20. 魔法道具研究所同好会
学園には六つの大きな塔がある。
一年生だけが集められた一年生塔。二年生以上の生徒たちが学部ごとに振り分けられている、三大学部塔と呼ばれる騎士学部塔、魔法学部塔、行政学部塔。学園に残り研究を続ける者たちのための研究塔。そして職員や来賓施設が入っている管理塔である。
それらの塔を上空からみれば、各塔が
そしてそれは学園全体を魔法の防壁で包み外部からのいかなる侵入をも防ぐ魔術の発動の要を担っていた。
そんな魔法学部塔と行政学部塔の中間、生徒たちが溢れる校内エリアからだいぶ奥まった薄暗い雑草が生えた歩道とは到底言えないような獣道のような道を抜けた先に、その小屋はひっそりと存在した。
「どうぞ中へ」
ユアンとキールがチラシに書かれている案内に沿ってやってきたものの、そのあまりのみすぼらしさに本当にこの小屋であっているのかと、立ち往生していると小屋の中から声がかけられた。
「お邪魔します」
みすぼらしい外見の割に、中はこじんまりとはしているが、清潔な空気できれいに整理整頓されていた。
そして、さらにみすぼらしい小屋とは不釣り合いな、キラキラとした銀髪の美少年が一人ユアン達を出迎えていた。
「あっ」
ユアンは少年を見るなり合っていたと言う安堵とともに、さっきとはまたうってかわって、爽やかな笑顔の少年を疑いの眼差しで見つめる。
そこらへんの女生徒たちなら、少年がこんな笑顔を向けてきたらそれこそイチコロだろう、しかしユアンは長年の経験で少年の笑顔が作られたもので、眼鏡の奥からかすかに覗くその紫色の瞳がじっとこっちを冷静に品定めしているということがわかった。
「そんなところに立っていないで、どうぞ中に入ってください」
警戒しながらもとりあえず言われるがままに中に入る。
「えー今日は見学ですか、それとも入部ですか」
ニコニコと対応する銀髪の少年。
「あなたが来いって言ったんじゃないですか」
本当はきたくなかったと言うように、眉間にしわを寄せる。
「……!?」
ニコニコと細められていた目が、一瞬大きくこちらをとらえたと思ったら、少しの沈黙の後スッと細められる。
「──あぁ、お前達が」
先ほどまでのウェルカムな雰囲気とは違い、明らかに部屋の温度が2、3度下がったような、心のそこから底冷えするような低い低音で、誰にともなくそうつぶやく。
「なっ、なんだよ」
さっきも思ったが、あまりにコロコロ態度を変えてくる、情緒不安定なんじゃないか?
──または二重人格者!?
「そうか、そうだな、まぁ確かに」
黙っているユアンたちをよそに、少年はぶつぶつと独り言を呟く。
「こないだは悪かったな、巻き込むつもりはなかったんだ。だいたいあえて人通りのない裏路地に入ったってのに、勝手についてきたお前らが悪いだろ」
── いったい自分たちはなにを聞かされているのだろう。人を呼びつけといて、どういうつもりだ!?
「もう結構です、キール行くぞ」
ユアンが珍しく強い口調でそう言って出口に向かう。
「あっ、あとそこの赤髪!僕は確かに美しいがれっきとした男だ、何を勘違いしてるんだか知らないが、二度と僕のことを探して魔法学部をウロチョロするんじゃないぞ。目障りだ」
「──!?」
(今目の前の男は何と言った?本当にキールがこんなやつを探していた?なんで……?)
「…………」
それまで一言も話さなかったキールがぼりぼりと頭をかく。
「?」
「?!」
「先輩みたいだから大人しくしてましたが。俺が探してるのはあなたじゃないです」
何を言っているのかわからずキョトンとするユアン。対照的に、今まで冷たくあしらうように対応していた少年が初めて大きく目を見開き動揺を見せた。
「なに馬鹿なこと言ってるんだ?この間路地裏でお前たちに怪我をさせかけたのはこの僕だ!」
「あなた自分で男だといったじゃないですか?俺が探してるのは女の子だ!」
「──っ!だからそれは僕だ!僕のあまりの美しさとあの時の混乱で、お前が勘違いしてるだけだ!」
話についていけずキールと少年を交互に見る。
「えっ、えっ」
(同一人物ではなかったのか!?確かにずっと違和感はあったが──)
その時ちょうど小屋の扉が大きく開いた。
「アスタ、彼が来てるって!?」
太陽の光を背に浴びて、キラキラと輝く銀色の髪。眼鏡の奥から大きく見開かれてこちらを除く紫色の瞳。
今目の前でキールと訳の分からない言い争いをしている少年と全く同じ顔がそこにはあった。
「双子だったのか!?」
「残念、三つ子です」
ユアンの言葉にかぶせるように、さらに後から一回り大きなやはり同じ顔の少年が姿を現す。
「もうアスタ。勝手に話を終わらせようとしないように」
この場のこの何とも言えないカオスな雰囲気の中。そんなこと微塵も感じさせない呑気な口調で、同じ顔だが少しだけ背の高い少年がそう言って微笑む。
チラシを渡してきたのはこの少年だな、混乱する頭の中でユアンはそれだけ確信するのが精一杯だった。
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