可逆か不可逆か(2020/12/4)

 前に書いた「元に戻れるか戻れないか」と少し似た話ですが、あちらは物語の結末の話であるのに対し、こちらは単に手段の話です。ドラえもんのトッカエバーなどのような道具なら、何度でも入れ替われるしすぐに元に戻れます(可逆)。一度使ったら魂に耐性がついてしまう薬などだともう元に戻れません(不可逆)。


 普通は(入れ替わりを中心に据えた長編作品は)、そこははっきりさせないまま物語が展開していきます。最終的に戻れるか戻れないかという結末にも関わる問題ですから、伏せておいた方が盛り上げやすい要素ではあります。

 ただ、はっきりさせておくことにもメリットはあると言えるでしょう。


 可逆とはっきりしていれば、入れ替わりを何度でもやろうと登場人物たちが考えられます。そうなると入れ替わりは、男子と女子が(あるいは人間と動物/魔物などが)互いの世界へしばし入り込むパスポートのような意味合いとなるでしょう。

 最初はAとBが入れ替わったのが、元に戻った次はAとCの組み合わせで入れ替わるパターン、さらにはCとDやEとFなど別の組がという流れも考えられます。

 また、一度でこりごり、もう充分と思っていたのが、諸事情によって二度三度と入れ替わる羽目になりそのうちに……といった展開も楽しいものです。

 可逆が明示されている入れ替わり作品は、全体に軽く楽しげなトーンになると予想されます。


 一方、不可逆とわかっていれば、入れ替わった二人は早い段階から覚悟を決めて新しい身体で新しい人生を生きることができます。

 あるいは、片方はとっくに割りきって生きているけどもう片方はなおも未練を引きずって……といった対比を利かせることも。

 また不可逆とわかったところから、別の手段による入れ替わりを求めて行動するというストーリーにもできますね(この場合は結局、可逆か不可逆か不明なタイプと大差ないことになりますが)。

 逆に言えば、不可逆とはっきりして他に再び入れ替わる手段も見つけられそうにない場合、元に戻るために右往左往というシーンを書かなくて済むという話でもあります。入れ替わってしまった自分と相手の心の揺れ動きによりフォーカスすることができそうです。


 それらをさらにひねったものとしては、途中あるいは終盤で状態が変化してしまう場合があります。

 可逆のつもりでいたのに何らかの勘違いやミスで戻れないことになってしまう、というのは、短編ホラー系のオチとしても、長編のコメディや恋愛の中盤以降を盛り上げる展開としても、あるいはいっそ物語の発端ということにしても、実に使い勝手がいいです。

 不可逆かと思っていたら元に戻れた、というのはベタですがハッピーエンドとして描きやすいですね。

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