耳(スマホで読まれる方向け)

「こんばんわー」


 気のよさそうな声が届く。


「いやー、良い匂いがしてつい。ご馳走になれませんかー? 」


 そう言ってこちらに来るのは馬車に乗った一人のオークだ。


 死人と同じ、緑色の肌には似合わずに、その顔からは陽気な雰囲気が伝わってくる。


 もちろん敵意は全く感じない。


「……なんだそういう事か……」


 呪符が集まって着物の中に入っていく。


 「問題ない。……その代わり米が欲しいな」




 御者が馬車を止めるとほろの中から三人ほどのオークが出てきた。


 彼らは行商をやっているらしく、米を一俵と彼らの通貨で土虫料理を買い取ってくれるらしい。


 という事で俺は他の者達が楽しそうに酒を飲み交す中、一人で黙々もくもくと土虫肉を味付けし、油で揚げていた。


 異世界と言う事もあって、酒は冬の寒さを誤魔化ごまかすために子供のころから飲むものらしい。


 紅白くれはが俺にも進めてきたが、油を使う料理だから酔っぱらってはよろしくないと丁寧に断った。


「このデカミミズ、俺の村でもよく食ってたんだよ。故郷こきょうの味を久しぶりに味合わせてもらったぜ。もし、俺達の住んでいる村に来てくれたら是非ぜひ食って行ってくれよ。本物の味はまた違うぜ」


 緑色の顔に少し赤色を混ぜた、禿げたオークの人がこちらに話しかける。


「そうさせて頂きます」


「どうだい兄ちゃん、一食いっしょくおんだ、調味料を分けてやるよ。作り終わったら馬車の中から一瓶ひとびんずつ持って行ってくれ。胡椒こしょうだって遠慮えんりょしなくて良いんだぜ」


「それは! ありがとうございます! 」


「おう。良い料理人とパーティーを組んだな、猫又ねこまたの嬢ちゃん」


 そろそろ、揚がったかな。


「彼は拳法家なのだがな」


 水をかけて火は消して……と。


「へえ、それじゃあ何でパーティーなんて組んだんだ? 」


「ふむ、そうだな……」


「それでは調味料貰いますねー」


 オークの人達に声をかける。


「おう、危険な物も積んでいるから気を付けろよー」




 ……。




 流石さすが商人と言う所か、色々な物が積んである。


 何やら錬金術にでも使いそうな生き物や植物の干物、精巧な装飾の施された武器や防具。


 ……高そうだから触れない様にしよう。


 そして……あった! 調味料。


〈……かり〉




料理の


さ……砂糖さとう

し……しお

す……

せ……醤油しょうゆ*せうゆとも呼ぶかららしい

そ……味噌みそ




 これは確実として、一味、七味、胡椒こしょうも貰っておこう。


 静かな馬車の中、かばんに物を入れるごそごそと言う音が響く。


 かばんを閉じると再び静寂が戻る。


〈かり……〉


 いや、静寂など最初から無かった。


〈……かりかり……〉


 俺が気付きたくなかっただけなのだろう。


〈……かりかりかり……〉


 この、馬車の中にはがいる……!


 金属と金属をこすり合わせる嫌な音。


 馬車の一番奥に置かれたおりから聞こえる。


 オークの人達が言っていた危険な物とはこの事だろうか。


〈かりかり〉


 ごくりとつばを飲む。


 ランプを握り、おりを照らす。




 そこに居たのは……、ああ、なんて残酷な事か。


 なんと痛ましいことか。


 目に巻いた布の上から釘を打たれ、かろうじて食事できるために左手だけを残し、他の四肢のけんは断たれている。


 それも小学生くらいの少女が、だ。


 その食事用にだけ残された腕に持ったはしを使っておりの底を傷つけているのだ。


 一旦いったんそれをめ、俺の目の方にピースの形の指をす。


 そしておりの底を指す。


 これを見て、と言う事だろうか。


 〈助けて〉や〈殺してやる〉の文字がびっしりと書かれている中に紛れ、彼女が伝えたいことであろうことが書かれていた。


〈私の名は姫廻ひめぐり 絇鎖理くさりよ。エルフと人間のハーフで、今は奴隷として闘技大会の優勝賞品になっているらしいわ〉


 ……どうやら舌も切られているのだろう。


 そこまでを指でなぞって自分の耳を指す。


 人間と比べると尖った形をした耳だ。


貴方あなたがどんな人なのかは分からないけれど、もし、良い人だとしたら、力ある者なのならば、大会で優勝して私を助けて〉


 手を合わせて頭を下げる。


勿論もちろんお礼はするわ。少し遠くの友人にかなりの値段の物を預けてあるから、それを売ったお金なら私を売るよりも余程よほどもらえるはずよ〉


〈お願い〉


 最後まで文字をなぞってまた頭を下げる。


 今度はより深く、しばらく下げられたままだった。


 馬車の中に本当に静寂が訪れる。


 俺が、本当に力を持つ者だったのならば。


 俺が、物語で見る異世界〇〇した主人公の様に絶対の力を持っていたのならば。


 無尽蔵の魔力、便利な電子機器、あるいは銃火器の知識や全てを見通す目等の間接的なもの。


 どれにしても絶対たりえる力だ。


 どれにしても彼女を救うに足る力だ。


 それに対し、俺はどうだ。


 大して遊んだゲームではないから戦闘能力は平均以下。


 折角せっかくのステータスオープンも使いこなせない。


 ……。




 だから何だ。




 彼等異世界〇〇モノの主人公の皆が初めから力を持っていた訳じゃ無い。


 彼らなりの工夫をこらしているんだ。


 考えずに諦めてはいけない。


 俺なりの工夫をこらして、自分に与えられたものを生かし、無い物を補うんだ。


 そうすれば必ず道は開ける!


 拳を固く握りしめる。




「ああ、任せてくれ。俺が君を解放して見せる」




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―次回予告ー


紅白くれは「今回はエルフの解説だな。分かっているぞー」


紅白くれは「オーク、ゴブリンもそうで、これまでに解説した生き物たちは全てトールキンの指輪物語からのイメージが根付いているのだが、この世界の生き物たちはより古い、神話や伝承に出来る限り基づいている」


てん「ほうほう」


紅白くれは「そして本題のエルフだ。最近のイメージは長い耳と言うのがあるな。トールキンが挿絵の人に耳を長く頼んだところ、ロバの耳になったのが始まりでな、確か。しかし本来は悪魔の様な尖った耳、または人間と同じ外見だったそうだ。ゼルダ〇伝説のハイ〇ル人の耳と言ったら伝わりやすいかな」


てん「はえー(成程、俺の知っているハーフエルフは少し耳が長い。そう言う違いか)」


紅白くれは「後エルフは神に近い存在でもあるらしい」


てん「成程。そう言えば次回予告しといてなんだけど、今回はあんまりタイトルに関係のない話だった」


紅白くれは「うん、良く無かった。次回はタイトルに沿って行こう」


てん「その思いを胸に、次回、『喧嘩絶命トーナメント』。元ネタはケ〇ガ〇アシュラ! 」


てん「次回もステータスオープン! 」


てん「これデュエ〇〇タンバイみたいで好きなんだよな」

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