06. 女生徒に話しかけられました

「なぜだ!」


 入学から早一ヶ月。

 偶然の出会いを期待して、学園を挟んで両サイドにある男子寮と女子寮の周りを朝と夕のランニングコースにしているというのに、メアリーどころか女生徒にすら出会わない。


(まぁ確かにこんな朝っぱらから走っているのは騎士学部の男子生徒ぐらいなものか)


 そんなことを考えていると、すでに周回多いキールにまた抜かされる。


 朝からランニングして学園に行くので、午前中の授業はほとんどユアンは夢の中である。それでも一度受けた授業なので教授にさされてもそつなく答えることができてしまう。

 そのたびに不機嫌そうに授業を再開する教授を気にもせず、ユアンは目が覚めると今度は違うことに思いをはせる。


(本当に入学してるのだろうか?)


 全てのクラスを覗いてみたが彼女らしき人物さえ見当たらない。


「メアリー、君は一体どこにいるんだ……」


 午前中の授業も終わり、学食をチビチビ食べながらため息をつくていると、いつの間にかキールが近くに立っていた。


「なにしけた面で食べてるんだよ」


 朝からランニングだけでなくトレーニングもこなしてているキールだが、そんなのトレーニングのうちにもはいらないのか、いつもと変わらず爽やかな笑顔のままユアンの前の席に座る。


「ユアンの食欲ない姿、初めて見た」


 珍しい虫でも発見したように興味深々に見つめる。


「朝からあれだけ走れば、食欲も失せるよ」

「そうか?俺は逆に腹が減るけどな」


 かと思えば、励ましのつもりか「これ好きだろ」と自分の皿から唐揚げを1つユアンのお皿に投げ入れる。


「そういえばさ……」


 ~ ナンチャラカンチャラ ~


「俺のクラス午後は鍛錬だから、もう行くわ」


 自分だけ好きなことを話すだけ話すと、残りを全部口にかっこみ足早にその場を去っていった。


(相変わらず嵐のような男だな)


 思わず口元が綻ぶ。


「あの」


 目の前に同じクラスの女生徒が二人。


「……」


「ハーリング様?」


 自分に声をかけてきたと思ってもいないので返事をしないでいると、名前を呼ばれ初めて自分に声をかけてきたのだと気がつく。


「 ハーリング様は、剣鬼様のお知り合いなのですか?」


 "剣鬼"とはキールのギフト名である。ギフトを授かる人はごく稀で、また授かった人物は類稀な力を発揮すると言われているので、キールも教会でギフト持ちだと正式に認定されてからすっかり有名人の仲間入りである。

 そんなわけでキールは学園では剣鬼様の愛称で呼ばれているのだ。

 当の本人は「そんなの俺の価値じゃない」と、ギフトのお陰で剣術が褒めたたえられることを嫌っているのだが。


「だったらなんですか?」


 ギフト持ちなうえ、将来を期待させるあの爽やかなルックスだ。女子にモテないわけがない。


(きっと前の人生でもモテていたのだろうな。でもあいつの浮いた話なんて一度も聞かなかったなぁ)


「明日、私たちとご一緒にランチでもいかがですか?」

「一応伝えときます」

「ありがとうございます」


 キャーキャー言っている女子たちに愛想笑いを浮かべながらキールがくれた唐揚げをパクリと口に放り込む。


「じゃあ僕はこれで」


 立ち去ろうとするユアンに「約束ですよ。ではまた明日ハーリング様」と、言葉が投げかけられた。


(ん?僕も一緒?なわけないか)


 勘違いしたらいけない。


(前の人生では、友達すら出来なかった僕が誘われるわけない、きっと明日も教室で会うからとかの挨拶だろう)


 思い返せば、授業が終わると馬車を使えることをこれ幸いと毎日のように街においしい食べ物を求め一人繰り出していたので誰かと遊ぶと言うこともなかったし。

 自分のことを陰で、豚伯爵とあだ名で呼んでいるようなクラスメートと仲良くなる気さえなかったので、最低限の会話しかしていなかった。


 だからクラスメートの顔はなんとなくは知っているという程度、名前なんて誰1人覚えていない。

 今回の人生でも、毎朝のトレーニングに疲れはて授業はほとんど寝ているし、少し空いた時間はメアリーを探しに構内を歩きまわっている、放課後は放課後でキールが空いてればキールと、いなければ自主トレの毎日を送っているので、やはりクラスメートとの接点は皆無だった。


「早く授業終わらないかな」


 午前中も居眠りばかりしてたのに、さらに大きなあくびをひとつ、ユアンは教室へと向かったのだった。

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