第9話 ジュティの決意⑤

なぜ名前を、いやなぜそっちの方の名前を??

「・・ジュティ。でもワッフルって呼ばれたりもする。ママとパパが付けてくれたのは、ジュティの方」

「そうかそうか、これは失礼したな、ジュティ。さぁでは早速それを見せてくれるか?」

精霊が指差す”それ”とは、ノートの事だ。その気になればその力でノートを奪して見る事も出来るが、それはしなかった。

精霊に視線を向けたまま、肩掛けバックからノートをまさぐり出す。

「どうぞ・・・」

目の前にいる、村の神に近しい存在、精霊様。いつも猪突猛進な彼女も、その崇高な存在を前にしては勢いが削がれてしまうようだった。

「ふむふむ、なるほどの」

人間の様に、開いたノートを片手に乗せ、読んでいるようだ。

「ところで娘ジュティ、お前、この字は読めるのか?」

ノートの真ん中ほどのページを開いて見せる。ジュティは読めなかった。最初にヒゲのおじちゃんが見せてくれた、なんだか凄そうな文字だ。

「安心せ。読めぬのは当然じゃ。これを読める人間などそういない」

不安そうな顔する少女に、精霊は気遣いを見せた。

「我がちょいっと、読めるようにしてやろう」ノートを指差し、不思議な力で何かしているようだ。

精霊は楽しそうな声色だが、ジュティはそうでもない。

ヒゲのおじちゃんのノートが、違うものになってしまう、そんな気がしたのだ。


精霊が突然、呆けた声を出した。円を描いていた指も止めてしまっている。

「なんじゃなんじゃ」怒ったような声色だった。「ふむふむ、なるほどの」しかしすぐ落ち着いた声で、何かを理解したようだった。

その一連の動作を凝視する少女にノートを閉じて返す。「ほれ」何かを期待している様な声だ。この精霊はおそらくこの期待に満ちた声が基本なのだ。

ノートを受け取り、全体を軽くめくってみる。読めないページが沢山ある。

「わずかな枚数しか、読めるように出来なかったぞ」なぜだか自慢げな声色なのだ。

「どうして?」純粋な質問である。

「ふむ、それはな、あの男がまだお前に見て欲しくないページだからじゃ」

どういうこと?と続けて質問する。

「ふむ、それはな、それらのページに書かれている”精霊”どもはちと”癖”があってな、危険・・・、とも言えぬがまぁ、あんまり関わって欲しくない輩に思えるのじゃ」

声色が期待を帯びたものからはじまって、少し気まずいものへと変わって行った。

「うむ、我も全ての精霊を知っている訳ではないのじゃが、おそらくそういうことじゃ。面倒な輩どものページは全て変えられなかった」

呆れたような声色だったが、やはりどこか楽しそうでもあった。

「ともかく、今は読める所に行けば良い」


肩掛けバックの紐を強く握る。

読める所へ行けばいい。そう、行けばいい・・・?

「精霊様!」

「なんじゃ?」

「書いている言葉の意味がわからない時はどうしたら!」

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