戯れ
その日を境に、私はサリアとの異世界リモート会話をするようになった。
彼との他愛ない話は楽しくて、学校のいじめも耐えられるようになった。彼の助言で殴られそうになったときの交わし方を実演してみると、いつのまにか全員私の前に倒れていた。
『あはは、すごいね!』
「そんなことないよ。リアのおかげ」
私と彼は愛称を呼び合うほどに仲良くなっていた。お互い名前も似ていたことからその方が呼びやすかったのだ。
「ねぇ、今日はどんな話をしよう?」
毎日、リアとのこの会話がとても楽しくて、学校もできるだけ早く帰って来るようになった。両親にも自然と笑いかけられるようになり、彼との出会いは私の世界を変えてくれた。
それに彼の話はとても面白いのだ。なんでも向こうとこっちでは時間の流れが違うようで、現代の一日が向こうでは一週間になるらしい。だから私は数時間おきに彼と話しても、彼にとっては一日おき位のようだ。
『今日はねぇ……あ、お互いの世界にしかないものについて話さない?』
「ここにしかないもの、かぁ……あ、なら携帯は? そっちにないでしょう?」
私は彼に携帯のことはもちろん、世界のどことでも話ができること、半導体で機械の技術が進歩したこと、宇宙に衛生を飛ばしたことを話すと彼はひっくり返っていた。
『宇宙!? 空の上はそうなってるのかい!? 僕らの世界じゃ、空を飛べる嵩で精一杯なのに!』
「むしろ空を生身で飛べる方がこっちじゃすごいよ?」
『でも、そっちだって人が鉄の固まりにのって空を飛んでいるんだろう?』
私はスマホを使って彼に飛行機の写真や宇宙の写真を見せてあげた。彼の反応はいちいち大袈裟で、見ているこっちは反応に飽きない。
それはお互い様で、彼から魔法のことを聞けば今度は私が彼と同じような反応をしてしまう。
土を盛り上げて形を作れるというから、土器なんて作れるんじゃないかと彼に遮光器土偶の写真を見せると、へんてこな土人形をつくって二人で大笑いした。
書いたらすぐに消せる鉛筆が珍しいらしくて、彼の要望の絵を描いては消してを繰り返したこともあった。絵が下手で恥ずかしくなったら、そんなことないよ! と彼は本気で誉めてくれるから、ついついついつい嬉しくなる。
彼は野宿をしているらしく、時おり捕まえたウサギや鹿を見せてくれた。捌くのかな? と思ったらなんとそのまま丸焼きにして消し炭にしたときは驚いた。なんでも火加減を間違えたらしい。
向こうでは音楽はあまり流行してないらしいから、スピーカーで私の好きなJ-POPをかけてあげると、彼は何度も聞きたいとせがんできた。だから彼との会話中は小さな音でたくさん音楽をかけてあげた。大きな音だと、お母さんに怒られちゃうから。
こんな風に、毎日毎日たくさん、彼のお陰で笑顔をもらえた。明日が来ることが楽しくて、学校でもいじめられなくなった。
ずっとずっと、この幸せが続けばいいのに。
そう思っていたのに……。
それは突然、音もなく崩れ去った。
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