65. 待ち人
「おかしい」
会場に向かう人通りも少なくなってきて、さすがのユアンも不安になる。
「まさか、僕振られたんじゃ」
あの生徒会主催の放送のせいで、生徒たちにかけられた闇魔法は効力を失ったが、それと同時に放送を聞いた生徒たちが「心が穏やかになる」「心が洗われる」など天使の美声の持ち主として、メアリーを一躍人気者に押し上げた。
一部の生徒からは聖女とまで言われている。
そんな有名人になってしまったメアリーだ、今回のダンスパーティーでもエスコート希望者が大勢押し掛けたことは言うまでもない。
しかし首をブンブンと横に振り恐ろしい考えを打ち払う。
「メアリーはちゃんと『よろしくお願いします』と僕に言った」
ユアンが勇気を振り絞りメアリーにダンスパーティーのエスコートをさせて欲しいと頼んだ時、初めは驚いたような表情をしたがすぐに照れたように頬を染め。「よろしくお願いします」とほほ笑を返してくれたのだ。
「何かあったのかな。急な腹痛とか……」
良からぬ想像が頭をよぎる。
「ユアン様!」
その時声をかけられ急いで振り返る。しかしそこにはユアンの求めていた姿はなかった。
「ユアン様、メアリーといっしょじゃないのですか?」
そこに立っていたのはローズマリーとレイモンドだった。そして、ローズマリーが気づかわし気な表情でそう問いかけた。
「いや、僕も待っているんですが」
その言葉にローズマリーの表情が強張る。
「メアリーは私より先にこちらに向かったはずですわ」
どうやら今回メアリーとローズマリーは一緒にドレスを作り、その着付けもローズマリーのメイドたちに手伝ってもらったらしいのだ。
「私はレイモンドと一緒に挨拶などありましたから、メアリーは学園の門で分かれたのですが──」
その言葉の意味することに思い至り、さっとユアンの顔から血の気が引く。
「じゃあ、メアリーは」
待ち合わせ場所を間違えた?勘違いして先に会場に入っている?そんなことを考えたが、ユアンは待ち合わせ時間のだいぶ前からここにいる、そして会場に入るには必ずここの前を通らなくてはならないはずなのだ。
場所を間違えたにしても、学園の門からここまでは園庭に沿って一本道である、その道を通っていまローズマリーたちは来たのだ、途中違うところで待っていたらメアリーに気が付くはずだ。
ならば考えられることはこの道とは全く違う道で待っているということだ、しかしそんな間違えいくら天然とはいえ有り得るだろうか。
レイモンドが闇に向かって何かを合図すると、どこからともなく数人の男たちが現れた。
「メアリー・ベーカー嬢を探せ」
一言命令すると男は出てきた時と同じように音もなく消えた。
「とりあえず、一度会場に入ってみましょう」
ローズマリーがユアンを促す。
「そうですね。メアリーさんのことだからうっかり中で待っているのかも」
無理やり笑って見せたが、その声音は震えていた。
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