便利すぎて使い方が難しい、記憶の読み取り(2020/11/24)
入れ替わりものは、入れ替わっていることがオープンになる場合とならない場合があります。そして、オープンにならない方が多い。
なぜならオープンになると、ストーリーはむしろ入れ替わり現象を巡る話になりがちだからですね。調査され、研究され、それに取り組む人たちの物語ということになりかねない。
そこまで行かず、すでに入れ替わりがよくあることになっているという世界なら、それはそれでその世界は現実世界からは変化しているわけで、その変化について描かなければおかしい。少し、描きたい物語とずれる可能性はある。
なのでオープン度合いをさらに限定して、身近な関係者(家族や友人)だけが知っているというやり方にすれば一番入れ替わった二人に焦点を当てやすくなりますが、その場合もそれら関係者たちがどんな風に事態に対処しているかを描写する必要は出てくるでしょう。
というわけで、入れ替わった二人に焦点を絞る意味からも非オープンになりがちな入れ替わりですが、こちらはこちらで大きな問題があります。
入れ替わりをごまかすには相手のふりをしなければなりませんが、他人のふりをして四六時中生活するというのはとんでもなく難しいと、誰にでも見当はつきます。単純なコメディとしての入れ替わり物語は、だいたいここが笑いどころになります。
相手についてあらゆる情報を知ることもできっこないわけで、そのせいで周囲に不審に思われたり行き違いがあったりというドラマの要因にもなっていました。
しかし、笑いどころやドラマになっても、受け手にとってはその辺りはストレスにもなりうるわけです。なんでその程度の演技ができないんだ、あるいはどうして事前にそのことを教えておかないんだ、そうしたところが気になってしまいますし、登場人物の能力や立場的に理解できる行動でも共感性羞恥で見るのがつらいという場合もありうる。そのバランスの取り方は、意外と難度が高いかもしれません。
では相手のふりをするのが楽、もしくはしなくていい関係性であれば……ということで、生まれてからずっとお隣で今は同じ学校のクラスメートでもある幼なじみとか、あるいは二人とも転校してきたばかりとか、間柄について工夫する場合もあるでしょう。ただ、それはそれでドラマの方向性をあちこちで縛ってしまう面はあります。
その辺の問題をかなりクリアできるうまいアイデアが、記憶の読み取りです。
入れ替わりにおいて心と脳の関係は、考え出すと厄介なものです。記憶しているのは脳のはずなのに、脳移植以外の入れ替わりパターンでは脳を無視して記憶が交換されている。なので放置されることが多い。
しかし、魂が記憶していることとは別に脳や肉体が記憶していることもあるのでは? それを読み取ることもできるのでは? と考えていくと、上に述べた問題をも解決しやすくなる優れたツールとなります。古くは光瀬龍「あばよ、明日の由紀!」でも少し使われていました(少女になった少年が、少女の家族関係を思い出したり、少女らしく自然に振る舞えたり)。
最近のネットでの入れ替わり小説、特に十八禁作品では、かなり見かける仕掛けになってきた気がします。「性的な刺激によって今の肉体の記憶が喚起される」という仕組みにすれば、エロシーンを描きつつ今の立場に適応するというストーリーも進展させられるわけで一石二鳥です。「ダーク」を謳った短編ではここがクライマックスになることも多いようですね。望まぬ入れ替わりをしてしまったキャラが、望まぬ異性の身体で快楽を与えられ、受け入れたくなかったそれを受け入れてしまうと同時に、今の身体の記憶に染められていき順応してしまう。
ただ、これはあまりに便利すぎるとも言えます。入れ替わった相手のことが何もかもわかってしまうとしたら、そこにはドラマが生じ得ません。そこに物語の主軸を置くつもりがない場合以外は、悪手になってしまうでしょう(以前読んだ話には、ある少女のことをすごく好きな少年とその少年のことをどうしても好きになれない当の少女が入れ替わって、肉体の記憶に引きずられてしまって……というものもありましたし、やり方次第ではあるでしょうが)。入れ替わりを巡るドラマがメインとなる長編では、なかなか採用されない手かもしれません。
あんまりすんなり相手の記憶を獲得した時、そこにいるのは誰なのか?という問題も出てきますね。上述「ダーク」な作品においては、しばしば被害者側が肉体の記憶に染まりきって元の記憶も思い出せなくなり、加害者のコピーとして生きていく羽目になるパターンがあります(この展開について一つ思いついたことがあり、そのうち形にできればと考えています)。
まあ、入れ替わった者の性格の変貌というのも大きな話ですし、それはまた回を改めてということにします。
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