II.君が話しかけてくる

家に帰ってから何をする気も起きず、いつの間にかうたた寝してしまっていたようだ。

時計を見ると8時半。今からご飯を作る気もしないし、今夜はカップラーメンにしようか。

スマホの画面をつけると誠也君の涼しげな顔。

誠也君。私疲れちゃった。

友達も、元彼も、会社の人だって、みんなみんな自分のことばっかり。

「みんな、自分のことばっかり」

声に出して言ってみた。

誰もいない、一人暮らしのワンルームに寂しく響く声。

「そういうお前はどうなんだよ」

急に男の人の声がした。

かばっと起き上がり部屋の中を見渡した。

誰もいない。窓も閉まってる。もちろんドアも、鍵がかかっている。

気のせいだったのか。

スマホの画面を見ると、あれ。

誠也君の目、窓の外を見ているはずの目がこちらを向いている。

「はは。お前、間抜けな顔してるぞ」

今度は顔が動いた。

「ひゃあっ!!!」

私はスマホを投げ出した。

心臓がばくばくしている。

なに、どういうこと?

恐る恐る拾い上げてもう一度画面を見る。

「そんなに驚くことか?いつも見てるだろ、俺のこと」

言葉に合わせてしっかりと口が動いている。

えっと。なにこれ、スマホの新しい機能?待ち受けが喋る新機能なんてあったっけ。

「いつまでボーっと口開けてんだよ」

「あ、えっと」

「ん?なんだ?」

「あの、わたしに、話しかけてる?」

「当たり前だろ、他に誰がいるんだ」

画面の中の誠也君が顔を傾げながらこちらを見てくる。

おかしい、絶対におかしい。

ホーム画面のキャラクターが貴方とお話しします、なんて機能、聞いた事がない。

「おーい、なに黙ってんだよ」

カチャ

私はスマホの画面を消した。

最近残業が多かったせいで疲れているのだ。きっとそうだ。

変な時間にうたた寝してしまったし。

よし、シャワーを浴びよう。


---


ふー、さっぱり。

シャワーを出た私は濡れた髪をタオルで巻いて、キンキンに冷やしたビールを飲む。美味しい。

スマホの画面を付けてみた。

そこにはいつも通り、頰杖をつきながら窓の外を見つめる誠也君。

良かった、と安心した途端、誠也君の目がこちらを向いた。

「あんまり待たせんなよな」

「え」

「なんだよ」

また喋った。その声はアニメの誠也君とまったく同じ声だった。

「どうしよう、おかしくなっちゃった」

「なにが?」

「幻覚をみているんだわ」

「なんの?」

「なんのって、あなたの、、って言うか、幻覚と会話してるとか本当にどうかしてる。あぁ、どうしよう」

「別にいいんじゃね、そんなに気にしなくて。良かったじゃん、俺と話せて」

キザにウインクしてくる誠也君。

「どうせ幻覚見るならもっと優しい誠也君が良かった、なんなのよこれ」

「優しい誠也君ってなんだよそれ、俺は元からこんなんだぜ?」

「嘘。映画の中の誠也君はもっと大人っていうか、誠実で直向きで」

「大人って、笑わせんなよ。俺、中学3年だぜ?お前の妄想と混同すんなって」

やだやだやだ、なんなのよこいつ。

「もういい寝る。あんたが幻覚だかなんだか知らないけど、もう話しかけないでよね」

画面を消すと私は無理矢理寝た。

きっと疲れているだけだ。

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