Ⅶ.君とさようなら

帰り道。

「で、どうすんだよ」

「どうにかすんのよ」

「できんの?」

「するしかないでしょ」

言い切った私に誠也君は楽しそうな笑みを浮かべた。



有言実行。

鈴木君は会社に来れるようになった。

結果として、彼は経理部に移動になった。

本当は加藤と荒川をどうにかしてやりたかったけど、彼らには黄色のボールペンを50本ずつ渡して「これ処分に困ってるの、どうにかしてくれるわよね」とだけ言っておいた。二人の引きつった顔が面白かった。


経理部は丁度一人寿退社したところで人手が足りていなかった。部長は鈴木君がコミュニケーションが苦手なことを分かった上で、彼の真面目に努力する姿勢を買ってでてくれた。

鈴木君は少し明るくなったし、随分と私に懐いた。社食でもちょこんと隣に座ってくる。

周囲からあの二人出来てるんじゃないかと噂を立てられ、あら、まぁタイプではないけど、ちょっと考えてあげても良くってよ、と思い始めた矢先、

「先輩、僕、あの、彼女、出来ました」

と言われた。なんじゃい。おめでと。


丁度同じくらいのタイミングで元彼から「元気?」とメールがきた。

何回かやりとりを続けると「会いたい」などと言うてきた。

どうしようか。

彼のことを自慢話ばかりする奴、とばかり思っていたけど、考えてみたら私は彼のことをきちんと評価してあげたことがなかった。

ドライブで素敵なところに連れて行ってくれた時も、誕生日プレゼントを買ってくれた時も、当たり前のように振る舞っていた。私の方こそ自分のことばかり、だったのかも知れない。


「ねぇ、どう思う?」

スマホの画面に聞いてみと、そこには頬杖をついて窓の外をみる誠也君。

「ねぇ、無視しないでよ」

それでも彼は動かなかった。涼しげな顔で黄昏ている。

改めて見ると、彼は中学3年生そのものの幼い顔をしている。

気付けば私は以前のように誠也君に恋をしなくなっていた。彼はいつまでも色あせない、初恋の人に変わっていた。


私の耳には、彼の声が棲んでいる。

私はその声を力に変え、自分の足でしっかりと歩いていこう。

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君とおしゃべり 猫杉て @nekosugi

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