耳(pcで読まれる方向け)
「こんばんわー」
気のよさそうな声が届く。
「いやー、良い匂いがしてつい。ご馳走になれませんかー? 」
そう言ってこちらに来るのは馬車に乗った一人のオークだ。
死人と同じ、緑色の肌には似合わずに、その顔からは陽気な雰囲気が伝わってくる。
もちろん敵意は全く感じない。
「……なんだそういう事か……」
呪符が集まって着物の中に入っていく。
「問題ない。……その代わり米が欲しいな」
御者が馬車を止めるとほろの中から三人ほどのオークが出てきた。
彼らは行商をやっているらしく、米を一俵と彼らの通貨で土虫料理を買い取ってくれるらしい。
という事で俺は他の者達が楽しそうに酒を飲み交す中、一人で
異世界と言う事もあって、酒は冬の寒さを
「このデカミミズ、俺の村でもよく食ってたんだよ。
緑色の顔に少し赤色を混ぜた、
「そうさせて頂きます」
「どうだい兄ちゃん、
「それは! ありがとうございます! 」
「おう。良い料理人とパーティーを組んだな、
そろそろ、揚がったかな。
「彼は拳法家なのだがな」
水をかけて火は消して……と。
「へえ、それじゃあ何でパーティーなんて組んだんだ? 」
「ふむ、そうだな……」
「それでは調味料貰いますねー」
オークの人達に声をかける。
「おう、危険な物も積んでいるから気を付けろよー」
……。
何やら錬金術にでも使いそうな生き物や植物の干物、精巧な装飾の施された武器や防具。
……高そうだから触れない様にしよう。
そして……あった! 調味料。
〈……かり〉
⎾ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄⏋
|料理のさしすせそ |
| |
|さ……
|し……
|す……
|せ……
|そ……
⎿__________________⏌
これは確実として、一味、七味、
静かな馬車の中、
〈かり……〉
いや、静寂など最初から無かった。
〈……かりかり……〉
俺が気付きたくなかっただけなのだろう。
〈……かりかりかり……〉
この、馬車の中には何かがいる……!
金属と金属をこすり合わせる嫌な音。
馬車の一番奥に置かれた
オークの人達が言っていた危険な物とはこの事だろうか。
〈かりかり〉
ごくりと
ランプを握り、
そこに居たのは……、ああ、なんて残酷な事か。
なんと痛ましいことか。
目に巻いた布の上から釘を打たれ、かろうじて食事できるために左手だけを残し、他の四肢の
それも小学生くらいの少女が、だ。
その食事用にだけ残された腕に持った
そして
これを見て、と言う事だろうか。
〈助けて〉や〈殺してやる〉の文字がびっしりと書かれている中に紛れ、彼女が伝えたいことであろうことが書かれていた。
〈私の名は
……どうやら舌も切られているのだろう。
そこまでを指でなぞって自分の耳を指す。
人間と比べると尖った形をした耳だ。
〈
手を合わせて頭を下げる。
〈
〈お願い〉
最後まで文字をなぞってまた頭を下げる。
今度はより深く、しばらく下げられたままだった。
馬車の中に本当に静寂が訪れる。
俺が、本当に力を持つ者だったのならば。
俺が、物語で見る異世界〇〇した主人公の様に絶対の力を持っていたのならば。
無尽蔵の魔力、便利な電子機器、あるいは銃火器の知識や全てを見通す目等の間接的なもの。
どれにしても絶対たりえる力だ。
どれにしても彼女を救うに足る力だ。
それに対し、俺はどうだ。
大して遊んだゲームではないから戦闘能力は平均以下。
……。
だから何だ。
彼等異世界〇〇モノの主人公の皆が初めから力を持っていた訳じゃ無い。
彼らなりの工夫をこらしているんだ。
考えずに諦めてはいけない。
俺なりの工夫をこらして、自分に与えられたものを生かし、無い物を補うんだ。
そうすれば必ず道は開ける!
拳を固く握りしめる。
「ああ、任せてくれ。俺が君を解放して見せる」
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―次回予告ー
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