Ⅲ.君と生活

翌朝、目覚まし時計がなる前に目が覚めた。

あまり熟睡出来なかった。ぐーっと伸びをする。

枕元にあるスマホを見てみた。昨日のあれは夢だったのだ。

少し勇気を振り絞り、思い切って画面をつけてみた。


「よっ。お前寝起きの顔ひでーな、目やについてるぜ」

「いやぁ!」

「いい加減慣れろって、何回驚くんだよ」

アメリカドラマの人みたいに、困ったもんだぜと両手をあげる誠也君。

「嫌!話しかけないで。あと、その生意気口調も嫌!」

「うるせえなぁ、そんなことより早く支度しろよな。遅刻するぞ」

な、なんて偉そうな奴。

やはり私は頭がおかしくなったのか。妄想が行き過ぎてしまったのか。

「ほら、早く顔洗って着替えろよな」

ムカつく。私の頭の中の誠也君はこんなのじゃない。

「あーもう分かったわよ」

私は急いで支度をすると家を飛び出し、朝の満員電車に乗り込んだ。


駅まで歩いている間に、人のいるところではスマホは出さないようにしようと心に決めていたのに、電車に乗った途端いつもの癖で画面をつけてしまった。

「嫌だねぇ、朝の満員電車ってのは。こんなのに毎日乗って出勤なんて、この国の人達はどうかしてるね」

や、やばい。

「ちょっと、電車で喋らないでよ」

私が小声で注意すると近くにいた女子高生二人が怪訝そうな顔でこちらを見てきた。

「は?何、ちょっと喋るくらい良いじゃん、文句あるわけ?」

「あ、いえ、違います、あなた達では」

「なんなの、ビビるくらいなら最初から絡んでくんなっての、おばさん」

お、おばさん。

「はは、おばさんだってよ、きっついね〜」

私はスマホの中でゲラゲラと笑っている誠治君を睨みつけた。

「おうおう、そんな怒んなって。俺の声はお前にしか聞こえないの。だから安心しろって」

ムカつく。何が安心しろだ。


おばさん、と言う女子高生の声が耳から離れなかった。

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