よ.『予見』とは

 入り組んだ都会にはありがちな、建物の間にある汚れた路地裏。室外機やダクトから流れ出る異臭は強烈だが、拓真は目的のため耐え歩く。


「くせぇ……でも推しのため」


 追っかけを初めてから2年。アイドルの結成時期も約2年前だったため、拓真は古参と言える立ち位置であった。公式のSNSアカウントをフォローし拡散はもちろん、今となってはあまり売れ行きが宜しくないCDも毎回購入し支えている立場。


「迷わないようにこれを」


 ズボンの右ポケットからスマートフォンを取り出し、マップアプリを起動。推奨されていない経路のため詳しくは路地裏の様子は表示されていなかったが、このまま進めば目的地のコンビニまで最短距離で到達できる。


 拓真は早歩きで向かった。ゴミや壊れた配線が当たりに散らばっており危険だから、という事も理由ではあったが、先程の予見での交通事故を気にしたというのが最大の理由。



 *



「やった……やったぞ」


 何事もなく拓真はコンビニへと辿り着いた。そして握手券付きチケットを一番乗りで購入完了し、700円の一番くじは5回目の購入でお目当てのフィギュアを獲得。特大のレジ袋にフィギュアを閉じ込め、チケットは封筒と共に上着の内ポケットに収納していた。


「後はゆっくり帰るだけだな!」


 意気揚々とコンビニを出る拓真。笑顔で満ちていたが、予測できていなかった不幸が襲いかかる。


「うおっ」


 道路の脇に溜まっていた水が、通過した車によって思い切り跳ねた。泥も混じった液体が拓真の身体全体を濡らし、フィギュアの箱も少し染みてしまった。幸いチケットは無事だったものの、拓真は『選択』の有用性を改めて思い知った


「なるほどな……幸も不幸もあるから、『最善』でも『最悪』でもないから予見が現れなかったんだな」


 けれど拓真は微笑みを取り戻し、やや不気味とも取れる声で呟く。


「『第3の選択肢』か……まるで、鳥かごから抜け出せた小鳥の様な気分だぜ」

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