Ⅴ.君から助言

あの後、席に戻ると鈴木君はいなかった。

「なんか、お腹痛いとか言って帰っちゃいましたよ」

「先輩のせいじゃないです、大丈夫ですよぅ」

加藤と荒川が声をかけてくる。

あんた達、覚えておきなさいよ、と苛立つ一方、鈴木君にとっては私も加害者なのだと気付き、情けなくなった。


次の日も、その次の日も鈴木君は会社に来なかった。

どうしたものか。

誠也君は役に立たないし、とスマホの中の彼を睨んでいる時、愛莉から食事の誘いがきた。あまり気は進まなかったが気晴らしに飲みにでも行くか、と思い立ち待ち合わせ場所を決めた。


自分から誘ってきた割に愛莉は退屈そうな様子で、この前と同じ後輩の男の子の話をだらだらとしていた。

「腕の血管がいいんだよねー、書類渡される時とかさ、ドキッとするの」

「あー、うんうんわかるぅ」

また適当に調子を合わせる私。こんな事なら早く家に帰って休んだほうが良かったかも。


その時愛莉のスマホが鳴った。

「ごめん、上司からだ」

愛梨は店の外に急いで出て行った。


透明なドア越しに見える愛莉はいつもよりしっかりしていて、年相応の大人の女性に見えた。初めて見る真剣な表情だった。

数分後に戻ってきた愛梨は、いつもの様子で「ごめんごめ〜ん」と手をクネクネさせている。

「愛莉って仕事の時、表情変わるんだね」

「え?そうかな-」

「うん」

「まあ、そりゃいつも甘い物食べてふにゃふにゃしてると思ったら大間違いよ」

思わずぷっと吹き出してしまった。

「え、何笑ってるの。そう思ってたって事?ひどーい」

愛莉が頬をぷくーっと膨らます。

やる仕草が古いことも少し可愛く感じた。

「ね、愛梨の仕事の話聞きたい」

私が言うと愛莉は少し考えた後、職場のことを色々話してくれた。

上司が自分に期待してプレッシャーをかけてくること、任されることが年々増えて辛いこと、同期がライバル視してくること。


「でもね、こうして寧々とたまに会って他愛のない話してると仕事のこと忘れられるからさ、感謝してるよ」

そんな風に思ってくれているなんて知らなかった。私は愛莉のことをふわふわしていて、自分の事が大好きな女の子とばかり思っていた。

さっき退屈そうに見えたのも、私の前でリラックスしているが故のことだったのかも知れない。

「寧々は?最近仕事どう?」

「え?うん、私は」

私は少し迷ったが、鈴木君のことを話した。

「それ、会いにいった方がいいよ」

「え?会いに?」

「そう、鈴木君に。メールや電話だけじゃだめよ、追い詰めるだけだから。実際にあって、寧々も謝って、それで今後のことを一緒に考えてあげたらいいと思う。このままじゃ彼、フェードアウトして辞めちゃうだけでしょう」

確かに愛莉の言う通りだ。

「でもさ、会いに行くって言うのもなんかやり過ぎじゃ無い?引かれそうっていうか」

「だめ、会うの!」

「は、はい」

私が返事をすると愛梨はいつものふにゃっとした表情に戻って「デザートたのも〜」とメニューを見だした。


相談してよかった。

帰り道、スマホを開くと誠也君がニヤニヤとしていた。

「ほらな?」

「何がほらな、よ」

「お前は人の表面ばかり見てる。愛莉ちゃんだって違う顔があっただろう?きっと、鈴木にもな」

私は何も言い返せなくなって画面から目を逸らした。


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