会話
異世界……?
それはたしか字の如く、ここではない別の世界。日本とかアメリカとか、国すら越えてしまったそんな別次元のお話。
『いやぁ、ダメもとでゲートに放り込んでみるものだね。まさかこんなにかわいいお嬢さんに拾ってもらえるなんて!』
話についていけずに放心状態の私をほったらかして、少年は嬉しそうに話している。
いやちょっと待って。確かにこの世界では難しい技術だろうけど、もしかしたら超ハイテク機器なのかもしれない。今じゃ声をかければ起動する技術は珍しくない。スーパーAIとかそういうので、そういう設定で会話できるとか、そういうおもちゃなのかも……
『あ、その様子じゃ僕のことを信用してないね!』
少年は明るく図星をついてきたので、私は小さくたじろいだ。今時のAIはすごい、顔色も見ることができるなんて。
『まぁ無理もないか。いきなり異世界からの通信なんていわれて信じられた方が困るもん。ねぇ、君が僕を信用できるようになんでも質問に答えるから、いってみてよ!』
キラキラ光るきれいな青い目がこれでもかと大きく見開かれ、嬉しそうに笑っている。
うーん……質問かぁ。AIじゃ解けないものにすればいいかな。
「じゃぁ……異世界っぽいことやってみて」
答える、じゃなくて実演。これならどうだ!
すると少年は笑みを湛えたまま首をかしげた。
『いいけど……あ、そっちの世界って魔法はあるかな?』
「魔法……そんな非科学なもの存在しな……っ」
ボン、バン、ドカーン
画面から激しい音が鳴り響く。
なんと少年の手から火の玉が飛び出して、続いてなにもないところから水が吹き上がり、土が盛り上がって破裂した。
な、なに……何が起こったの?
『はは、びっくりした? 僕の世界では魔法は普通にあるものなんだよ。こんな風に』
またも少年の手から火の玉が浮き上がってきた。AIの動画にしてはあまりにもリアルで、そもそもこんなリアルな映像、こんな小さな石に内蔵されているであろう機材では処理できないはず。
つまり……本当に異世界からの産物?
でもだとしたら、なぜそれが私の手に?
「ねぇ、もしも本当に異世界からの通信なら、なんでこれがここにあるの?」
『それはねー……僕がゲートに投げ込んじゃったからさ!』
なんでも彼のいる世界では時おり異世界に通じるゲートが開くらしい。ただ開いてもすぐに閉じたり、一方通行だったりと規則性がなく人が通るには危険らしい。
彼もたまたまそのゲートを見つけて、面白半分に通信石……今私が持ってる石を投げ込んでこのような状況になったとのこと。
『ねぇねぇ、少しは信じてくれた?』
「まぁ……なんとか。」
『それならさ、自己紹介をしようよ! 僕はサリア。君は?』
「……沙織」
見た目通り外人の名前の枯れは、私の名前を聞いて目を丸くした。
『 珍しい名前だね!』
「それ……お互い様だから。」
私から見れば、彼の名前も十分珍しかった。するとサリアは面白そうに笑って
『それもそうだね。けどさおりはどうして傷だらけなんだい?』
そう、いったのだ。たぶん、悪気はなかったんだと思う。だから私も、流れるように口にしていた。
「……殴られたから」
『えぇ、酷いことするなぁ……大丈夫かい?』
それは、とても当たり前な会話だった。ただ、その当たり前の言葉が、なぜか自分でも驚くほどに胸を突き刺す。
そして気がついた。
社交辞令でも、建前でも、なんでもよかった。ただ、親以外の誰かに、心配してほしかった。
その本音に気づいて、私はポロポロ泣き出していた。
「大丈夫……っ」
『そうか……君がそういうなら、そうなんだろうね』
もしかしたら、出会ってもいないからこそ、話せたのかもしれない。
どこの誰かも知らない人だからこそ、話せることもあるのだろう。
優しい彼の言葉が軋んで痛む心に、染み渡った。
「……嘘。大丈夫なんか……じゃ、ない……」
『うん、うん。よく言えました』
涙ぐむ私の頭を撫でるような、そんな労るような言葉に、次には私は声を圧し殺して泣き出した。
これが私とサリアの、今思い出すと恥ずかしくて
話せないような、最初の出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます