に.『人形』とは

 あまり期待を抱いていない拓真は軽い声と共に空を覗く。しばらくは何の変哲もないただの星空だったが次第に視界が曇っていき、愛翔の言っていた通り『不思議なもの』が見えてくる。



『──ユニ……スの能力は“アイアンメイデンの男”にも効く』


 暗い洞窟の中、白いコートとフードに身を包んだ人物が言った。顔は見えず女性のように高い声だが、彼の性別は実際のところ男性だ。

 本当に不思議な光景が映るのだと、拓真は衝撃と感心を覚える。


『それじゃあエボル、次は彼の記憶を見ようか』


 男性が話しかけた方にはもう1人、女性も立っていたが同じく身を包んだ白い服装。外見は見せていない。名前はエボルだ。


『記憶と言っても、彼の身の回りで起きた状況を確認するだけなんですけどね。この方は人造人間じゃあありませんから記憶共有はできません』


“人造人間”や“記憶共有”なんていう聞き慣れない単語が連なり、拓真は思考停止寸前にまで陥る。ほぼ見ているだけで考える事は叶わない。

 しかし直後、思考を回転させるを得ない光景が彼の目に飛び込む。


 男性の手のひらから現れた白い粒子が地面に降りかかると、段々と人の形になっていき、見覚えのあり過ぎる人物と変貌していく。


「え、俺?」


 思わず声が出ていた。赤の他人などではない。間違いなく、拓真そのもの。拓真自身はそれを何かの人形だと思い込んではいたが、余りにも精巧が過ぎる。


『“ウソゾー”さん、彼に手を触れてみてください』


 男性の名はウソゾー。エボルに言われるまま寝転んでいる拓真らしきものの右腕に触れると、目を瞑ったまま独り言をぶつぶつと口から零しはじめた。


『なるほどね……歳は20、大学生だったか。


「え……? は?」

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