地獄の使者・宇宙的恐怖の使徒
寒冷地を抜け、馬車は小さな村に入った。
乗客は御者を含めて三人、猫又とハーフエルフとオークの眷属である。
猫又は二人に色々と説明した後に頭を下げ、二人はそれを許した。
オークの眷属はそのまま町に残り、残る二人は町の人間にいくつかの質問をし、返答を受けてから、再び一人の少年を探しに馬車へ乗る。
彼等がオーク王の死の知らせを聞いたのは次の町であった。
紅葉の赤に
曰く、その断面は滑らかで、ありえない程に鋭利な刃物で飛ばされたのだろうと。
*
……俺は、決して彼女、『無血』の言った事を全て
恐らく何割かは正しいと思うが、残りの何割かは嘘を言っていると思う。
根拠は……無い。
勘でしかないが、逆に言えば俺の勘は彼女を認めていない。
おーく王ハ僕ガ殺シマシタ。ソノ息子モ。コノ世界ニハ貴方様ノ敵ニナリエル存在ハモウイマセン。
あの後に言われた言葉だ。
その息子、
彼女の基準では一度俺を傷つけた者全てが敵なのだろう。
これが俺の不信感の、唯一の理由だ。
俺に対する、狂信とでも言えるような態度からは、敵対心の様な物は一切垣間見えない。
そのため、俺の事を
大体の感情は強すぎると危険になる。
何かの本で読んだものだ。
何事もやりすぎはいけないと言う一般論に過ぎないのだが、彼女はその例だろう。
「ステータスオープン」
⎾ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⏋
|アザトース(無し)Lv無し |
|体:無し |
|魔:無し |
|力:無し |
|守:無し |
|速:無し |
| |
|スキル:無し |
| |
|装備品 |
|武器 無し |
|防具 無し |
⎿__________________________⏌
昨日、『無血』に、俺が世界を管理する巨大コンピューターの器と聞いてからウィンドウの表示が変わった。
若干だが五感が鋭くなったり、ウィンドウから何か恐ろしい物を感じるようになったという変化もある。
「……オハヨウゴザイマス」
後ろからの声に、慌ててウィンドウを閉じる。
一応見せて良い物か分からない為だ。
「うん、おはよう」
言って振り返るが、妙に疲れているのが見て取れる。
ウィンドウにも気づかなかった様だ。
「……何かあった? 」
「……朝ニ起キルト言フノハ、吸血鬼ノ本能ニ逆ラウ行為デス。『夢』ノ中ニ来テカラ常ニ続ケテイマスノデ、再生能力等ニ影響ガ出テイマス」
デスガ、と続ける。
「モウスグ適応出来マスノデオ気ニナサラズ。今日ハイカガイタシマセウカ。モウ貴方様ハ努力ナンテスル必要アリマセン。楽シイ事ヲイッパイシマセウ」
*
馬車の中に、この中世の如き世界に似つかわしくない、機械的な箱がある。
「
「……もちろんよ」
果たして、箱の中から出てきたのはこれまた中世に似合わぬ武器、SFに登場するような銃四丁、そして十二のマガジンであった。
「これは対吸血鬼用武器の一つ、『人類の牙』と呼ばれるライフル銃だ。杭弾頭で、ニンニクを始めとした薬草の匂いを刷り込んである」
始めて
「うぇ、くちゃい! 」
すぐに顔をしかめて鼻をつまんだ。
「疑似的な太陽光を作るために、太陽と同じで核融合をする兵器である水爆。それも超小型の物を内部に入れ、金属部分には勿論十字架として使われた銀を使われていて、完成した銃も弾丸もキリスト教の洗礼を模した儀式で清められている。弾丸には司祭以上の立場の者によって十字が彫られているために目視する事も叶わない」
「へえー! じゃあ余裕じゃないの? その武器の扱い方は詳しくないけれど、それだけ吸血鬼を倒すために作られたんだったら」
しばらくせき込んで、もう回復したらしい。
「……並みの吸血鬼ならな」
「まあ、そりゃあそうよね。そう簡単に勝てる相手なわけがないわ」
残念そうに肩を落とし、並木道に落ちた枝付きいがぐりを拾って
「して、救出作戦についてだが……」
「……私に流れるエルフの血が、栗で遊べと言っているわ……」
妙にこなれた手つきでフェンシングの剣のように扱って見せる。
びゅうと巻き起こった風が
「どんな血だ」
*
「……今の時代、
一言目の感想はこれだ。
俺がこの夢の世界に来た時、初めに食べたミミズ料理を思い出した。
ただし彼女、『無血』のそれは臭みを消したり、誤魔化す工程を踏んでいない。
巨大なミミズの肉を洗いもせずに鍋に入れ、羽を落とし、消化器官を取り除いたハエをすりつぶして作られたペーストを、草の汁でといて入れる。
その辺の岩からこそぎ落とした
そんな意味の分からない調理過程の末、自分の手を俺に噛ませて歯形を取るなんて事もした。
さらに
そうして出来上がった物が、今俺の目の前の皿に載せられたこれである。
白い皿の上には、
皿にソースをかけたのがそうさせるのか、盛り付けは高級レストランを思わるに十分な芸術性がある。
しかし材料だ。
不味そう……どころか気持ちが悪い。
「歯形ハ
「本当に、食べられるのこれ……? 」
そう言って彼女を見るが、随分と自信に溢れた表情だ。
……最近表情に関してこの描写しかしてない気がするが、それでも実際そうなのである。
「料理ハ足シ算引キ算掛ケ算割リ算……、サウ聞イタ事ハゴザイマセンカ? シカシソレハ人間ノれべるデノ話デス」
「採レタテト言フダケデ僕ニハ十分スギル極上ノ食材。血トわいんダケノ素材デ何千年ト公爵様ノ肥エタ舌ヲ満足サセテキタ最高峰ノ実力ヲ。料理ノ、人類ノ未ダ到達サレザル未知ノ計算ノ領域ヲ。
そう聞くとなんだか美味そうな匂いがする様に感じてくる。
口に入れた時、泥が口の中で溶け、濃厚でコクのあるソースと泥のクリーミーとも言える味が広がる。
「泥ハ非常ニ細カイ粒子ノ物ヲ使用シ、ソレニねずみノ脳ヲ練リ込ンデアリマスノデ、クチドケノ良ヒ仕上ガリノハズデス」
一噛み、ミルフィーユ状に重なったほろりと
ミミズのケミカルな臭みもハエの旨味やカビの匂いと相まって不思議と全てが食欲を掻き立てる天上の香りへ変換されて、草の汁はどんなハーブを使うよりもこの素材達を香り付ける。
これが
まぎれも無い、最高の美食だ。
この『夢』が異世界ファンタジーでなく料理バトル漫画だったならば確実に俺の服は、はじけ飛んでいただろう。
ごくんと飲み込み、後味に浸る。
「いやあ、『一週間後ニマタ来テ下サイ』と言われて来たものの、本当に美味しい。初めて食べたよ、こんなにおいしい物」
「僕ハ、貴方様ニ喜ンデ頂ケレバソレデ十二分ノ満足デス」
言って気が付いたが、『無血』と二人で生活を始めてもう二週間ほどになる。
俺の事を心配したりしてくれているのだろうか。
そんな気持ちも毎日考えていると、この楽しい日々に覆われて忘れてしまいそうになる。
「サア、明日ハ何ヲイタシマセウ。明後日ハ。楽シミデスネ」
『無血』が俺に語り掛ける。
毎日彼女(?)にだけする事を考えてもらっていた。
俺からも提案してみようかな。
「じゃあ、明日は南の方にあるって言う……」
突如、爆発音が鼓膜を殴る。
……銃声か?
「……あ」
『無血』の胸に穴が開いていた。
俺が次の行動に移る前に、まばゆい閃光と共に爆発が起こる。
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ー次回予告ー
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