『元の自分』との関係性(2020/11/17)

 ナルシストでもない限り、『自分』の顔をいいと思うことはそうないでしょう。ましてその顔が、別人として目の前にある時に、キスしたい、さらにその先まで進みたいとどれほど思えることか。

 入れ替わりがTS三系統の中で主流にはなれていない理由はここにもあるのかもしれません。変身にせよ憑依にせよ、恋愛などの相手が『自分』になる場合はあまり多くありません。

 それでもこのカップリングを成立させたくて、作者はあれこれと工夫を凝らします。エロ方面の作品だと、媚薬を使ったり、新たな身体の強い性欲に精神が慣れてなくて振り回されたり。一般向けなら、互いの心の結びつきを強めるために様々な出来事が起きたり、不自然でないことを示すために心理描写を丁寧にしたり。


 まあ、そもそも入れ替わり作品で入れ替わった者同士がカップルにならねばならないわけではありません。家族で入れ替わる場合もあれば、敵と味方で入れ替わる場合もありますし、人が動物や魔物と入れ替わることもあります(いや、それらの入れ替わりから恋愛関係へという展開とて、なくはないのですが)。

 何にせよ、入れ替わりは『元の自分の身体』を意識して主人公が行動せざるを得ないのが、大きな特徴でしょう(『元の身体』や『今の身体の本来の魂』なんて不要なゴミと言わんばかりに、入れ替わり発生直後に『元の身体』が死んでしまう話もありますが)。距離の遠近はどうであろうととにかく存在することによって、いずれ元に戻れるかもという希望にもなりますし、逆に今の自分が元の自分からどんどんかけ離れていくことを実感させられる絶望の原因になるかもしれません。

 またそんなシリアス方面について考えなくとも、単純にコメディ的に扱うにもうってつけの存在ではあります。動物などとの入れ替わりでは人間になった動物側にいきなりの知性向上は期待できませんので(記憶の読み取りができるタイプの入れ替わりならそれもクリアできますが……この話題はこの話題だけで一つの話になりそうなのでまた後日)、こちらが基本ですね。

 先輩後輩、上司と部下、教師と生徒、優等生と落ちこぼれ、刑事と犯罪者、騎士と敵国の女騎士、そういった関係なら逆転状態に陥るわけで、そこもまたストーリー的な面白さに寄与するでしょう。


 ……と、ここまで書き進めていたところで、並行して書いていた短編がひとまず完成しましたので投稿してみました。

 タイトルは、『入れ替わりは時々起きている。でもたいていの人が思い出せなくなるだけ。』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054935036676)。短編です。

 主人公の少女が、妹の同級生の男子と入れ替わってしまう話です。これもまた、入れ替わり物語としてはなかなか変則的な関係性かと。

 でも、この兄弟姉妹や家族を絡める間柄というものも、けっこうな鉱脈になるかもしれないと思っています。気になっていた女の子の姉と入れ替わってしまうとか、恋人の弟と入れ替わってしまうとか(すでに商業作品で「気になる男の子のパパと入れ替わり」もありますし、十八禁の投稿サイトなどでは「自分の妻と自分の父親が入れ替わった」という話も何度となく見かけますが)。

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