第11話 三日目その2
「アタシ、階段降りるの初めてですっ」
「地下2階がどうなってるか、分からない。
気を付けるんだよ」
ショウマとケロ子は進む。
例によって、地下2階の情報を聞き込むといった行動は一切していないショウマである。
もっとも普通の冒険者も1階や2階の情報交換はあまりしない。
語ってもグチくらいだ。
初心者への説明で1階の情報は教えられるし、2階に関しても触れられるのだ。
キキョウ主任ならこう説明している。
「2階はアンデッドの巣窟です。
アンデッドに傷を受けて、残り体力が著しく減ると自身がアンデッド化する現象が報告されています。
残り体力に気を付けて、回復薬は必ず持って行ってください」
もちろんショウマは薬を持っていなかった。
ケロ子は一応担ぎ袋を持ってきている。
中身は食料と水筒だ。
タオルと着替えも有る。
ケロ子の現在の服装はチアガール風衣装だ。
ショウマのリクエストである。
動きやすいからいいか、とケロ子も納得している。
ただし戦闘での汚れが心配なケロ子である。
衣料用洗剤も袋に入れている。
ちゃんと考えるし、気が付くケロ子だ。
ただ彼女に薬が必需品だよと教える人がいないのである。
「なんだか変なニオイがしますっ」
「うわぁ。
なんの嫌がらせ?
ファブリーズ持って来ればよかった」
2階は血と腐臭が充満している空間だった。
石で出来ている通路、石のカベ、人間二人が横並び出来るかどうか位のせまい通路をショウマは進む。
『明かり』
足元が見えないのでショウマがもう一つ光の玉を出す。
「ショウマさまっ。あの大きい光は止めたんですかっ」
「あれ、なんか大きくてジャマ。
二つ出しておけばいいよ」
女冒険者・カトレアは呼び出されていた。
『花鳥風月』のリーダー・キョウゲツにだ。
「チームを複数編成にするつもりでござる。
カトレア殿には小隊のリーダーをまかせたいでござる」
「人員を増やすのかい?」
副リーダーのガンテツが答える。
「入隊希望者は前からいたんだ。
その中から選んだ候補が4人。
キョウゲツとカトレアの2チームに分かれ、一週間迷宮に入る。
問題が無ければ正式加入にする」
「うまいこと言ってアタシにヒヨッコの面倒を押し付けるつもりじゃないだろうね」
「チームメンバー5人、新人2人の割り振りで2チームだよ」
「拙者は正直 新人の教育は向いていないでござる
カトレア殿の方が適役と考えるが如何に」
キョウゲツは凄腕の侍剣士だ。
その戦闘能力は誰も疑わないが、チームの人間関係や収支などを仕切っているのはガンテツの方だ。
「1001位に落ちたのが原因かい?」
「そうだよ。
ムカツクじゃねぇか。
俺より後輩なのに上に行ってるヤツらもいるんだ」
「どうも頭数でなんとかするってのはウチは好かないんだけどね」
「拙者もそうだ。
しかし『花鳥風月』が行き詰っているのも事実」
冒険者チームの上限は10人だ。
現在『花鳥風月』の構成員は10人。
上限一杯だ。
ここでチームメンバーの一人であるカトレアがリーダーとなってもう一つチームを作る。
子チームである。
仮に『花鳥月露』としよう。
『花鳥風月』『花鳥月露』がそれぞれ同じくらいのの功績を上げたとする。
その時順位は同じになるかと言うとならない。
ランク順位上、必ず親チーム『花鳥風月』が『花鳥月露』の上に来るのだ。
これは子チームのリーダーが親チームのメンバーになる時だけである。
おそらく、リーダーに対して数えられる功績値が高い。
そして、それが親チームに反映される。
あくまで冒険者内でそのように言われているのであって、真実とは誰にも言えない。
しかし長年そのように信じられているのである。
これを利用して子チームを複数作り、更にその子チームのメンバーが孫チームを作る事も可能だ。
通常の冒険者チームでは孫チームまで作っている集団はなかなかいない。
有名なのは宗教集団である。
母なる海の女神教団は『聖女』と呼ばれる女性エンジュを頂点とし、数千人で構成する大チームを作りあげている。
王国、帝国も自国の王子、皇子を筆頭に似たような事をしている。
それによって自国民の信頼、忠誠心を手に入れている訳だ。
冒険者ランキングは国を越えてウワサになる。
10位以内に入ればその冒険者の知名度はケタ違いなのだ。
そして自国の王子が、聖女がランキングに入れば国が活気づく。
自国民が喜び、忠誠度が上がる。
現在チームランキングのトップ3はほとんど確定している。
1位は『聖女』エンジュ、バックアップしているのは『母なる海の女神教団』だ
2位のチームリーダーはレオン、西方神聖王国の王子だ。
3位はバルトロマイ、南方に権勢を誇る帝国の皇子の一人だ。
2位と3位は週によっては入れ替わるが、それ以外のチームが3位以内に入ってくることは殆ど無い。
10位以内のチームはその全てが国かなにかしらの組織がバックアップしているチームだ。
純粋な冒険者集団では有名であってもそこまでの規模は難しい。
組織運営を仕切れないのだ。
また高ランクで有名な冒険者集団や個人は国に取り込まれる事が多い。
自国を有名にしたい国が冒険者をスカウトするのだ。
『花鳥風月』は今まで10人、1チームだけでやってきた。
カトレア自身はあまり仲間が増えるのは歓迎していない。
しかし1000位以上の規模になると複数編成をしている集団も多い。
冒険者としての実力で負けているなら仕方ない。
けど実力では『花鳥風月』より下の集団がランクで上になってるのはむかつく。
ガンテツの話はカトレアだって分かる。
「一人、注意して欲しい新人がいるんだ」
カトレアは来たなと思った。
本来こんな話は副リーダーのガンテツがやるモノだ。
ガンテツが避けた理由が有るのだ。
「候補の一人は従魔師でござる」
「珍しいね。
アタシは冒険者になって5年以上だけど、従魔師と組んだことは一度もないよ」
「俺もだ。
どう育てればいいのか、勝手が分からん」
「そんなの…アタシだってそうだよ」
「カトレア殿は猟師の娘。
拙者たちよりは動物の事に詳しいであろう」
「…従魔を見たのかい?」
「ああ、狐だ。
二つ尾が有った大型のヤツだ。
カトレアは犬を飼った事あんだろ」
「犬と狐は違うよ。
だいたい従魔だろ。
野生の動物と一緒には出来ない」
「何にしても、拙者たちよりは詳しい。
それに、従魔師は女なのだ。
まだ成人したての若い女子でござる」
「ああ…
アンタら本当に女苦手だね」
「違う。
俺は女好きだ」
ガンテツが応じる。
それから自分の顔を指さして続ける。
「しかし、こんな見た目だろ。
若いねーちゃんには怖がられるんだ」
確かにガンテツの顔は元が厳つい上に傷だらけだ。
キョウゲツはそっぽを向いている。
こいつはクールな見た目で顔もいいのに、女が苦手なのだ。
「わかった、わかった。
このホモコンビ」
「ホモじゃねぇ!」
「ホモじゃないでござる!」
「リーダーと副リーダーに言われちゃ断れないね。
仕方ない。
ウチがやるさ」
「カトレア、
従魔師の事は良く分からん事が多い。
しかし通常の冒険者では出来ない事が出来る。
金の卵かもしれない。
大切に扱ってやってくれ」
「金に育てるって保証は出来ないよ」
「わわっ。
ホラー?
ハロウィンメイク?」
「ガイコツさんが襲ってきますっ」
ショウマの前に立ちふさがったのは“歩く骸骨”だ。
着ぐるみにガイコツを描いたんじゃ無いくらいは迷宮の暗がりでもすぐわかる。
骨が襲ってくるのである。
普通の冒険者なら1階でアンデッドと戦った経験が有る。
地下迷宮の入り口から左回廊に行っても、右回廊に行っても“歩く骸骨”は出没する。
だがショウマはどちらも完全スルーしていた。
ガイコツは二体居た。
「グロい!
そりゃ臭いよ」
絵にかいたような白骨じゃないのだ。
人間の死体から肉体が腐りはて骨だけが残ったもの、それが骸骨だ。
骨の間には血や肉体のカスがこびり付き、汚れ切った服の切れ端が付いていたりする。
「お風呂入って出直してきて~」
ショウマは逃げ腰だ。
近寄りたくないなという態度が全開である。
「ショウマさまに近づくなっ」
ケロ子はガイコツに怯えない。
クサイな~くらいは思うが、主さまに害を為す物は許せない。
「シュッ シュッ」
足でステップしながら“歩く骸骨”にジャブからのストレートを喰らわせる。
いわゆるワンツーパンチだ。
一体の“歩く骸骨”はそれだけで粉砕された。
崩れ落ちる骨からもう一体に標的を変えるケロ子。
「キーック」
今度は飛び蹴りを食わせる。
普通の敵なら躱すような大きなモーションの攻撃だ。
が、“歩く骸骨”はアンデッドだ。
アンデッドはだいたい動作が鈍い。
ケロ子の左キックをモロに喰らう“歩く骸骨”。
ケロ子が着地すると同時に骨が崩れ落ちていく。
『LVが上がった』
『ケロコは冒険者LVがLV2からLV3になった』
「やりましたっ ショウマさまっ。
ケロコだけで初めて敵を倒しましたっ」
「良くやったよ、ケロ子。
武器も持ってないのに。
というか、もしかしてケロ子格闘系?
ジョシカク?」
「はいっ
ケロコ、ジョシカクですっ」
意味は分かってないけど同意するケロ子であった。
………
“屍食鬼”と書いてグールと読む。
アンデッドと同じエリアに出没するため、アンデッドと混同されたりもするが彼らは違う。
読んで字のごとく屍を喰らう者なのだ。
地下2階に“動めく死体”が少なく“歩く骸骨”が多いのはそのためだ。
彼らが死体の肉を喰らって骸骨にしてしまうのである。
彼らはすばしこい。
動作の鈍いアンデッドに反撃される可能性は少ない。
それでも用心のため、単独では行動しない。
複数で行動する。
彼らは今偵察している。
彼らの一人が声を聞きつけたのだ。
普通死体は声を出さない。
「ケロ子、
まだ通路が続いてるの?」
「はいっ。
ずっと一本道ですっ」
「そろそろ休もうか~。
僕もう疲れたよ」
「10分前にも休憩したばかりですっ。
ショウマさま、
広いところに出たら次の休憩って言ってましたっ」
彼らは声を出す者を観察する。
ニンゲンだ。
生きている。
二体しかいない。
彼らが食べるのは主に死肉だ。
が、たまには生肉もいい。
生肉を2.3日置いておいて腐りかけになって食べるのはもっといい。
彼らのうちの1体がカギを取り出す。
あのニンゲンの前に廻るのだ。
そして分かれ目に置いておく。
あの通路はしばらく行くと左右に分かれる。
右は3階へ降りる階段に続く。
左は…
【次回予告】
『地下迷宮』『野獣の森』『不思議の島』
人は三大迷宮と呼ぶ。
現在人が辿り着く事の出来るダンジョンはこの3つだけなのだ。
だがしかし…
「やりましたっ。ケロ子、れべるが上がりましたっ。ショウマさま?」」
次回、振り返ると『賢者の杖』が落ちている。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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