君とおしゃべり
猫杉て
I.君が好き
「ね、聞いて聞いて。わたしさぁ、気付いたんだけど」
愛莉がパフェの苺をスプーンでつつきながら話し始める。
ふわっふわのホイップクリームの上に乗った真っ赤で愛らしい苺は、どことなく彼女に似ている。
大事そうに苺をすくった後、愛莉は私の倍くらいある大きな目を大袈裟に見開いた。
「私さ、意外と歳下の方が好きかも」
それだけ言うとパクッと苺を頬張り、うんうんと頷いている。
愛莉は大学生の頃からの友達だ。卒業してからもこうしてたまに会うのだが、口を開けば「私ってさぁ」を始めるので少し疲れる。
そう言えば、二ヶ月前に別れた彼氏もそのタイプだった。
彼は自分が職場でどれだけ上司に信頼されているか、同僚に認められているか、後輩の女の子にモテるか、そんな話ばかりしてくるので、いつしか私は疲れ果て、相槌を打つのもやめた。
そんな私に彼は「可愛げがない」と捨て台詞を吐いて、どこかへ消えてしまった。
「なんか今日寧々元気なくない?どうしたのー?」
愛莉が首を傾げて顔をのぞいてくる。スプーンを持つ手をクネっとさせて、可愛い女の子感、増し増しである。
「ごめんごめん。ちょっと仕事で疲れてて。あっ、ちなみに私も歳下好きぃ〜」
調子を合わせて言ってみたものの「ふーん」という素っ気無い返答。なんだそれ。
愛梨は自分の職場の2歳下の男の子の話をひとしきりした後、ネイルの予約があるとかで行ってしまった。
1人残された私は冷めたカフェオレをちびちびと啜りながらスマホを取り出した。
私の待ち受け画面、天木誠也君が頰杖を突きながら窓の外を見ている。
ずっとずっと好きな、大好きな、誠也君。
『耳に棲ませて』を初めて観たのは小学生の時。
アニメーションの中で躍動する誠也君に私は釘付けになった。
現実の学校の男の子達より、テレビの音楽番組に出ているアイドルの男の子達より、誰よりもかっこ良い誠也君。
私は父とビデオレンタル屋さんに行って何回も『耳に棲ませて』を借りた。台詞は全部覚えた。
中学生になり、高校生に、大学生に、そして大人になった今も、私は彼に恋をしている。
それが普通じゃない事は分かっているし、何度か現実の男の子とも付き合ったけど、落ち込んだ時や辛い時に慰めてくれたり背中を押してくれるのは私の頭の中の誠也君だった。
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