第3話
朝。
ジュティはすでに起きており、小走りで部屋の中を動いている。
「おはよう!カルロ!」
「ご機嫌だね・・・」
「うん、今日はちょっと早く広場に行こうと思って!」
ジュティの頭の中に、精霊を目覚めさせるという言葉が残っているか、確かめたくなった。まだ10歳の子供である、しょうがないのかも知れないが、最後にノートの話をしたのはいつだったろう?寝起きで上手く頭が働かない。
「ねー、1つ結びがいいかな?それとも2つ?」
「・・・1つ」
どっちでも、というと話が長くなってしまうという事を覚えたので、即断してあげる。
「ありがとー!」
そう言って1つに束ね始めるのだが次にカルロの視界に入った時には2つになっていた。
「カルロまだ寝てる~」
呆れたような声で指摘される。上体を起こしたのはいいのだが、そこから頭も体も働かない。ジュティが暖炉に火をつけてくれているので、温かいのがまた逆効果になっている。鳥のさえずえりも心地よい。
「もう行くね~」
元気な声と共に扉が閉まる音も聞こえた。
「・・・あ・・・」
昨夜の話をするのを忘れてしまった事に気づくのだが、だからといって追いかける様な事でも無い気がして、そのまま現実と夢の間をしばらくさ迷っていた。
「ふんふん~」
音楽を口ずさみながら、広場でスケッチする。
息は白く、手も冷たいが気にならなかった、動けばよい。
朝の広場は、仕事に向かう人達が沢山通る。その姿を見ては何の仕事をしているんだろう?と想像するもの好きだった。
「はあああああっぁ・・」
深呼吸かと思うくらいのため息が横から聞こえてきた。そっと声の方を見ると、ボロボロの服を着た若い男が座っているのが見えた。
おそらく元は白かった服と、羽織っている黒い上着。
スケッチする手を止め、魅入ってしまった。なぜなら、ヒゲのおじちゃんと格好がそっくりなのだ!
これで筒状の帽子をかぶっていれば、完璧である。しかしなぜボロボロになってしまっているのかはわからないが、どうしてボロボロのままなのだろう?
茶色い髪の毛も汚れているし、白い顔も汚れているし、なんだか目が死んでいる。もしこの人をスケッチするとしたら、タイトルはボロボロのオニイサンだ。
ぐぅ~。
ジュティはびくっとした。そのボロボロの、ちょっと臭うオニイサンから発せられたのは分かった。
しかも、この音は空腹で出る音だ。
すると男が顔をこちらに向けた。ジュティが突然動いたため反応したのだろう。数秒見つめ合う少女と男。
「えっと~・・・これ、食べる?」
沈黙を破ったのは少女の方だった。手にあるのは、宿のおばさんに無理を言って作ってもらった、ワッフルだ。
「はちみつもあるから、待ってね・・・」
弁当カゴの中からはちみつを探す。
男は目を輝かせ、少女の挙動を見守っている。ハイ、とはちみつが入った容器を渡すと、男は目に涙を浮かべて感謝してきた。
「ありがとう・・・!ありがとう、君、名前知らないけどありがとう・・・!」
ぐふ、っとのどに詰まらせる音を発しながらもお礼を言い続ける男に、ジュティはちょっと迷惑だな、と思った。
ワッフルを完食し、それでもありがとうと言い続ける。
「オニイサン、おうち、無いの?」
「え・・・無いかな、追い出されちゃったんだ。はは、情けないね」
「食べるものとかも、無いの?」
「無いかな、このご飯も3日ぶりだし・・・」
「・・・お風呂は?」
「え・・・」
ジュティはだんだん顔をしかめて問いかけ始めた。
「お仕事は?」
「え・・・」
沈黙が二人を包む。
「仕事?そうか、仕事か、仕事をしたら、お金が稼げるね!!」
オニイサンが嬉しいそうに喋り出したのでジュティは嬉しい気持ちになった。
「でもその前にお風呂、入った方がいいんじゃないかな?」
男は自分の身なりを改めて確認しているようだった。
「そうだね、でもそのお風呂に入る術がこの僕にはないんだよね、情けないんだけど」
悲しそうな顔に戻ってしまったオニイサンを何とかしてあげたいと思うのだが、何も思いつかない。宿のお風呂は宿に泊まっている人でないと利用出来ない決まりだったので、連れて帰る訳にも行かない。宿に戻れば多少お金を用意することは出来るが、村の人が困った時の為にと渡してくれたお金だ、人にあげてよいものだろうか?
その時近くを人相の悪い露商が通った。本来、この様な表通りにはいないような輩であったのだが、この日は所用があり偶然通りかかっていた。
ちょうどジュティの前を通った瞬間、ジュティのバックと、露商の背負った荷物が少し光った。
露商とジュティは気づきお互いを見る。
が、光はすぐ様消えてしまったため、ジュティは気のせいだと思い目をそらすのだった。露商もまた気のせいと思いそのまま歩みを進めた。
しかしこの光景を見ていた人間がいた。
首にヘビを巻いた、武器商人であった。
「今のはまさか・・・」
この商人もまた、広場には滅多にこないのだが、偶然通りかかっていたのだ。
「ねえオニイサン、ちょっとここで待っててカルロ連れてくるから!」
そういうとジュティは宿に向かって走った。オニイサンは
ジュティはカルロに相談しようと思ったのだ。宿を出る頃はまだ寝ぼけていたようだが、さすがにもう目覚めているだろう。
広場から細い道路に曲がった時、急に体が浮き上がった。
「ひゃあ?」
浮き上がったのは、大男に抱きかかえられたのだった。
「へぁ・・・!」
声を出す間もなく、口を塞がれなす術も無かった。
カルロ・・・!
心の中で救いを求めても声は届かない。
精霊様・・・!
しかし精霊様はいない。
「そのまま屋敷へ・・」
自分を抱える大男とは別の所から声がした。
大男の手によって視界さえも大部分が塞がれていたが、金色の目をした黒いヘビが見えた気がした。
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