

生殖行動の動きだ。

改めて彼らは二体のニンゲンを見る。

ニオイを嗅ぐ。

一体はメスなのだ!

少し前に捉えていたメスは死んでしまった。

まだ三体しか子供を産んでいないのに。

よし。

あのメスには子供を産んでもらわなければいけない。

三体では足りない。

十体も二十体も子供を産んでもらうのだ。

メスは殺さずに捕まえなければいけない。

オスは殺す。

その肉を食べさせメスに栄養を与えるのだ。






“飛び廻るコイン”だ。

銅貨が数枚宙を飛んでいるのである。

コノハと新入りの戦士が驚きの声を上げる。


「お金が飛んでる?」

「何だ! こりゃ」


「一番のザコだよ」

カトレアは答える。


カトレアのチームはすでに迷宮入りしている。

『花鳥風月』から弓戦士のカトレア、魔術師と剣戦士、槍戦士の4人。

新入りの戦士と従魔師の2人、“妖狐”のタマモの6人と1体だ。


コノハは予想もしなかった敵に呆然とする。

コノハが以前居た場所にはこんな魔獣はいなかった。


「ビビってんじゃないよ

 切ってみせな!」


リーダーと名乗った女戦士カトレアが指示を出す。

コノハと一緒に入った新人の戦士が剣を振るってる。

彼も驚いてるらしい、おっかなびっくりといった風情だ。


「ハッ」


戦士に切られたコインが地面に落ちる。

まだ飛び廻っているコインが戦士に体当たりしてる。

戦士は驚いてるけどダメージは無さそうだ。

彼は革鎧を着てるし、銅貨が当たっただけなのだ。

ヒュッ

矢音がしてまた1枚コインが落ちる。

カトレアさんの弓だ。

残りを新人の戦士が切る。

いいところを見せたいのか、今度はへっぴり腰じゃない。

剣士としてサマになってる。

戦闘が終わると地面に数枚の銅貨が残ってた。


「えへへー、

 動かなくなりましたね」

「ま、驚かされるだけでケガもしない相手さ。

 防具を装備してないようなバカでもなきゃね」


素肌にコインをぶつけられたらそれなりに痛いだろう。

コノハも応える。


「地下迷宮に行くのに防具を装備しない人なんていませんよ。

 えへへ」


そんなバカが現在地下2階に居るとは予想もしないコノハとカトレアだ。




「扉ですっ、ショウマさま」


分かれ道から左に進んだショウマとケロ子はすぐに扉にぶつかった。

通路の行きどまりだ。

左右は壁で扉を開ける以外の進む道は無い。

扉の先が部屋なのか、はたまた通路が続いてるのか予想しようもない。


「ひょっとしてコレ?

 単純すぎない?」


さきほどケロ子が拾ったカギを取り出すショウマ。

扉のカギ穴に差し込んでみる。

ハマるみたいだ。


「ホントウに?

 ウソくさくない?

 でも初めてカギのかかった場所が出てきたのか。

 ならこのくらい単純でもアリ?」


ブツブツ言いながら扉を開けるショウマ。

中は暗い空間だった。

『明かり』が照らしても果てが見えない。


「広いですっ。

 でもここも臭いですっ」


「確かに臭いがさらにキツイね」


広い空間にも関わらず腐臭が充満している。

扉の中にショウマもケロ子も入る。


ガタンと音がした。

ショウマが振り返ると扉が閉まっている。


「うわ、閉じ込められた?

 監禁された?

 女子高生監禁事件?」


ケロ子が扉を開けようとするが、ビクともしない。


「ダメですっ、ショウマさまっ!」

「うー、やられた。

 定番に引っかかった。

 仕方ない。

 先に進もう。

 抜け道か、扉を開ける方法が何処かに有るよ」



『あーかーりー』


ショウマが唱える。

通常より大きな光で空間を照らすつもりだ。


そこは大きな室内だった。

初めて光で照らされた空間。

そこは充満していた!

ナニで?

アンデッドで!


“歩く骸骨”がいる。

大量にいる。

今まで遭遇したのは3体が上限だ。

ショウマは3体までしか出ない敵だなと思ってた。

大間違いだった。

数えきれない骨が歩き廻っている。

“動めく死体”がいる。

骸骨ではない。

まだ人間の形状を留めた死体だ。

一歩歩くたびに腐った液体が零れ落ちていく。

“骸骨犬”がいる。

人間ではない。

犬の死体が、骨が動き廻っているのだ。

身体からはウジが沸き、蠅が飛び廻っている。

その蠅の動きに反応し“骸骨犬”がまた動く。

それらの死体が、

白骨が無数に存在してる。

数十のいや数百の骨が蠢いている。



「!」

「ゾンビ映画?」

「ショウマさまっ」


「グロい!

 臭い!

 そりゃ臭いよ」


「ケロ子、避けてて。

 大きいの行くよ」


ショウマは唱える。

ケロ子の戦闘経験値は一端置いておこう。

こんなのに襲われたらコワイし、服も汚れる。

衣装を汚されるのは無しだ。



『舞い踊る業火』



炎の柱が立ち昇る。

ショウマの前から前方へと。

炎の柱が立ち昇る。

全てを燃やし尽くす。

腐った肉が、汚れた骨が炎に浄化されていく。



「やった。

 さすがショウマさまっ」


炎が消えたのを確認してケロ子は前に進み出る。

あんなにいたアンデッドがもういない。

後には燃えカスと骨だけだ。

まだ動く敵が残っていないかケロ子は骨を踏んで回る。


『LVが上がった』

『ショウマは冒険者LVがLV13からLV14になった』

『ケロコは冒険者LVがLV3からLV6になった』


「やりましたっ。

 ケロ子、れべるが上がりましたっ。

 ショウマさま?」


ケロ子が振り返るとショウマが居ない。

『賢者の杖』が落ちている。

何故か扉が開いている…






カトレアたちは戦っている。

“狂暴鼠”だ。

あんまり遭遇したい魔獣じゃない。

素肌を齧られると後で腫れ上がるのだ。

死ぬような毒ではないが、数日は痛む。

ドロップする『ネズミの歯』を持っていけば組合が買い取ってくれるが、たったの5Gだ。

依頼を達成した扱いにもしてもらえない。


カトレアの得意とする弓矢は鼠には向いていない。

どうせなら“吸血蝙蝠”がいい。

弓矢で特攻ダメージが入る。

“吸血蝙蝠”なら組合で『蝙蝠の牙』が10Gで買い取ってもらえる。

ついでに依頼達成扱いしてもらえるのである。



新入りの戦士はまあまあだ。

迷宮に慣れていないので文句が多いが、剣の腕は確かだしスタミナも有る。

辺境で警備の仕事をしていたと言っていた。

慣れれば1人前になれるだろう。

問題は従魔師のコノハだ。

まだほとんど戦っていないのに、歩くだけで息が上がっている。


「ネズミなら狐の出番だろ」


「! 

 はいっ。

 タマモ!

 お願いです!」


コノハに促され見物していた“妖狐”が正面に進む。


「クゥオーーン」


タマモが遠吠えのような雄叫びを放つとネズミは動かなくなっていた。

さっきまでチョロチョロ走り回っていたのが嘘のようだ。

タマモは止まったネズミを爪で切り裂きトドメを刺していく。

全てのネズミを倒すと、カトレアを睨みつける。

「つまんない事させんじゃねーよ」という視線だ。


「えへへ。

 タマモの必殺技です」

「遠吠えでマヒを起こさせるのか。

 こりゃ使えるぜ」


チームメンバーが口々に言う。


「フーン、

 マヒはどんな相手でも効くのかい?」

「えへへ。

 動物相手なら大体効きます。

 けど失敗する事も有ります。

 タマモより体の大きい相手はかかりにくいみたいです」


「コノハは『野獣の森』近くで育ったんだったね」


『野獣の森』は『地下迷宮』『不思議の島』と合わせて三大迷宮だ。

現在人間が入る事の出来るダンジョンはこの3つだけと言われている。


「はい、先月まで。

 『野獣の森』を本格的に探索したわけじゃないんですよ。

 あそこは『地下迷宮』と違って森から魔獣が溢れて出てきちゃうんです。

 そんな魔獣をやっつけていました」


「ならアンデッドと戦った事は無いか?」

「アンデッド…

 死体ですか?

 えへへー。

 見たことありません」


「アンデッドにも効くようなら2階に降りてもいいかもね」

「カトレア、急ぎ過ぎだ」

「いくら何でも地下迷宮初心者だぞ」


「2階がダメなら3階でどうだ?」

「一緒だよ!」

「3階に行くには2階通るだろ!」


「分かってるよ。

 冗談だよ、冗談」

「いや本気だっただろ」




【次回予告】

ケロ子がケロ子になる前。彼女は冷たい水の中にいた。

モノクロの世界。近くには同類もいっぱいいた。

でも家族じゃない。仲間でも無い。近くにいるだけの競争相手だ。

ぼんやりとした夢の中のようなうす暗い記憶だ。

「ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま

 ショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさまショウマさま」

次回、従魔の少女が駆ける。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る