Ⅳ.君はお見通し
「あのさ、良い加減にしてくれる?」
つい声を荒げてしまう。
目の前にいる入社一年目の鈴木君はひたすら俯いて「すみません」とだけ言う。
会社の備品を揃えるのは私の属する総務部の仕事で、ほとんどの場合一番下の後輩が担当することになっていた。
「なんでお茶っ葉100袋も頼むかな、棚に入ると思う?コピー用紙はB4しか頼んで無いし、一番使うA4がなくてどうすんの。極め付けは黄色のボールペン100本、誰が使うのよこんなの」
「すみません」
「すみませんじゃないのよ。あなた黄色のボールペンそんなに使う?白い紙に黄色のインクでメモ取る馬鹿がどこにいるのかって聞いてんのよ」
「はい、すみません」
泣きそうな顔の鈴木君。さすがに言い過ぎてしまった。
でもこういうことはもう3度目なのだ。学生のバイトでも出来るような仕事の何がわからないのだろう。
「次は気をつけてよね。注文かける前に私に見せるとかなんとかさ、やりようはあるでしょう?」
「はい、すみません」
はー、すみませんばかりで何を考えているのかわからない。
せいぜい7歳違いくらいなのに、これが世代の差ってやつなのかしら。
私は頭を冷やすために屋上にでた。
屋上は誰もいなかった。サボってると思われると嫌なのでコーヒーを少し飲んだら戻ろう。スマホの画面をつける。
「ひー、怖いね、お姉さん」
うわ、仕事に追われてすっかり忘れていた。
「あんたが朝からイライラさせるからよ」
「うわ、俺のせいかよ」
「うるさいわね。あんた、さっきのも全部聞いてたわけ?」
「おう、画面が暗くても音は聞こえるからな」
「盗聴じゃない、やめてよ」
「まあまあ、それよりさっきの男」
「鈴木君?」
「そうそう、あいつさ、いじめられてるぜ」
「私にってこと?本当、あんたムカつく」
「違うって。いや、それもそうなんだが。
お前の他の後輩、ほら、男と女の」
「加藤君と荒川さん?」
二人は私の3歳下で仕事がよく出来る後輩だ。
「そう。あいつらがさ、鈴木に言うんだよ。今度黄色のボールペン100本頼んどいて〜とか、A4用紙はいらないぞ、とかな」
「へ?なんでそんなことするのよ」
「だから、それでお前が怒るだろ?鈴木に。それ見て笑ってんだよ、あいつら。ストレス発散ってとこだな」
「何それ、最低じゃない」
「そ、最低。そしてお前はまんまと利用されてるってわけ」
嘘、信じられない。
「でもさ、なんで鈴木君は反論もしなければ、それを私にも言わないのよ」
「みんながみんな言いたいこと言えるわけじゃねえんだよ。あいつは先輩二人が自分で遊んでるって分かってる、でも言えないんだ」
「そんな。私ちょっとあの二人と話してくる」
「やめろって、そんなん鈴木がチクったと思われて余計虐められるぜ」
「じゃあどうすんのよ」
「知らねぇ。自分で考えな」
そんな。
「まぁ人の内面をよく見ることだな。お前は上辺だけで判断する節があるから」
それだけ言うと誠治君は窓の外を見て知らん顔をした。
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