し.『ショー』とは

 拓真は自らの、唸り声に近い寝言で目を覚ます。四方を古びた灰色の壁に囲まれ、その部屋の中心にある寝心地の悪いベッドに眠っていた。

 しかし身体は動かない。手足の首部分に鉄製の輪っかが巻かれ、ベッドに繋がれているためだ。


「あっ起きたね。痛みはもう無いはずだけど大丈夫?」


 拓真の足が向けられている方向から現れた人物はやはり愛翔。白いパーカーからスマートフォンを取り出すと、拓真が起きた事を仲間へと伝えていた。

 たまらず拓真は疑問を口にする。


「な、なんなんですか!? なんで俺をこんな目に!」

「おっ疑問1つだけだね。いい子いい子。疑問は1つずつ聞かなきゃダメなのに、同時に複数聞いてくる不躾な人もいるんだよ?」


 今までこの行為を複数回やってきた事を匂わせ、愛翔はパーカーの内ポケットから謎の物体を取り出した。

 頭に装着し、リアルな体験と映像を楽しめるVRヘッドセット。素早い馴れた手際で拓真の頭部にそれを装着させた。


「でもね、疑問を聞いても答えてくれない場合だってある。今回がそれだよ」

「ちょっと……やめてください!!」


 もはや問う事すらやめ、震え声で拒否するも愛翔は止まらずヘッドセットを弄り続ける。


「感覚も共有するためにちょっとチューブいれちゃうね」

「あっ……がぁっ!?」


 鉄製の輪っかから無数の鋭い棘が飛び出し、四肢に思い切り突き刺さった。体内に異物が挿入される激痛は一瞬だが強烈で拓真は全身を震わせる。


「すぐに痛みはなくなるから大丈夫だよ。スイッチONっと」


 ヘッドセットの正面を望遠鏡で殴り、明らかに正攻法ではない方法で電源を入れた愛翔。すると拓真を襲っていた不快感もなくなり、目の前が光に包まれた。思わず目を瞑り歯も食いしばっていたが、段々と瞳が慣れていく。


「私たちの創造的な“ショー”……その一部になれる事、光栄に思ってよね」


 またも愛翔の声を浴びながら、拓真は意識を手放し目前の映像に夢中にさせられた。

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