喧嘩絶命トーナメント(スマホで読まれる方向け)

 「よう兄ちゃん、随分と遅かったじゃねえの。心配して見に行くか話してた所なんだぜ? 」


「すみません、物珍しいものがたくさんあって」


「そうかい、嬉しい事言ってくれるじゃねえの」


「……俺は先に寝させてもらいます」


 皆が焚火を囲む近くに寝袋を置いて潜り込む。


「おう、しっかり寝とけけよー。トーナメントに出るらしいじゃねえか、なんせ俺等はその優勝賞品を運んでるんだからな。応援してるぜ」


 楽しそうに、屈託無く笑う、明るい人達だ。


 そんな彼等が、あんな子供の目を潰し、舌や腱を絶ち、商品として売っている。


 何とも気持ちが悪くなって来た。


 あんなに良い人そうなのに。


 ほら、今だって俺が寝ているから話す声を小さくしてくれている。


 しかしその会話の内容は「ハーフエルフって言っても舌とかは薬として高く売れるんだぜ」や「俺等の村の出身者が捕まえてきたんだ」等、決して善人の口から出る物には感じられない。


 今は耳を閉じよう、考えるのもそう。


 それでは何時いつまでも寝られないから。


 ……。




                *




「おはよう、てん君」


「……ぉはょぅ……」


 変な声が出た。


「彼等は早朝に起きてもう行ったぞ。てん君も支度をすると良い。風呂も沸かせておいた」


 そう言えば昨日は風呂に入ってなかったな。


 え、風呂?


「どう沸かせたの? 正直異世界だから、風呂やトイレみたいな衛生面えいせいめんが気になってて嬉しいんだけど」


「穴を掘って、壁を一度炎で溶かして固める。そしてその後で水を入れる。そうすれば壁の温度で水は熱くなり、風呂の完成だ。土を溶かすために千度くらいの火力と冷やす分にも多くの水を要するから面倒なのだがな」


「はえー、ありがたい」


 ……。




 体を洗う用の海綿かいめん(*海に生息する原始的な生物。現在の合成樹脂製スポンジが出回るまでは死んだこれがスポンジとして使われてきた)も意外と使い心地が悪く無く、水で溶かす洗剤もミントの香りがして元居た世界と比べても大して変わらなかった。


 どうやらこの世界は衛生面においては現代とそう変わらなさそうだ。


 ヘルシングさん、並びにゲーム開発者の皆ありがとう!


てん君、服は乾かしておいたぞ。荷物はまとまっているな? 」


 キャンプ用の最低限の荷物も調味料も詰めてある。


 昨日の事、これからの事は風呂に入っている間に話した。


 


「うん、じゃあ行こう、決戦の舞台へ……! 」




               *




「さあ! 始まりました! 我らが王! 我らが神! 我らが父たるオーク様主催のこの大会! 喧嘩トーナメント! 魔術も呪術も武器も、卑怯な手段だって何でもアリ! ルールはただ一つ! どちらかが死ぬか負けを認めるまで戦い続けろ! 対戦表はこちら!! 」


 司会のオークの眷属の人(良く分かってなかったがオークは一人だけ、それ以外は眷族らしい)が手を広げると、円形闘技場コロシアムの中央に大きな紙が広げられる。


 パット見る感じでは部活の大会で見る、一般的なトーナメント表だ。


 ……成程、紅白くれははシードだから三回勝てば良くて、俺は四回。


 ラッキーな事に俺達は当たるとしても決勝だ。


 ……ん!?


 なにあのシード!?


 右側、王駒おおく 飛角ひかどって人、どれだけ強いんだ……。


「さあ対戦相手は確認できたか!? 選手たち! 戦いの準備はできたか!? 戦士たち! ……それでは、第一回戦の始まりだアァーーーーーッ!! 」


 司会の方が大声を張り上げた。


 耳や目を少し動かしていた紅白が口を開く。


「……この控室に居る我々を除いた全員の姿勢、オーラ。少し見ていたのだが、やはり一番弱い者でも、今のてん君より少し力は上だ」


「……俺が勝つのは中々厳しい……、かな……? 」


「いや、――――――――――――」


「……うん。……ありがとう……! 」




                 *





「よろしくお願いします」


 対戦相手に頭を下げる。


 ざっ、地を蹴る音だ。


 え?


「敵の前で目をらすとは! 随分ずいぶんめられたもんだなァーーーッ! 」


 うえ!?


「我が剣撃は火蜥蜴慟哭サラマンドラがどうこく! 我が一撃には怒りを乗せて!『火竜怒アンガー・ハントオオオオゥッ!」


 入場早々背の赤い剣を抜き放ち、対戦相手が切りかかって来た。


「ステータスオープン! 」


 がきん!


 ステータスオープンは俺の視線に垂直に、障害物が無い場合は最大50cmの距離に出現する。


 土虫の時の様に視線の垂直線上50cm以内に障害物しかない場合を除き、出現時に何かを切断する事はない。


 今回は対戦相手と俺の間に出現させることが出来た。


「我が攻撃は竜頭竜尾りゅうとうりゅうび! 弱まる事は無き連撃なり! 『火蜥蜴尾サラマンドラ・テイル』ウウウウゥッ!! 」


 首の後ろに手を回し、ちょうど正面からは見えない様になっていた剣を抜き放ち、もう一閃。


 紅白くれはには遠く及ばないがそれでも近づいたら火傷する程の熱を持った剣がステータスウィンドウを叩き、そして曲がった。


 一撃目、二撃目共に不発に終わり、両手共に攻撃を出来る姿勢ではない。


「ステータスクローズ!! 」


 叫びながら全身全霊の力を込めた拳を突き出す。


 ステータスウィンドウでちょうど俺の姿は隠れていた。


 そして俺は『』の言葉を言い終えるのが少し遅れたら拳がウィンドウを殴る様に拳を振るった。


 そして相手はウィンドウのすぐ正面。


 警戒のしようもない所から、反応の使用の無い所からの拳。


 これが避けられる物か。




 試合前の会話を思い出す。


 俺がこの中で一番弱いから、勝てるかなと聞いたことに対する返しだ。


「いや、吾輩が見たのは単純な力の総量、てん君の見せてくれたステータスの様なものだ。それだけでは実力そのものは測れ無いよ。てん君は同じくらいの『ステータス』を持つ者の中ではかなり強いほうだ。争いの無い世界の出なのに、よくぞ短期間で練り上げた。それに」


「ステータスウィンドウだってある」


「いいや、大会までの一週間と少し、てん君の修行を手伝ったが、多分君は心の強い人間だ。戦闘でも、それ以外でも、心の強さこそが最強の強さと相場が決まっている。君は勝てる。救えるよ」


「うん、ありがとう……! 」


 


 ステータスウィンドウが解除され、相手の姿が視認できた。


 「おらああああああああああああああああああッ!! 」


 俺の拳は見事に彼に突き刺さった。


 拳の運動エネルギーを全て受け取った彼は数十メートル近くの距離をノーバウンドで吹っ飛ぶ。


 どうやら気を失っている。


 ……俺の、勝利だ!!




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―次回予告ー


てん「ついに戦いが始まったね。」


紅白くれは「うん、ここまで来てやっとまともな戦闘シーンが描かれる」


てん「はは……。ところで、昔のコロシアムで戦った人たち、剣闘士ってどういうシステムだったの? 」


紅白くれは「彼らは筋肉の強固な鎧を身にまとい、逆三角形の美しい肉体をしていた……と、思われがちなのだが、意外なことに脂肪の多い、力士の様な体系だったそうだ。クッションとして深刻な傷を負わない為らしい」


てん「へー」


紅白くれは「次回、『燃え尽きる程ホットな戦い』」


てん「ジョ〇ョの有名なセリフが元ネタだね。それでは! 次回もステータスオープン! 」

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