貴方はどこへ?

ぺる

出会い

 夕日に染まる河川敷。その上をうつむきながら歩く私の影は、今日も長く暗く延びきっていた。


「……はぁ。」


 深い深いため息は、殴られた体を軋めていく。高校三年間いじめられ、家族には心配かけさせたくなくて、我慢し続けた。


 次第に笑わなくなり、明日を迎えるのが嫌で、希望なんてものはいつの間にかなくなっていた。


 それが私、神崎沙織の今の人生だ。


 沈み始めたオレンジに染まった川はキラキラ輝いているのに、私の気持ちは真っ黒になったまま。

 

はじめの内は強くクラスメートを呪っていた。


 けれど日が経つにつれて自分に落ち度があるのではないか、と自分を責めるようになっていった。


 自分がダメだから怒らせているのかも


 自分のせいで誰かを不快にさせているのかも


 そんな自責の念がどんどん沸き上がってきて、次第に私を飲み込んでいった。


 キラキラ光る川が眩しすぎて、いっそのこと飛びのでしまおうか。そんな考えがよぎったときだった。


 川のなかで不自然に光るなにかを見つけた。


 普段ならば無視するか、気にしても川の中だからわからないと諦めただろう。けれど、自暴自棄になっていた私はあとのことも考えずに、川へと近づいた。


 川辺にたつと淡い緑色がオレンジの光に混じって反射していた。ギリギリ手を伸ばせば届く距離。


 冷たい川の水に手を突っ込みなんとかとったそれは、錆びたチェーンのついたネックレス。その中心には、大きな石がぶら下がっていて、位までも淡く光っている。


 その石が何なのか知りたかったけど、藻がついて全体的によごれている。私はハンカチにそれを包み、家へと持ち帰ることにした。そのくらい、これが気になったのだ。


 そして私が一番憂鬱な時間がやって来る。それは、帰宅するこの瞬間。家の玄関前で震える手を無理やり動かし、呼吸を整え、息を吸い込む。


「ただいま!」


 元気いっぱいに玄関を開けると、すぐにははがにこにこしながらお帰りと出迎えてくれる。


「今日は友達と遊んでて遅くなっちゃった。お腹すいた~。」


 ありもしない友人との嘘の話をさも現実のように話す。そうすることで、家族は安心するのだ。


 大好きな両親に嘘をつき痛む心と、なにも聞かれなくてすむという安心。両極端の気持ちが私を引き裂いていく。


 演技の笑顔を張り付けて、夕食をすませお風呂に入った私は、例の石をピカピカに磨きあげた。


 部屋に入れば誰にも干渉されない。偽りの笑顔が消え失せて、無表情のまま、まだ淡く光る石を手に取り観察する。


 古代文字とかそういう部類の読めないものがたくさん掘られている。裏には大きな円が描かれていて、魔方陣、というものに似ている。石の正面には大きく赤い模様がひとつ描かれていた。


「ずいぶん、こったおもちゃだなぁ。落とし物かな?」


 見た感じまだ綺麗で真新しい。機械なら壊れてしまっているだろうが、これはどんなおもちゃだろうか。


 そんなことを思いながら正面の模様にさわったとたん


 ヴィンッと聞きなれない音がして、石が光輝き始めた。その光は石の上空に集まり、まるで映画のスクリーンのように石の上に映像を写し出した。


 出てきた映像は、うっそうとした森の映像で、視線は底辺に近い。チャンプでもしているのか大きく横たわった丸太と燃え残った薪が放置されている。


 突っ込みどころが満載の映像と石だったが、急に視線が反転した。誰かが機材を持ち上げたのだ。


『あれ? 起動してる!?』


「してるわよ」


 思わず声に出してしまった。だってあまりにも、声の主が能天気な声をあげたものだから、つい。


『え、え、嘘だろっ!? もしもし!?』


 ……え?

 今度は私が、能天気で早く間抜けな声をあげそうになった。


 もしもし……?

 それって、こっちの言葉に反応したってのと?


『ねぇ、もしもし? わぁ、かわいい女の子だ!』


 画面の視点が二転三転と動き、ようやく安定したときには、画面に可愛らしい男の子が写っていた。


 金髪の癖っ毛にサファイアのような青くキラキラした瞳。可愛い、という形容詞は恐らく彼に使われるべきものだろう。歳は……15くらい?

 見るからに外人だし、もしかしたらもう少し上かもしれない。


『突然驚かせてごめんね! 初めまして異世界のお嬢さん!』


 ……はい?

 少年の言葉に、私はまた間抜けな声を心の中であげることとなった。

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