第8話  二日目その2


「これが迷宮の外っ。

 初めて来ましたっ。

 ワタシ産まれたばかりでなんでも初めてですっ」


地下迷宮を出たショウマと従魔のケロ子。

ケロ子はキョロキョロと辺りを見回してる。

ショウマも迷宮内から迷宮都市に出たのは初めてだ。

手続きとか何もいらないのかな~

見張りの男の様子をうかがう。


「アレ、お前もしかして」


「何? 何? 

 注目されてる?

 見ないで!

 減るから、寿命が減るから!」

 

ショウマの顔をジロジロ見てくる見張りの男。

いかにも戦闘のプロですよという外見の人間が他にも集まって来る。

廻れ右して逃げそうになるショウマ。


「無事だったのか?」

「キキョウさんが気にしてたぜ。

 組合の受付に顔を出してやれよ」


「はい。

 組合行こうと思ってたんです。

 行きます。

 もちろんです」


適当そのものの返事だ。

口々に言われても、ショウマにはキキョウが誰か分かってない。

その場を逃げるショウマである。


「はぁ、ビックリした。

 ケロ子の事が怪しまれたんじゃなくて良かったよ」


考えてみたらケロ子は冒険者証を持っていない。

持っていないのにダンジョンから出てくるのは不自然だ。

見張りの男達がショウマだけに気を取られていて良かった。


「ショウマさまっ。

 受付というところに行くんですかっ?」

「そうだね。

 ケロ子の冒険者証を作らなきゃ」





「アヤメ、機嫌いいじゃないか」

「カトレアさん。今日は陳情がまだ来てないんです」


ここは冒険者組合の受付。

カトレアは若手の女冒険者だ。

受付嬢のアヤメとそう年は離れていないのに実力を認められている。

迷宮都市でも中堅クラスのチーム『花鳥風月』の一員なのだ。


「アヤメ。湖のバケモノがいなくなったって話、聞いたか?」

「えっ。“巨大猛毒蟇蛙”が! 本当ですか」


「組合にはまだ話が行ってないのか~。

 じゃあまだ怪しいウワサだね」


冒険者同士のウワサは早い。

すでに湖にいた巨大魔獣がいなくなったという話をカトレアは聞きつけていた。


「ウチのチームも地下にいかなきゃイケナイんだ。

 さっそくこれから行こうと思ってたんだけど」

「誰か退治したんでしょうか?」


「イヤ、そんな話は聞かないよ。

 もしもウチが倒したなら得意満面自慢してるね。

 依頼が滞っていたチーム全員に一杯奢らせてる」

「そうですね。

 組合からも金一封くらいは出ますし、

 報告無いってことは倒したんじゃ無いですね」


「仕方ない。

 ウチは行くよ。

 本当にバケモノがいなければ儲けものだよ。

 今日、下層に行けないとチーム順位がどうなるか分からない。

 気合を入れないとね」

「はい。 

 頑張ってください」


明日は週明け、冒険者チームの順位が発表される日なのだ。

1000位というのは結構スゴイ。


冒険者が全部で何チームかアヤメには分からない。

ウワサでは数万とも数十万とも言われてる。

チーム全体の功績で測った順位なのでカトレア一人の力では無いけれど、1000位以内に入っているチームに参加しているだけでもスゴイことだ。

世界中のあらゆる冒険者が競争相手なのだ。

カトレアの所属するチーム・『花鳥風月』は1000位以内の常連だ。

しかしそんな『花鳥風月』も今週は地下迷宮の下層に行けていないので功績が稼げていない。

地下迷宮の探索を主にしている冒険者なら条件は同じだが、他の迷宮にだって冒険者はいる。

1000位以内と1001位以下では送られる褒賞が大きく違う。

なんとか挽回すべくカトレアは必死だ。



「わわっ。

 マズイ、マズイ」

「ショウマさまっ、受付行かないんですか?」


「後でね、後でね。

 ケロ子先に街を見に行って買い物しよう。

 急いで、急いで!」



ショウマとケロ子は街の中心部に辿り着いた。

街の中心は商店街だ。

商店や食堂が立ち並び、行き交う人も多い。

普通の人間じゃない外見の者もいる。

猫耳、蜥蜴人間、角の有る者などだ。

ショウマは内心ホッとする。


「亜人がけっこう居るね。

 これならケロ子も目立たないな。

 角生えてる人が居るよ!

 何人なんだろ」


「わわっ。ショウマさま、あれは何ですか?」


ケロ子は初めて見る物ばかりで先ほどから興奮している。

屋台を見ては跳ねて、雑貨屋を見てはぴょんぴょん跳ねている。

カワイイ。


「あれは防具屋、表に飾ってるのは鉄鎧だね。

 なになに。

 『鉄鎧 一式 12000G』

 一式は鎧、兜、小手がセットになってるって事かな」


高いのかな?

さっき果物が1個:1Gだった。

鉄の鎧…通販だと120万円くらい?

1G=およそ100円てとこ?


値札を見て相場を覚えて行かないと

そう考えると先にメモ帳欲しいな



「ショウマさま。

 字が読めるんですね。すごいですっ」

「村に有った教会で覚えたんだ」


「すごいですっ」

「教会と言っても、ボロ小屋だったけど」


村には教会と呼ばれる建物が有ったけど実際には集会場みたいな物だった。

そこにいた神父の持っていた本をショウマは勝手に読んで覚えたのだ。


「あっ」


思い出してしまった。


「ショウマのくせに生意気だぞ」


ショウマが読み書きできると知った時の家族の反応。

父親も母親も喜んだ。

だがイジメられたのだ。

あの女に。


「どうかしましたか?

 ショウマさま」

「いや、何でもないよ。

 ケロ子、まず雑貨屋に行こう」




「いらっしゃいまーせ」


何故かショウマとケロ子は服屋にいる。

だって服屋の表に飾って有ったのだ。

ミニスカが。


「入らないワケに行かないよね」

「そうですよねっ、ショウマさま」


全然分かってないけど同意するケロ子。


「あーら、お初のお客様なーの。」

「いた! なんかスゴイのいた!」


出てきた店員はカラフルだった。

肌の色が緑と黄色が混じり、さらに青のラメが煌めいている。

トカゲに変にキラキラしたのがいるだろう。

あんなカンジだ。


「蜥蜴人間? カメレオン?」

「ワターシ? 蜥蜴人間とカメレオンの混血なんだけど、蛇人間やら他にも混じってるーのよ」


店員は男だ。

男だろう。

男かな。

口調はともかくガッチリした体格、胸も無いし外見は男性だ。


「混血?

 亜人の混血。そんなの居るんだ」

「居るわよ~。この街では珍しくない~わ」


ショウマの村では亜人自体住んでいなかった。

旅の人間が通っていく中に蜥蜴人間や、犬人間を見かけるだけだ。


「ここは各地からいろんな人種が迷宮目指してやってくるわ~。

 昔から亜人も多いし、亜人の娼婦も居るわよ。

 混血も生まれるわ~」


「娼婦! 亜人の娼婦!

 ウサ耳少女がHしてくれたりするの!

 それなんてバニーガール?」

 

「…ショウマさま…」


見るとケロ子がむくれてる。

ほっぺがちょっと膨れてるのだ。

カワイイ。


「ケロ子、聞いてみただけだよ。

 娼婦のところに行ったりしないよ」


「性病も怖いしね」という言葉は口にしない。

たまには口に出す言葉をコントロール出来るショウマである。


「ケロコちゃんて言うのね。

 カワイイわ~。

 あなたにピッタリの服が有るわ~」


店員が出してきたのは赤と白の動きやすそうでキレイ服だ。


「キター! キタキタ! チアコスキター!」


白を基調としたシャツにヒダのついたミニスカート、赤のラインが入っている。

確かにチアガール風だ。


「でもワタシ、戦闘に使える服が欲しいんですっ。

 ショウマさまのお役に立たないと」


「ケロ子、ここは防具屋さんじゃないんだ。

 それは後で武器屋も調べよう。

 それはそれとして、この服いいよ。

 買おうよ。

 バトンかハイソックスが有るとモット良いよ」

「ハイソックス! その組み合わせ良いわね~」


店員ものってくる。


ここに常識ある人間がいたら切れていたであろう。


「チアコスチュームの前に! 食料!武器!薬!

 予算は! 手持ちの金を確認すらしてねーだろ!!」


残念ながら周りにはツッコミ役が誰もいない。



結局チアガール風衣装とケロ子の肌着数着、ショウマの分も肌着と日常的な服を数着買う事にした。

ショウマは店の奥に見える下着も気になっていた。

色とりどりのスキャンティにブラ。

男子禁制の魅惑のエリアだ。


「どうしよう。

 ケロ子には何色が合うの?

 やっぱりピンク、青、アダルティに黒も一度は…」

「ショウマさまっ、恥ずかしいですっ」


しかし値段が他の商品とケタが違っていた。

買おうとしてる肌着は10G前後だ。

チアコスも上下セットで80G。

下着は300G以上していた。


「こ 高級下着!」


「その辺は娼婦のお姉さま方のよ。

 素材も絹の上物だ~し、値段も相応にね…」

「そうか。そういう需要…」



購入の段になってさすがにショウマも気になってくる。

お金だ。

今ショウマが持っているのは 金貨1枚と銅貨がたくさん。

銅貨は数えようとしたけれど止めた。

3枚しか数えないで止めた。


「およそ100枚だよ。

 後はお店の人が数えてくれるよ」


ショウマは3以上数えられないのだ。



「全部で185Gね。

 冒険者さんよね。

 冒険者証見せてもらえ~る。

 階級:ラビットだから5%割引ね。

 176Gですわよ~ん」


「冒険者割引!

 なにそれ?

 特別扱い? 株主優待? シルバー割引?」 

 

「この街は冒険者のための街だもの

 ほとんどのお店でやってるわ~よ

 階級で割引率違うの~」

「なんだよ。

 組合に入った時、全然聞いてないよ。

 そういう事はちゃんと教えてよ」


冒険者組合にいた受付の娘の顔をショウマは思い出す。

名札は見ておいたのだ。

たしか アヤメ だった。


「ええと、金貨で大丈夫かな」


ショウマはおそるおそる金貨を取り出す。

口調の独特な店員は普通に受け取った。


「は~い。

 お釣りは紙幣でいいかしら?」


「あ、うん。

 紙幣じゃイヤだって人居るの?」


「金貨、銀貨しか信じない人まだ居るのよーね。

 自分がガンコな年寄りって言ってるようなもんじゃなーい。

 やーね年寄りって」


ショウマは銅貨=1Gかなと予想は立てていた。

銀貨=100G

金貨=10000G

であって欲しい。

お釣りがくる。


銀貨=10G

金貨=100G

だったら会計に足りない。

銅貨をありったけ渡せば何とかなるだろう。


さて結論は。


店員の出してきたお釣りは『1000G』と書いてある紙幣が9枚、『10G』紙幣が2枚、銀貨8枚、銅貨が4枚だった。

10000G-176G=9824G


金貨=10000G、銀貨=100G、銅貨=1Gだ。

ついでに紙幣は1000Gと10Gが有るらしい。


オッケー

これで余裕で下着も買える

後でもう一回来て、ケロ子に内緒でいろいろ買おう


「にしてもこのお店だけお洒落だよね」

「はいっ。売ってる服どれも可愛いですっ」 


ショウマはいくつかお店を覗いていたが、どこも作業着みたいな服しか売っていなかった。

たまに女性向けドレスが有っても 女性の服に疎いショウマから見ても野暮ったいモノだった。


「ウチは日常的な服をオシャレなものにしていくのがコンセプトなーの

 今までは娼婦のお客様が中心だったけど、

 値段を抑え目にした既製服を増やして徐々に一般のお客様にも広まってるわ~

 店の名は ミッシェルガンヒポポタマスよ。

 覚えておいてーね」


「あ、じゃあエプロン無いかな

 可愛いヤツ」

「エプロン、お料理に使う?

 考えたこと無かったーわ

 でもそれイケそう。

 家の中で使うモノもカワイクしたい女性客は必ず居る~わ」


「アタシ、ここのデザインもやってるのよん。

 そのアイデアいただいたわ。

 また来てね。

 とびっきりカワイイエプロン作っておくわーん」


ショウマとケロ子は服屋から出て、公園で軽い昼飯を食べる。

屋台で買った串焼きと軽食だ。

所持金に余裕が有る事は分かった。

9824Gに加えて1G銅貨がたくさん。

1G:100円が合ってるとするならおよそ98万円である。

しかしショウマはこの辺の食事処を知らない。

メニューの名前も分からないし、屋台で指さすのが簡単だ。



「美味しい! 鳥の串焼、美味しいですっ。

 鶏肉買って作ってみたいです」


「今夜は焼き鳥かぁ、いいね。

 んじゃ冒険者組合行って、ケロ子の冒険者証パッと作ったら食材の買い出しだね」

 





「アヤメ~。

 初心者の子、説明お願い」

「え、ワタシ?」


「今度はアヤメがやるって聞いてるよ」


アヤメは昼休憩から帰った途端同僚の娘に言われた。

同じ冒険者組合の受付の娘だ。

アヤメはまだ一人で初心者説明をしたことが無い。

次の機会が有ったらやるようにキキョウ主任に言われていたのだ。


「でも今日キキョウ主任お休みだし」

「だからアヤメがやるんじゃない。

 じゃ、まかせたわよ」


アヤメは同僚が連れてきた新人冒険者を気付かれない様に観察する。

女の子だ。

目を見開いてこっちを見てる。

カワイイし、性格も良さそうだ。

良かった。

説明しやすそう。


「じゃあこっちに来て。

 説明するわ」

「はっはい。お願いしますっ」


「ふ~ん。

 アヤメさんじゃない。

 キミで大丈夫なの」

「なっなんですか? 

 ワタシは初心者のこの娘に説明を」


「僕も初心者だよ。

 昨日組合に入ったばかり。

 その割には僕は何の説明も受けてないよ。

 これなんて差別?」

 

何故か女の子の後にもう一人男の人が付いてきた。

もちろんショウマである。 

 



【次回予告】

『階級社会』とは。

社会の成員が二つ以上の階級に分かれ、その間に支配と服従、または対立の関係が存在する社会である。

「クラス:アローエイプのカトレアってもんだ。

 アヤメちゃんに文句着けるんならウチが相手になるぜ」

次回、自由を求め、冒険者になった者さえも階級で縛られるのか。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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