年齢差、その問題点(2020/12/12)

 入れ替わりの肝の一つは入れ替わった両者のギャップにあります。

 男と女。人間と動物。落ちこぼれと優等生。嫌われ者と人気者。肉体的に強い者と弱い者。貧乏人と王侯貴族。あるいは、北国の人と南国の人の入れ替わりなどという場合もギャップでしょう。

 ならば、年齢差というものもギャップの一つとして非常に有効な気はしますが……長編の、それも元に戻れるか戻れないかがわからないような入れ替わり作品においては、ここを強調する作品はあまり見かけません。

 そこを掘り下げていくと、寿命などといった重すぎる題材に踏み込まざるを得ないからです。


 例えば思春期の娘と父親の入れ替わり。

 その年齢差は恐らく三十歳前後。父親から娘になった方は女子になるし学生に戻るしでうれしはずかしイベント盛りだくさんです。しかし父親になった娘は、加齢臭漂う中年男性になるし社会人として立ち振る舞うことを求められるし散々です。

 嗜虐心の強い方にとってはむしろそれがいいということになるかもしれませんが……短期間ならともかく、これが長期間だと本当に洒落にならないところがあります。

 入れ替わりから三十年後、父親になった娘はもう寿命間近です。一方、娘になった父親はまだ四十代。当人同士の間では、それよりもっと早い段階から話し合ったり覚悟を決めたりもしていることでしょうけれど、傍から見ているこちらの方がいたたまれなくなってしまいます。

 思えば『パパとムスメの7日間』はその点、非常に大胆にうまくやったものです。けれどあれも、入れ替わりが一ヶ月・三ヶ月・半年と続いていったらあの軽やかな雰囲気は保てなかったことでしょう。


 人と動物など人外の存在とが入れ替わった場合には、こちらも寿命などの問題があります。

 犬や猫の寿命はせいぜい二十年弱。野良ならもっと短くなるでしょう。家畜の場合は、寿命よりももっとやばい問題がありますね。また、虫の寿命となればさらに短くなります。

 亀や北極海のサメは例外的にそちらの方が寿命としては延びますが……とにかく生きていられれば何でもいいというキャラでもない限り、喜ぶことはできないでしょうね。

 モンスターに関しては、寿命設定は作者次第ですのでこうした問題とは無縁にすることもできますが。


 入れ替わりという題材は、他者として生きることになるという時点で作中人物および読者にそれなりのストレスを与えていると思われます。そこに多大な年齢差という問題まで加わると、これはもう物語に付き合うのがあまりにつらい――そう見なされてもおかしくなさそうです。なので、そんな未来が予想される場合のストーリー展開は必然的に短期決戦にならざるを得ない。もしくはホラー短編のオチにすることで強引にぶった切るか。

 ならば、戻れるか戻れないかという部分でも読者をはらはらさせたい場合には、同年代の入れ替わりにするしかない……という各作者の判断が働いているのかなと思います。

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